表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緋色の奇術師  作者: オクヒロ
アンノウン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/42

第16話 足りないもの

 コマンスマン村を出発した糸成は、ツネから教えてもらった北東、鬼門神社の門へ向かって走る。走りながら、苦無を服部邸の自室に1本置いておくべきだったと、糸成は後悔した。5キロほど進むと、右手に紅魔の森が見えてきた。森の中から、戦闘音が聞こえてくる。糸成は、進路を紅魔の森へと変えた。紅魔の森に侵入すると、聞こえる戦闘音は益々大きくなる。暫く進むと、木が開けた空間に出た。糸成は足を止める。そこには、4ヶ月前任務で赴いた洞窟が見えた。


「また会ったね。悪いけど、今日は勝たせて貰うよ?」


 地響きの様な足音と金属を引きずる音が、洞窟に鳴り響く。糸成は、左手で大太刀を引きずる隻腕の赤鬼と対峙した。

 治療を受けた4ヶ月間。糸成は赤鬼との戦闘を思い出し、敗因を常に考え、魔術の修行をしていた。どうすれば、あのとき勝てたのか。自分には、何が足りなかったのか。そして、糸成は1つの答えに辿り着く。それは、単純明快だった。

 糸成は4ヶ月前と同じく、武装した赤鬼に真っ向から挑んだ。赤鬼が雄叫びを上げ、大太刀を振り下ろす。それを糸成は寸前で躱し、右手を赤鬼の胸に当てた。


緋掌(ひしょう)


 鬼の体と糸成の右手のひらの隙間から、緋色の閃光が走る。途端に、赤鬼の胸に直径1メートル程の球状の風穴が開いた。

 糸成の答え。それは“火力”だった。


 2ヶ月前。ツネの家の屋根を吹き飛ばした翌日。糸成は、村から離れた岩場で実験をしていた。家で何となく行った、聖気と魔気の融合。それを安全な場所で、正確な比率で再び行う。1対1の比率で融合された聖気と魔気は真珠の様な光沢のある赤い玉となり、融合を止めると紅色に輝き爆発した。それは正に、糸成が欲していた力だった。糸成は、この技を“聖魔融合(せいまゆうごう)”、融合して現れる赤い玉を“赤核(しゃっかく)”と名付け、残りの2ヶ月を聖魔融合の研究に費やした。『緋掌』は、その間に開発した技である。手のひら上で聖気3、魔気7で融合された赤核は、瞬間的に強力な重力を発生させ、出力に応じて空間を押し潰し、塵も残さずに球状の風穴を開ける。小規模のブラックホールの様な現象を起こす。


 大きな風穴を胴体に空けられた赤鬼の身体は、音を立てて崩れ落ちた。


「よしっ!」


 糸成がガッツポーズする。今まで、糸成には『影狼』以外で得意な術式、魔術が無かった。結界術以外、無難にこなせる。それは、良く言えば万能。悪く言えば器用貧乏。特質した“何か”がなかった。そして今回。新しく発見した聖魔融合が、上級魔獣に通用したことで糸成は確信する。自分の“術師”として進むべき道は、これだと。

 リベンジマッチを制した糸成は、紅魔の森中央、戦闘音がする方角へと向かう。


 紅魔の森中央、木の開けた東京ドーム程の赤茶色の原っぱ。そこに、鬼種が簡易的な木製の砦を築き、討伐に赴いた上級術師3名、中級術師5名が武装した赤鬼15体、青鬼50体を相手に乱戦していた。


「永芳隊長! 梅田が負傷し重症! 後退して治療します!」


「了解! クソっ・・・・。これで3人目だ。もう後が無い!」


 奇術師達の奮闘で、赤鬼5体、青鬼13体まで数を減らした。しかし、奇術師側の被害も酷く、負傷者とその処置で上級術師1名、中級術師2名まで戦力を削られていた。そこへ、糸成が参戦する。


「加勢します!」


 そう言って、糸成は戦場の中央に飛び降りた。突然の加勢に反応出来ていなかった赤鬼を1体、『緋掌』で仕留める。それを見て、上級術師の永芳が糸成へ指示を出す。


「俺が赤鬼達の注意を引く! その間に、君は後ろから仕留めてくれ! 鈴木と藤澤は、青鬼達を殲滅しろ!」


「了解!」


 糸成と鈴木、藤澤中級術師が声を揃える。永芳が、2本の刀で3体の赤鬼達の大太刀や斧による攻撃を捌き、気を引き付けた。引き付け漏らした1体が、糸成へ向かって来る。それに対して、糸成は苦無を赤鬼の顔目掛けて投げ、突進した。肉体強化状態で投げられた苦無の速度は、時速300キロメートルに達する。常人では目で追えない速さで迫る苦無を、赤鬼は突進してくる糸成に対応する為、首を横に反らして容易く避けた。その瞬間。


