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緋色の奇術師  作者: オクヒロ
アンノウン編

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第2話 人生の分岐点

 糸成が気を失った数日後の夕方。糸成は、布団の中で目を覚ます。


「目覚めたか? あの日から、高熱で酷く(うな)されてたからな。体調はどうだ?」


 糸成は、雷蔵の問いに答えることなく暗い声色で尋ねる。


「おじさん、狼希と琥珀は?」


 上体を起こした糸成の問いに少し黙った後、雷蔵は伝え辛そうに話した。


「いいか? 糸成。落ち着いて聞くんだ。・・・・狼希と琥珀は、大量の血痕を残して行方不明だ。残念だが、おそらく・・・・もう・・・・」


 糸成は布団の上で項垂(うなだ)れ、希望を失った目からは涙が溢れた。涙を出し尽くし、濡れた布団が少しずつ乾き始めた頃、糸成が口を開く。


「おじさん。おじさんは、あの化け物を倒してたよね? あれを、教えてほしい」


 雷蔵は冷静に、真剣な声色で聞き返す。


「何故?」


「あの男を地の果てまで追いかけて、父さんと母さん、狼希の仇を取る。その為だったら何だってする。だから!」


 声を張り上げた糸成は、布団を握りしめ頭を下げる。その悔しそうな姿を見て、少しの沈黙の後雷蔵が糸成への想いを伝える。


「仇を取ったら、その後はどうする? その先に何が残る? 俺は転哉と結衣に、糸成のことを託されたと思ってる。俺も、糸成のことを本当の息子のように思ってる。そんなお前を、復讐の修羅道に導くと思うのか?」


 雷蔵の言葉に、糸成は頭を下げたまま噛み締めるように言った。


「僕みたいな人間を、これ以上増やしちゃ駄目だ。あいつは、“次だ”と言ってた。あいつは、別の場所でもきっと同じことをする。あいつのせいで理不尽な思いをする人を、一人でも減らしたい!」


 糸成の気持ちのこもった言葉に雷蔵は安堵し、緊張させていた声を優しく変える。


「合格だ。糸成が欲しがってる力は、決して己の私利私欲の為に使ってはならない。お前のその優しい心が有れば、大丈夫だろう」


 糸成は立ち上がり、2人は部屋を出て縁側を歩き出す。


「おじさん、ここは何処なの? 随分立派な日本家屋だけど」


「ここは“神隠れの里”。三重県伊賀市にある、忍者隠れ里の俺の家さ」


 糸成と雷蔵は、縁側から見える険しくも美しい夕日に照らされた山々を見つめる。


「隠れ里? それに、あの怪物。おじさんはあの怪物を殺してた。あの怪物は何? おじさんは忍者だったの?」


「いいか? 糸成。俺は。いや、俺達は奇術師(きじゅつし)だ」


「奇術師?」


 首を傾げて、糸成が聞き返す。


「そう。奇跡の術を操る者、奇術師だ」


「“俺達”ってことは、おじさん以外にもいるの?」


「察しが良いな。転哉と結衣も奇術師だった。2人を殺した男もな。そして、あの怪物は魔獣(まじゅう)魔界(まかい)から来たんだ」


 糸成は困惑したが、実際に目にした事実を受け入れようと聴き入る。雷蔵は縁側に腰を掛け、屋敷内の立派な日本庭園を観ながら説明を続けた。

 この世には、2つの世界が存在する。1つは、人類がいる聖界(せいかい)。もう1つが、魔界と呼ばれている。魔界には魔獣と呼ばれる怪物、人間と外見が瓜二つの魔人(まじん)が住んでいるという。聖界と魔界は、“(もん)”を通じて行き来することが出来る。門の多くは神社や寺、教会などの宗教施設で守護されていることが多い。各国は門と奇術師を管理し、奇術師へは門の防衛や国防の為の諜報活動、工作などの任務が国から与えられる。

 説明を聴いた糸成は、眉を歪ませ考えた後、疑問を聞いた。


「でも、今まで生きてきて魔界のことや魔獣、魔人なんて見たことも聞いたこともないよ?」


「そりゃそうだ。これらは全部、“世界機密事項”だからな」


 聞いたことのない単語に、糸成が首を傾げる。


「世界機密事項?」


 世界秘密事項。それは、国連で決められた世界規模で秘匿される秘密情報。現代兵器が通用せず、奇術師が操る“聖気(せいき)”を用いた攻撃しか効かない魔獣の存在は、人類にとって脅威だった。その存在を知った人類が、パニックを起こすのは必然である。その為、国連は人類の安寧の為に奇術、魔界に関する情報の一切を隠すことを決定した。


「でも、魔獣や奇術師の噂話だけなら、糸成も聴いたことあると思うぜ?」


 雷蔵の言葉に、全く心当たりがない糸成は腕を組み考える。その後、雷蔵は歴史に隠れた魔獣や奇術師の存在を語り始めた。

 奇術の歴史は古い。奇術は、いつどこで誰が始めたのか、その起源は不明である。しかし、人類が知る表の歴史でも、奇術師は確認されている。ある国では仙人として、ある国では悪魔祓いとして、ある時代には魔女として。世界各地にいた奇術師達は、あるときは英雄や伝説として敬われ、あるときは魔女狩りなどと称して迫害された。そして、日本の歴史にも奇術師が表舞台に立っていたときがある。それは、陰陽師や忍者である。奇術師だった彼らは、時の権力者の懐刀として活動していた。

 魔獣についても同様である。国家が、門とそれを守護する奇術師を管理したことにより、現代社会でその存在を目にする一般人は皆無である。しかし、門の管理が国によって行き届いていなかった時代。聖界へ紛れ込んだ魔獣は、世界各地で人類を襲った。そして、魔獣に襲われたことが悪魔や妖怪の仕業として、後世に言い伝えられている。

 衝撃の話の数々に、糸成は終始目を丸くしていた。少し驚きが落ち着くと、“傷の男”のことも質問する。


「皆を殺したあの男は、何者なの?」


 知らないことの連続でさっきまで夢中になって聞いていた糸成の目が、深く暗く、殺気立つ。


「悪いが、俺はそいつを見てない。すまんな」


 糸成は気付かなかったが、明らかに雷蔵は何かを隠していた。


「修行は、明日から始めてやる。だから、今日はもう休め」


 その日の夜。糸成は1人、布団の中で泣いていた。


「皆の仇は・・・・僕が取る。だから、もう少し待ってて」


 そう言って、右手首に巻き着けた緋色に輝く組紐の御守りを、左手で握り締めた。部屋の外で、雷蔵はそんな糸成を静かに見守る。


 これは大狼糸成の、奇術師としての人生の記録である。


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