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緋色の奇術師  作者: オクヒロ
アンノウン編

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第11話 想定外

 紅魔の森に着いたとき。真矢と界斗だけが、息を切らしていた。界斗が息を整える。


「よし、お喋りはここまで。ここからは、常に臨戦体勢で行動する。いつ、木の裏から鬼が出て来てもおかしくないからな」


 界斗の声掛けで、糸成、真矢、界斗の順で隊列を組み、直径10メートル、高さ50メートル程の大木の間を慎重に進んで行く。暫く森を進んだ先で、先頭の糸成が50センチ程の人の足跡の様なものを見つけた。


「2人共止まって。この先、東に向かって約10体、いやそれ以上かも。青鬼が集団行動してる」


「狩をしてたってだけあるな。流石だぜ、糸成。よし、足跡を辿ってみよう」


 界斗が褒めると、糸成が照れ笑いする。3人は、足跡がある獣道を慎重に進んだ。大きな川を飛び越え、崖に沿って進むと木の開けた場所で高さ7メートル、幅3メートル程の大きな洞窟に辿り着く。足跡は中へと続いており、別の場所からも複数体分の足跡が見つかった。そこで、界斗が作戦を立てる。


「よし。この洞窟に、約20〜25体程の青鬼がいると仮定する。中の構造は不明だ。よって、通路が入り口程の大きさなら、先頭の糸成が1体ずつ処理、真矢と俺が援護。広い空間に出たら、俺と真矢の範囲攻撃で殲滅する。良いな? それから真矢、『刹火の矢』は使うな。洞窟の崩落や酸欠を起こす可能性がある」


「了解」


 糸成、真矢が声を揃える。3人は、隊列を維持して洞窟へ入った。洞窟の中は緩やかな登り坂になっていて、50メートル程進んだところで5体の青鬼が、3人へ向かって歩いて来る。3人はアイコンタクトを取ると、青鬼に奇襲を仕掛けた。隊列最後尾の界斗が、右手を前に突き出す。


『二重結界 二影(にえい)


 右手中指の指輪が光ると、界斗の前に二重の術式が浮かび上がる。すると、糸成と真矢の背後から白い閃光が飛び出し、暗い洞窟を眩しく照らすと青鬼の視力を奪った。すかさず、怯んだ先頭の青鬼へ真矢が2本同時に矢を放つ。


縦氷華(ひょうか)の矢』


 矢が2体の青鬼の胸に其々命中すると、体内から一輪の氷の花が咲き、青鬼を内側から貫く。倒れる2体の青鬼を飛び越えて、糸成が残りの3体に突進する。


『金剛一閃』


 青鬼達を通り過ぎた糸成が、刀を納刀する。(つば)と鞘が当たる音が洞窟内に響くと、3体の青鬼の斬られた上半身が下半身から地面へと滑り落ちる。界斗が、作戦続行のハンドサインを出した。糸成と真矢は頷き、無音のまま道を再び進む。接敵場所からさらに50メートル程進むと、テニスコート3面分程の空間が広がっていた。洞窟の道とは異なり各所に松明が置かれ、空間全体を把握するには充分の視認性だった。3人で慎重に中を確認する。覗くと、視認できるだけでも20体程の青鬼が、武器や革鎧を造っていた。それは、まるで武器屋の工房の様だった。青鬼の等級は下級だが、そんな魔獣でも集団で武器、武具を装備したとなれば話が変わってくる。等級の見直しも考慮しなければならない。3人は即座にそれを理解し、攻撃態勢に入る。界斗が、左手を前に突き出した。


風雷陣(ふうらいじん)


 左手中指の指輪が光ると、広場の天井中央を中心に大きな術式が浮かび上がる。複数の青鬼が、それに気付いた。しかし、回避よりも速く術が発動する。轟音と共に、電撃と切り裂く様な小規模の竜巻が術式から幾つも降り出し、青鬼達を襲う。電撃に焼かれる者、風にずたずたに引き裂かれる者。広場には血と肉の焼ける匂いが漂った。

 術式の攻撃が終わる頃。撃ち漏らした数体を、糸成と真矢が即座に討伐する。洞窟内の制圧が終わり、広場中央に3人が集まった。


「終わったな。それにしても、単独行動が多いはずの鬼種がこんなにも群れるなんて・・・・。それに見ろよこれ。武器を造ってる。魔獣がだぞ?」


 界斗が武器を手に取る。それは、人類の造るものには到底及ばない。だが、魔獣の脅威を知る3人にとっては、魔獣の武装化は想像しただけで鳥肌が立った。真矢が、動揺しつつも界斗の言葉に返す。


