第11話 ヨミの本音
私の中にあった怒りも悲しみも、全て『苦邪駆』に捧げたことで、どれだけサガ兄のことを大切に思ってるか、理解できた。
すッッッごく大きな感情。
正直、ここまでの気持ちを持ってるとは思ってなかったから、これを知って、私はとても驚いた。
でも、その気持ちを知った時、驚きと同時に安心もしたの。
あぁ……私、ちゃんと、サガ兄のことが大好きなんだ、て。
助けられた相手に良い気持ちを向けないのは失礼だからって理由で、嘘の感情を作ってた───訳じゃないことがハッキリして、心底ホッとした。
今なら断言できる。
私はサガ兄が好き。───こんなことを言うのは良くないって分かってるけど……亡くなったお母さん・お父さんよりも好きだって、断言できる。
いつの間に、こんなに好きになったんだろ? て思うレベルで好き。大好き。愛してる。
今までは “何か” が───憎しみが隠してたから気付けなかった。
でも、今はそうじゃない。
余分な感情は全て『苦邪駆』が持ってってくれた。だから、ハッキリと分かる!
亡くなった家族のことは忘れない。忘れられない。
壊された故郷の景色も、遊べなくなった友達のことも───私が大好きだったお母さん・お父さんのことも。
これからもずっと引きずっていく。
そうなるとなんとなく分かる。
でも、もう立ち止まらない。もう、後ろを見て止まるのはやめた。
───サガ兄と出会えたから。
お母さん・お父さんよりも大事だと思える人に会えたから。
この人と一緒に歩きたいから。
………だから。
だから。
───だから。
私を見守ってて、皆。
「サガ兄、大好き!」
私が『苦邪駆』を出せたのは、私の中の “何か” を見つけられたからだけじゃない。
つらい過去に区切りを付けられたのも大きな理由だと思う。
自分の気持ちを整理できたら───自然と、サガ兄に対する想いが溢れてた。
圧倒的。
もう一人の私『苦邪駆』の力は凄かった。
熱に冷たい空気・風を自在に作ったり操れるようになってて、私が道場で覚えた技に “それ” を乗せられる。
サガ兄の武器に勝るとも劣らない力。
とても気持ちよかった。
サガ兄が相手だからこそ、遠慮しなくて済む。
私の『苦邪駆』を全力で解放しても死なないサガ兄が相手だったこそ、私は『苦邪駆』をしっかり試せた。
でも、同時に不安が芽生える。
全力の『苦邪駆』は確かに強い。───強すぎる。
サガ兄を追い越しちゃったんじゃ、て怖くなった。
力が欲しかったのはサガ兄と一緒に未来に進むため。
別に、追い越した所で、サガ兄に着いて行くのは変わらない。
けど………なんでかな?
サガ兄が私より弱いのは、なんか “嫌” だった。
でもでも、そんな私の不安はすぐに無くなった。
サガ兄がミスリルで作った鎧を纏ったの!
鎧……なのかな? 今まで見たことない形の鎧。
見ただけで分かった。サガ兄の鎧にはとんでもない量のエネルギーが込められてる。あれを着たサガ兄はとんでもなく強い!
それがすぐに分かった。分かったから───
「サガ兄! 最ッ高!!」
追い越したと思ったら、簡単に追い付いてくれる。
いつも私の前に出て、私の手を引っ張ってくれる、私の大好きな尊敬する人。
サガ兄は私を一人にしない。
それがよく分かったから。
とても興奮して、ついつい「最高」なんて言葉が出てた。
あれから何度もサガ兄に攻撃されて、私も攻撃して。
いつの間にか、私は防戦一方になってた。
サガ兄が抜いた剣……カタナ?
名前は『死季塞翁』。
どんなに強い人が相手でも、必ず “身体能力で逆転するために” 作ったサガ兄の切り札。
作った時は、あまりにも強すぎる武器の力に「このままじゃ扱えない」とボヤいてた武器!
ちゃんと使えるようにしてたんだ……!
死季塞翁を持ったサガ兄は凄かった。
ミスリルの鎧を着た時でも、接近戦は私の方が強かったのに、その接近戦で、まるで歯が立たない。
まず避けられない。
気付いたら距離を詰められて、攻撃される。
そして、とてつもない力!
私は『苦邪駆』のおかげで、攻撃されても、あまり痛いと思わなくなっていた。
なのに、死季塞翁を持ったサガ兄の攻撃は痛い! とッても痛い!
一発食らうだけで凄い吹っ飛ばされちゃう。踏ん張りも効かない。
なんとか反撃しようとするんだけど、どんな攻撃でも躱されちゃう。
サガ兄、速すぎる!
凄い、凄いッ、凄い!
これがサガ兄なんだ!!
私の全力でも敵わなくて、『苦邪駆』ていうすッッッごい力を使っても届かない!
常に私の前に居る。私に頼りになる背中を見せてくれる。
これがサガ兄の全力!
サガ兄と全力の戦いができて楽しい!
