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緋色の奇術師  作者: オクヒロ
アンノウン編

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第18話 謝罪

 正美の最期を見届け赤子の糸成を保護すると、雷蔵は任務の中止を決断した。翌朝、3人は正美の遺体と糸成を連れて鬼門神社へと帰還する。門を出て、雷蔵が黒子に正美の遺体の引き渡しと報告を済ませると、糸成を抱き抱えた結衣が口を開く。


「2人には申し訳ないけど、私、この子を育てる。姉さんが私に託してくれたこの子を、立派に育てたいの」


 結衣は涙を流しながら、凛とした顔で言う。その眼には、覚悟と強い想いが見て取れた。


「そんな眼ぇ見ちまったら、何も言えねぇよ。てことで、結衣がこう言うんだ。転哉? もう、結婚するしかねぇぞ?」


 真面目な声で言ったかと思えば、雷蔵が茶化しながら転哉を両手で指差し話を振った。3人は、16歳のときからチームを組んできた。雷蔵と転哉は同じ神隠れの里出身で、幼馴染である。奇術師となった2人に、縁あって東京の陰陽師家系である安倍家出身の結衣が加わる。誰が見ても美人と言われる程顔が整っていた結衣に、里の外を知らない転哉は一目惚れした。最初は断っていた結衣だったが、死線を共にし続けその度に猛アピールされ続けた結果、20歳で転哉と付き合い始める。その後、任務がデートという変わった交際となる。それにリーダーとして参加する雷蔵は、2人のことを戦闘中でも隙があれば茶化していた。

 転哉は呆れ気味に雷蔵へ注意すると、結衣を見つめ真面目にプロポーズする。


「お前が彼女出来ないの、そういうところだぞ? 雷蔵。あ〜結衣。雷蔵のせいでこんな形にはなっちゃったけど、良ければ俺に、側でその子と結衣を護らせてください」


 転哉は頭を下げ、右手を差し出す。それに対して。


「プロポーズは、後でちゃんとやり直してね?」


 結衣が、笑顔で転哉の手を取った。


「あ、あぁ。勿論」


 頭を起こした転哉が、結衣の目をしっかりと見て答える。そこへ、雷蔵が水を差す。


「ヒューヒュー! 熱いね〜お2人さん!俺も混ぜて〜」


 2人を抱きしめようとした雷蔵を、転哉が蹴り飛ばした。


「雷蔵! マジでそういうとこだぞ! まったく、23にもなってこれだと先が思いやられるなぁ」


 転哉は深いため息を吐き、結衣は笑った。蹴り飛ばされた雷蔵が、上半身だけ起こすと胡座をかく。


「転哉もこの前、兄貴を亡くした。家族を亡くした者同士、家族の有り難みをお前らは解ってる。転哉と結衣なら、良い親になれるさ。困ったときは、いつでも何でも頼ってくれ。もう、一緒に任務には出れねぇかも知れねぇが、俺達はチームだ」


 珍しく真面目な顔と口調で話した雷蔵の言葉に、転哉と結衣は頷いた。


「その後、結衣は転哉と入籍すると鬼門神社の門を護る“守護神主(しゅごかんぬし)”を務めることを希望したんだ。糸成を護り、育てると誓ったあの場所でな。それからは、お前の記憶どおりだよ、糸成。転哉と結衣は、お前を最後まで護り抜いた。そして、これからは俺がお前を育てる番だ。転哉と結衣は、確かに糸成の本当の両親じゃない。だが、お前を本当に愛していた。その事実だけは、忘れないでやってくれな」


 自分の産みの親。その人の最期を聴いて、糸成は静かに涙を流す。魔人の村で迫害を受け、魔人から攻撃され続けた。自分を捨て、母親だけ生き残ることも出来ただろう。しかし自分を護り抜き、最期には自分を愛していると言ってくれた。自分は愛されていた。その事実が、猛烈に嬉しかった。黙って聴き続けた糸成が、雷蔵の目を見て穏やかな声で言った。


