第10話 死闘
炎倒剣から出る炎が収まる。
それと同時に炎倒剣が融解して、崩れていった。
俺はそれを気にしない。
崩れた炎倒剣は、後ろの武器貯蔵庫が勝手に原子レベルで分解して、回収するからだ。
「………」
初めて使ったけど……凄い蒸気だな。
辺り一面、白い煙で覆われて、何も見えない。
炎がやみ、マグマとなっていた地面も冷えて、今では黒く固まっている。
「───!」
突然、強風が飛んできた。
どうやら、強風はとある一点から四方八方に吹いてるようだ。
どんどんと蒸気が霧散していく。
この風の吹き方は見覚えがある。というか、さっきやられたヤツだ。
まぁ、俺が炎倒剣を振り下ろすのをガッツリ見てたもんな。
そりゃ、避けるか耐えるわな。
煙が晴れると、炎倒剣の一撃を耐えたヨミの姿が現れた。
「……ッ」
おいおい、無傷かァ?
……いや、違ぇな。
クジャクのオーラで見にくいけど、体の左半分に所々火傷が見える。
そうか、冷気とクジャクの防御で耐えたのか。
はッ、上等!
このレベルの武装なら攻撃が貫通するんだなァ!?
なら、畳み掛けるだけよォ!
俺の意思を汲み取って、武器貯蔵庫が動作開始。
左右に出していた武器を上下に動かす過程で分解し、収納。
代わりに、薬莢や様々な機構が備わった本体部分は太いにも関わらず、そのエネルギーを放出する砲筒部分は細いレーザー兵器が何門も、武器貯蔵庫から出現。
俺の両肩や両腕、脇の下に移動し、合体する。
“銀閃” 専用高圧縮熱レーザー兵器『アグニ』。
膨大な熱エネルギーを可能な限り圧縮し、撃ち出す兵器。
レーザーに触れた物は瞬時に融解し、まるで鋭利な刃物で切断されたように分かたれ、レーザーの熱の余波で炎上する。
貫通力だけで言えば炎倒剣よりも断然上!
炎倒剣程度で焼かれる防御じゃ防げねェぞ!!
「安全装置解除!」
「───ッ!」
俺の声を聞いて「マズい」と悟ったのだろう。ヨミが瞬時に踵を返し、俺と距離を取ろうとする。
遅ェよ!!
「エネルギー変換開始! 全門───」
敢えて狙いは定めない。
俺じゃあ、敵を正確に捉えるのも、そこに標準を合わせるのも、技術的に無理だからな!
だからァ……無差別放射だ!
「───発射!」
赤で縁取られた橙の光の線が、いきなり俺の横に現れる。
正確には、噴射口からレーザーが発射され、光の線が伸びたのだが……俺の動体視力では、いきなり光の線が現れたようにしか見えなかった。
レーザーが前方にあらゆる角度で飛んでいき、あるレーザーは雲を割り、あるレーザーは地面を裂く。レーザーが当たった地面は切断面が融解し、ほんの少しの間だがマグマに戻っていた。
ヨミはジグザグに走ってる。
レーザーを集中させないようにするためだな。
まぁ、そもそも狙いなんて定めてないから、避けられるかどうかは運任せだけど。
「………」
にしても速ぇ。
ほんの数秒しか経ってないのに、もうヨミが黒い点にしか見えん。
アグニの射程はべらぼうに長いけど、これじゃあ当てられないな。
「仕方ない」
六門のアグニの内、右腕に取り付けた一門を停止。
その一門を武器貯蔵庫に分解させ、回収させる。
他五門は起動させたまま、俺は右腕を斜め上に伸ばした。
「………」
ヨミの奴、どこまで後退する気だ?
もうほとんど見えんぞ。
一応、アグニは、黒い点にしか見えないヨミに向けて撃ってるけど……当たる訳ないよな。
エネルギーでも溜めてんのか?
俺は口角を上げる。
ま、例えそうだとしても、先に撃たせはしないけどな。
アグニを停止。
武器貯蔵庫に分解・回収させる。
突然、ここら一帯を影が覆った。
勿論、これも俺の仕業。
今度は武器貯蔵庫から取り出した武器───じゃない。
炎牙巨像空爆剣『アトラス』。
全長三十七 “キロ” の巨大剣を上空に製造。
この剣は、エネルギー変換やら持ち主強化とか、そういう複雑な効果は一切、急組み込んでない。ただただ、できるだけ多くのエネルギーを注入できるよう、設計し、作ってある。
そのせいで、脆いし、エネルギーは漏れ出るし、欠陥だらけの武器だ。オマケに、とてつもなく巨大だから、例え、山より大きい巨人であろうと持てはしない。
何故、こんな武器を作ったか。
そんなの、簡単だ。
大規模な軍勢を敵に回したって勝てるような兵器が欲しかったからだ。
無論、国家を敵に回すようなことはしないつもりだ。自ら揉め事を起こすつもりも無い。
だが、世の中に絶対は無い。万が一、億が一、どこかの国と敵対することになるかもしれない。
そんな場合を想定しての武器。
剣の全長は三十七キロ。
地面に落下した瞬間、武器は壊れ、内包されたエネルギーが一気に広がるため、被害範囲は剣の全長以上。
当然、ヨミでもこれから逃げるのは不可能。
例え、武器を破壊したとしても、破壊した瞬間に爆発するのだから、破壊は無意味。
ならば、どうするか?