サガ兄の全力が見れて嬉しい!
サガ兄の全力が「凄い」と知れて、胸がいっぱいになる。他の人に自慢したいくらい。
あぁ……サガ兄、サガ兄ッ、サガ兄ィ!
サガ兄サガ兄サガ兄!
サガ兄サガ兄サガ兄サガ兄サガ兄!!
サガ兄サガ兄サガ兄サガ兄サガ兄サガ兄サガ兄!!!
サガ兄サガ兄サガ兄サガ兄サガ兄サガ兄サガ兄サガ兄サガ兄サガ兄!!!!
サガ兄───愛してる。
「───」
私、どんな顔してたんだろ?
サガ兄に吹っ飛ばれて、倒れて………そこから起き上がって、サガ兄を見た。
そんな私を見て、サガ兄が驚いたように止まったの。
───その瞬間、サガ兄の力が抜ける。
膝の力が急に抜けたみたいに、重心が下がったの。
倒れてはない。膝も、かろうじて地面に着いてない。
でも、サガ兄の体は震えてた。まるで、何かを堪えるみたいに。
───チャンス!
私は左の掌をサガ兄に向ける。
私が出してる『苦邪駆』も、私の動きを真似して、左手を前に出した。
凄く冷たい風がいっぱいサガ兄に向かう。
「───ッ!」
サガ兄は、盾にするみたいに、死季塞翁を体の前で斜めに構えた。
けど、それだけ。
白くて冷たい風に呑まれたサガ兄は一気に凍り付いていく。
サガ兄が着ている鎧は熱を出す力もあるみたい。
そのせいで、完全には凍り付いてない。凍ってない箇所が何ヶ所かあって、そこの凍結は進まない。
でも、いいの。
私の目的はサガ兄の脚を止めることだから。
私は両手をお腹の前に持ってきて、上下左右逆さまになるように、左右の掌を見せ合う。
掌の間に、私の握り拳より少し大きい火の玉ができた。
私は火力を上げて、火の玉の大きさを上げようとする。と、同時に、風の力で火の玉を押し潰そうとした。
大きくする作業と小さくする作業を同時に進める。矛盾した動き。
そのせいで、火の玉の大きさは変わらない。
けど、確実に、エネルギーは溜め込めてる!
少しでも風の力を弱めたら爆発しちゃう。
今にも、爆発するために光を強くする火の玉。
まだ……まだ、まだ!
もっともっと! もっと熱を込めないと!
限界ギリギリまで熱を注ぎ続ける。
私は『苦邪駆』のおかげで無事だけど、もし、火の玉に、生身で触れたら、一瞬で真っ黒になって崩れちゃうと思う。
限界以上の “熱” を込める。───サガ兄に対する気持ちと同じになるくらいに!
顔が蕩けそうになる。
“これ” を撃てることが嬉しい。
“これ” を届けられることが嬉しい。
何より、サガ兄の正面に立ててることが嬉しい!
私は技名が嫌い。
技名を言うのは恥ずかしいし、子供っぽいと思うから。
大人の女性になろうとしてる私が言うのは間違ってると思う。
だから、この技名も言わない。
だから、心の中で呟こう。
私の気持ちを代弁した “これ” に相応しい名前を。
本当に本当に───愛してる。
───『芽吹依愛』。
溜め込んだ熱の玉をサガ兄に放つ。
火の玉はすぐに凍って動けないサガ兄の下へ向かい。
次の瞬間には、視界全てが光で包まれた───。
「ハァッ、ハァッ───」
息切れしてることに気付く。
戦いに夢中で分からなかったけど、かなり体力を消耗してたみたい。
正直、かなり体が重い。
でも、対称的に、心は軽やかだった。
これまで溜め込んできた気持ちを一気に吐き出せたからかな?
人生で一番スッキリしてる。
辺りは未だ黒い煙が覆い、視界が晴れない。
メフィア、とんでもない威力だったなぁ。
私が『苦邪駆』で出した熱より倍近く、当たる範囲も強さも大きかったと思う。
爆発の後、まるで地面から分厚い雲が昇るかのように、黒い煙が空の雲と繋がった。
「ふぅ───」
やっと息が整ってきた。
おかげで思考も回るようになる。
そこで、ふと思い出した。
───あの爆発の中心にサガ兄が居たことに。
一気に顔が青褪める。
そうだ、ホッとしてる場合じゃない!
自分で撃っておいて何を、と思うかもしれないけど、別にサガ兄に死んで欲しい訳じゃない。むしろ逆。
戦ってる時は夢中になり過ぎて、自分の限界を引き出すこと以外、何も考えてなかった!
「さ、サガ兄!」
私はサガ兄の下に駆け出す。村の近くに『キラーピッグ』が現れた時以来の焦りに襲われて。
煙を掻き分け、さっきサガ兄が立ってた地点へ。
そこには───
「ふぅ…………そんな大声で叫ばなくても聞こえてるよッ」
そこには、局部の物は残っているものの、衣服のほとんどが焼かれて消えて、全身に大火傷を負ったサガ兄が立ってた。
「───」
まさか無事だなんて思わなかったから、驚いた。
驚きで尻もちを着いてしまう。
あぁ……あぁ……! これがサガ兄……! これが私の想い人!