「僕にとって、両親はあの2人だよ。僕を、ここまで育てくれた。そのことに変わりはない。そして、僕に奇術を教えてくれたおじさんも、大切な家族だと思ってる。皆、血の繋がりのない僕を、ここまで育てくれてありがとう。・・・・でも、産みの母さんの墓参りくらいは、行っても良いよね?」


 魔人の村で自分の出生の話をされて以降、糸成の心の中で燻っていた不安と疑問が晴れた。本当の自分が何者かを知れた糸成は、笑顔だった。その後、糸成は雷蔵に魔人の村で知った自分の出生の秘密、魔術を習い新しい技を作り出したことを話す。話が終わった雷蔵は、そのまま転哉と結衣の墓へと向かう。墓の前に着くと、花を手向けた。


「転哉、結衣。糸成が帰ってきたよ。本当の親のことを知っても、お前らのことを両親だと言ってたぜ? 俺のことも家族だってよ。嬉しいこと言ってくれるぜ、まったく。お前らは心配してたけど、糸成にとって転哉と結衣は間違いなく立派な親だったよ。これからも、見守ってやってくれや。それじゃあ、そろそろ行くよ。じゃあな」


 墓を出ようとした雷蔵の背中に、追い風が吹く。雲のない星の輝く夜空を観ながら、転哉と結衣が笑っている気がして、雷蔵は微笑んだ。


 翌朝。糸成は、雷蔵のノックで起こされる。


「糸成、門へ行ってやれ。あいつらが待ってる」


 寝起きで最初は何を言っているのか分からなった糸成だったが、気付いた途端に部屋を飛び出した。寝巻きのまま、服部邸の四脚門へと最短ルートで急ぐ。中庭を横断し母屋から出た糸成の先に、2人が立っていた。


「真矢! 界・・・・」


 糸成が2人の名前を呼び終える前に、真矢が抱きつく。真矢は泣いていた。


「ごめんなさい! ごめんなさい糸成! 私が・・・・私のせいで糸成が・・・・」


 初めて親以外の女性に抱きつかれた糸成は、困惑し赤面した。少しの間どうすれば良いか分からなかったが、震えながら泣いて許しを乞う真矢の背中に、優しく手を回す。


「違うよ? 真矢。僕が選んだんだ。2人が無事で、僕は嬉しいよ」


 罵声を覚悟していた真矢は、優しい言葉に号泣し始める。そこへ、思い詰めた表情で近寄って来た界斗が、砂利の上で土下座した。


「糸成! 本当にすまなかった! 仲間を見捨てた俺達は、本来なら重罪だ。だから、チームの解散も糸成の自由だ。許して貰えるなんて思っちゃいない。俺たちは一生を掛けて、どんな償いにも応えるつもりだ」


 普段明るい界斗の声が、低く緊張していた。

 日本奇術省の任務において、仲間を意図的に切り捨てる行為は重罪である。しかし、今回の糸成の件は下級術師チームの上級魔獣との接敵に加え、“上級魔獣の武装化”という重要な報告を優先したとして、射場真矢と結野界斗の両名に落ち度はないと奇術省に判断された。そのことに、界斗は負い目を感じていた。


「やめてよ界斗。頭を上げてよ。真矢にも言ったけど、僕がしたくてやったことだ。2人に非はないよ」


 界斗は、勢い良く頭を上げた。


「でも!」


 その顔は、昨晩遅くに糸成の生還の知らせを聞き、罪の意識から寝付けなかったことで出来たクマと、今にも泣き出しそうな感情でぐちゃぐちゃになっていた。そんな界斗へ、真矢の頭を撫でて宥める糸成が素直な自分の気持ちを伝える。


「僕はあの日、鬼門神社へ向かう行きの車の中で見た、2人の笑顔を守りたかったんだ。だから、そんな顔しないでよ。どうしても何か償いたいなら、また前みたいに一緒に笑おう?」


 張り詰めていた界斗の心は、その言葉に救われた。それまで溜め込んでいた感情が一気に溢れ出し、両膝を着いたまま声を出さずに男泣きを始める。

 3人は、午後からいつもどおりの訓練を始める。1つだけいつもと違ったのは、訓練中に3人の笑顔が多かったことだ。


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