『影狼』


 避けられた空中の苦無へ転移した糸成は、赤鬼の背後を取った。左手で苦無を掴むと、身体を捻り右手で赤鬼の後頭部に触れる。


『緋掌』


 緋色の閃光と共に、赤鬼の頭は消し飛んだ。


「よし! 次!」


 着地した糸成は、直ぐに永芳の引き付けた赤鬼を討伐する為、走る。赤鬼の背後を取ろうとする糸成を見た永芳が、1体の赤鬼の体勢を崩した。糸成は、それを見逃さない。背後から忍び寄ると、体勢を崩した赤鬼の背中に触れ『緋掌』を放ち、赤鬼を討伐した。赤鬼が2体まで減り余裕が出来た永芳は、一歩下がると刀に刻まれた術式を繰り出す。


斬飜双月(ざんはんそうげつ)


 永芳が素早く振るった刀から光の斬撃が飛び出し、2体の赤鬼の胴を其々バッテンに切り裂く。赤鬼は、傷口から大量の血を噴き出し倒れた。疲労で膝を着いた永芳の元へ、青鬼を討伐し終えた鈴木が合流し、永芳に肩を貸しながら報告する。


「青鬼の殲滅、完了しました。永芳隊長、ご無事ですか?」


「あぁ。ありがとう。何とか殺り終えたな。君が来てくれなければ、全滅もあり得た。本当に助かったよ」


 鈴木に肩を貸して貰いながら、糸成へ近づいた永芳は御礼を言った。


「しかし、増援が来るとは聞いていない。君は随分若いが、上級術師だろう? 何故ここに?」


 永芳を隊長とした部隊の任務は、再び紅魔の森に陣取り武装化した鬼種の討伐であった。現地の魔人からヤマト王国を経由し、奇術省へ届いた情報では赤鬼の数は5体前後だった。討伐隊の偵察時、目視出来た赤鬼の数は5体。情報どおりと判断した永芳は、殲滅作戦を開始した。順調に大規模術式を駆使して数を減らした討伐隊だったが、木製の建物の中からぞろぞろと完全武装した赤鬼が姿を現す。既に砦内で戦闘をしていた討伐隊は、直ぐに赤鬼を含む鬼達に囲まれ乱戦となる。そんなジリ貧状態なところへ、糸成が参戦したのだった。


「いいえ。僕は下級術師です。ここから南西にある魔人の村から、鬼門神社の門に向かっていたところにここの戦闘音が聞こえてきたので、立ち寄りました」


 淡々と答える糸成に、永芳は耳を疑う。“下級”術師。中級術師数人掛でも手を焼く赤鬼を、糸成は容易く倒して見せた。その戦闘力は、自分達上級術師に匹敵する。永芳はそう感じていた。そして同時に、若くしてこの戦闘力を有する糸成の様な逸材が、服部特権術師の様な人間を超越した領域に至るのかも知れないとも。

 内心驚きつつも、永芳は表に出さなかった。落ち着いた声色で改めて御礼を言い、提案をする。


「そうか、だが君に助けられたことに変わりはない。ありがとう。すまないが、負傷者が複数いる。鬼門神社まで帰還するのに、手を貸してくれないか?」


「僕でお力になれるのなら、喜んで!」


 永芳が右手を差し出し、糸成はそれに応えて握手した。そこへ、藤澤が近寄って来る。そして、悔しそうに言葉を詰まらせながら報告する。


「隊長。梅田が・・・・間に合いませんでした」


 糸成の話を聴いても顔色ひとつ変えなかった永芳が血相を変え、鈴木に肩を借りながら梅田へ駆け寄った。永芳は倒れた梅田の横に座ると、悔しさで震えた声で声を掛け、梅田の肩にそっと手を伸ばす。


「梅田・・・・すまない。御苦労だった」


 糸成は、面識がないとはいえ同じ奇術師の先輩の死を初めて目にした。奇術師の彼の死は、警察や自衛隊の殉職者の様に世間に称えられることは、決してない。しかし、認知されずとも国民のために命を懸けた彼に、糸成は敬礼した。冷たい風が、赤茶色の芝生と紅い森の木々を靡かせる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