あの攻撃を受けても立ち続けて、私よりも “強い ” と証明してくれる人。
私を一人にしないと行動で示してくれる人。
あぁ……あぁ……!
私に手を差し伸べてくれたのがサガ兄で良かった……!
□□□
【サガ視点】
あ、危なかった……!
ヨミの奴、ホントに加減を知らないな。
もう少し防御が遅かったら、本当に死んでたんじゃないか……?
この戦いでイージスを使った時、またイージスを使わなきゃいけない時が来るんじゃないか? と思った俺は、再度、魂術でイージスを準備し、力を送り続けていた。
だから、ヨミが最後の攻撃を放つ前にイージスを展開できた。
当然、『銀閃』の五重電磁バリアもイージスの後ろに展開。
イージスは破られるだろうから、『死季塞翁』内の莫大なエネルギーを無理やり引き出し、爆発の威力相殺のために使用。
さらに、『銀閃』の硬さ───つまりは防御力を信じた。
………んまぁ、ここまでやっても、防御は全て破られ、『死季塞翁』はオシャカ。『銀閃』も完璧に吹き飛んで、大火傷って。
割に合わねェ。どんな威力だよ、まったく。
火傷は半身だけだったってのに、今じゃ全身まで広がってらァ。
あ〜、クソ! 疲れたァ。
死ななくて良かったァ〜〜〜。
俺はヨミの後に腰を下ろす。
「検証実験はもういいだろッ。クタクタだァ。帰ろうぜ」
「…………うん」
俺は正面を見るのもダルくて、下を向きながら、ヨミに提案する。
「大体の技はもう試せたろ? 俺も粗方作った武器は試せた。十分だ十分! もしまだ試してない技があつたとしても、また今度にしてくれッ、頼むからッッ」
「うんッ」
ヨミが提案を飲んでくれてホッとする。
「………」
まさかヨミがここまで力を付けてるとはなァ。
あの……『クジャク』とか言ったっけ? ヨミが使えるってことは、使える奴は他にも居るってことだよな? 俺の知らない技術ということは、道場で教えてもらったってことだし。
威力や規模から考えて、道場の奥義に位置する技であることは確かだ。それでも、ヨミと同等か、それ以上の実力を持った奴が複数存在するという事実。
そして、そんな実力者が居るにも関わらず、『ライラック』は壊滅した。
「……………」
マジかァ。けっこう力付けたつもりだったのに、確実に生き残るにはまだ足りねェのかよ。
自分で言うのもなんだけど、短期間でけっこうなチート武器揃えたんだぞ、オイ。
魂術はハッキリ言ってチートだ。
いや、“前世の知識と絡めた” 魂術は、て言い直すべきか。
正直、色々な記憶を思い出せば出すほど、なんでこんなに豊富な知識を持ってるんだ? て疑問が出てくるんだよなァ。自分のことなのに引くレベル。
おかげで技術開発には事欠かないけど……俺の前世、知識オタクかなんかだったのか? コアなクイズ番組に出てたりして。
ゲーム知識にしたってそうだ。
情報誌の隅っこの方に乗ってるコラムまで、なんで事細かに覚えてるんですかね〜?
マジ引く。引くわ〜。
最近、前世を思い出すのがちょっと怖くなってるんだよなァ。だって別人にしか思えねェんだもん。思い出すことで前世の俺に成り代わられるんじゃ、て思ったり思わなかったり。
まぁ、情報は大事な武器だ。
覚えてる分には問題ない、か?
成り代わりの件も、俺がしっかりと自我を保っておけば問題ない。うん! そう思い込もう!
とにかく、そんなオタク知識の粋を活かして、様々な武器を作り出した訳だけど……まだ足りないのは地味にショックだな。
あんなに心血注いだのに。
また技術開発しなきゃな〜。
ヨミから『クジャク』についても教えてもらって───
と、俺が今後の展望を考えていると。
「サガ兄、大好き」
「……………」
煽ってんのか? コイツ。
裏話
サガの前世ですが、知識オタク的気質があったのは間違いありません。
生粋のゲームオタクだった彼ですが、一度疑問に思ったことは、答えを得られるまで調べるのをやめられない性格の持ち主でもありました。
例えば、ゲームで、主人公達があれこれ工夫して大爆発を起こす、という展開があるとしましょう。すると、どうしてそれで大爆発が起きるんだ? 自分が主人公と同じことをして、本当に大爆発が起こせるのか? そもそも、爆発とはどうして起こるんだ? などなど、複数の疑問を持ちます。疑問を抱いてしまうのです。
そこからは調査タイムです。基本はネットで、時には専門書まで買って、疑問解決に勤しみます。そのせいで、彼はゲームオタクでありながら、知識オタクにもなったのです。