「そうね。これは逸早く、奇術省への報告が必要な案件だわ。直ぐに帰還しましょう?」


 真矢の提案を界斗は受け入れ、洞窟の通路を戻り始める。戦闘が終わり、緊張の糸が少し緩んだ糸成が、界斗に声を掛けた。


「それにしても、界斗の『風雷陣』凄い威力だったね! あんな大規模術式初めて見たよ」


「ありがとよ。あれは、動きのとろい奴らを殲滅するには打って付けの術式だからな。でも、先生はもっとスゲェぜ? 術式で山一つ消しちまうからなぁ!」


「え⁉︎ マジ?」


 糸成にとって、奇術師と知る前の雷蔵の印象は、優しいおちゃらけた近所のおじさんだった。奇術師になる為の修行中。体術や剣術などの戦闘訓練で、雷蔵の技量は弛まぬ努力の結晶であると全くの素人である糸成が感じる程、雷蔵の技は型に忠実で洗練されていた。糸成はその体験から、それまで自分が知っていた雷蔵は、彼のほんの一部に過ぎないのだと思い知らされた。しかし、家族を一度に亡くした糸成に孤独を感じさせない程、雷蔵の糸成への接し方は今までどおりだった。そんな雷蔵に、糸成の心は救われていた。だが、雷蔵の奇術師としての力量を、糸成はまだ知らない。


「大マジよ。一緒に任務で魔界に来たとき、上級魔獣2体と接敵したんだけど。“かっこいいところを見せたかった”とか言って、魔獣を山ごと消し飛ばしちゃったのよ。いくら凄いとはいえ、やり過ぎよね? あのときは笑っちゃったわ」


 真矢が呆れた様に話した。真矢や界斗にも、自分と同じ様な接し方をしていたことを知り、糸成は雷蔵のいつも目にする姿が彼の素の姿なのだと安心した。その後も、3人は雷蔵の修行中の奇行や悪ふざけの話で盛り上がりながら、来た道を帰る。このとき、3人は決して油断はしていなかった。20体以上の鬼種の集団行動。武器や武具を造る異常行動。どれも、前例のない異常事態。奇術省へ逸早く報告することが必要という判断に、間違いはなかった。しかし、3人共最悪の事態を考慮出来ていなかった。この後直ぐ、真矢と界斗はそのことを後悔することとなる。


 洞窟を出て、鬼門神社の門へ戻ろうとしたときだった。全員が森の中の魔獣の気配に気付き、臨戦体勢を取った。その瞬間、目にも留まらぬ速さで魔獣の影が左前方の木々の合間から飛び出す。瞬時に糸成は刀で受けの体勢、界斗が『断隔』を発動した。しかし、魔獣の一撃に『断隔』は砕け、糸成と界斗が吹き飛ばされる。


「界斗! 糸成!」


 後ろへ跳んだ真矢だけが、攻撃を回避していた。瞬時に防御態勢を取った2人は致命傷を避けたものの、糸成は左の肋を粉砕、界斗の左前腕は(ひしゃ)げた。


「あ、あれは・・・・あのとき門から出てきた・・・・」


糸成は、鬼門神社襲撃事件を思い出す。そして、界斗が震える声で言った。


(あか)・・・・(おに)・・・・」


 そこには、右手に出来の悪い大太刀を持ち、革鎧を着た赤鬼が立っていた。

 赤鬼。その等級は上級。甲角百足を上回る硬質の肌に、5メートルの巨体を持つ。犬並みに優れた嗅覚で獲物を追い、その巨躯からは想像できないうさぎの様な機敏性と移動速度で獲物を狩る。下級術師のみで戦闘した場合、その生存率は極僅かである。そんな魔獣に、界斗が恐怖する。糸成と界斗に追撃しようとする赤鬼の背後へ、真矢が矢を射った。


『刹火の矢』


 赤鬼の背中に命中すると、赤鬼は爆煙に包まれた。


「今のうちに逃げるわよ!」


 赤鬼が雄叫びを上げる。すると、その風圧で爆煙が瞬時に拡散する。煙から出た赤鬼は、無傷だった。攻撃を受けた赤鬼は、攻撃対象を2人から真矢へと移す。


「嘘でしょ⁈」


 後ろへ下がりながら次の矢を射ろうとする真矢に、赤鬼が目の前まで迫る。赤鬼が大太刀を振りかぶって振り下ろすその刹那、真矢には視界がスローモーションで見えた。すると、真矢の視界の端に飛んでくる1本の持ち手の赤い苦無が映る。大太刀が振り迫ると同時に、苦無が真矢の目の前に来る。


影狼(かげろう)


 真矢が瞬きすると、目の前を飛ぶ苦無の横に糸成が立っている。糸成の転移術式は、完成していた。


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