───接近あるのみ、だよなァ!?
「───!」
ヨミが目の前にいきなり現れた。
移動の際、右腕を引いて、すでに攻撃体勢を整えてる。
ヨミが右の掌を前に突き出すと、クジャクも連動し───鉱物ですら一瞬で融解する超高温で、人一人なら軽々飲み込むほど太い熱線をぶっ放してきた。
ヤマ貼ってたんだ。
見えない距離から超速度で詰めてきたんだ。
やることは不意討ち。
背後を取りたいからって、無駄に走行距離を増やしたら、気付かれる危険性が増える。気付かれたら不意打ちにならない。
背後に回る意味は薄い。だから、距離を詰めた勢いそのまま、正面から攻撃を仕掛けてくる───そう考えて、準備をしといた!
正面に、電磁バリア五重展開。
俺が装備している『銀閃』には、電磁バリアを発生させる機構がいくつも搭載されてる。
死角ができないように発生位置を移動ズラせるよう作っていて、俺の周りなら、割りとどこでも展開可能だ。
一枚でも、手榴弾程度の爆発なら完全に防げるよう設計した盾。それを五重に重ねた。
これなら防げる!
「───!? ッッッッ!!!!」
あぶッ!?
電磁バリア全部突破された!??
嘘だろ……? ほとんど保たなかったぞ。
幸い、『銀閃』自体が相当に丈夫だから、こっちにダメージは無い、けど……。
まぁいい、ダメージは無かったんだ。想定通りってことで。
俺は攻撃で吹っ飛ばされたように見せるため、後ろに跳ぶ。
白い煙が辺りを覆う中、跳んだ俺を追いかけるため、ヨミが右の拳を引きながら、煙の中を突っ切ってきた。
あぁ、想定通り、想定通りだ。
三十七キロ以上に及ぶ大規模爆破。
避けるのが不可能とくれば、どうするか?
───術者を攻撃して、足止めするしかない。
気絶は意味が無い。なんせ、あの武器を構成する原子はすでにきちんとくっ付いてる。俺が気絶した所で、残り続ける。それはヨミも知ってる。
攻撃することで、相手の脚をできる限り止める。つまり、爆破範囲に留め続けるのだ。
爆破範囲に留めることで「このままじゃ自分も攻撃を食らう」と思わせ、武器を再び分解させる。または、『死なば諸共』の精神で、相討ち狙い。何かしらの防御手段を持ってることを期待して、それに入るためにくっ付いてきてるのかも。
理由はどうあれ、ヨミは俺に接近して攻撃を食らわせ続けるしかないのだ。それしか取れる手段は無い。
───そう、この状況を作りたかったんだ。
俺は『アトラス』を分解して消す。
「───」
俺の読み通り、ヨミの動きが鈍った。
こんなにあっさりアトラスを消すとは思ってなかっただろ?
大きさからも分かる通り、アトラス生成は莫大な魂力を消費してる。
だから、普通なら、消すのは勿体ないと思う。
ヨミに接近されたとはいえ、アトラスが落ちてくるまで、もう少し時間があった。
ヨミを足止めして距離を稼げれば、まだなんとかなるため、アトラスを消すタイミングをギリギリまで引き伸ばす───と、ヨミは考えていたんだろうな。
そう思考を誘導することこそ、こっちの狙い。
すぐに消すとは思わないよな? あんな大量の魂力で作られた馬鹿デカイ兵器をさ。
ヨミが接近してきて、且つ、驚きによって動きが鈍るこの瞬間───この一瞬が欲しかった。
俺は後ろに跳ぶ際、ヨミから見て、半身になるよう跳んでた。
つまり、左腕を隠したかったんだ。
また空中を跳んでる俺に、もう少しで追い付きそうになってるヨミ。
驚きで思考が鈍ってる今、急な攻撃には対応できまい!
左手から左肘までを覆うように嵌められた巨大な拳。
篭手でありながら、明らかに、手の十倍はありそうなほど巨大な拳型兵器。
拳貫刳電磁放射兵器『ボーリング・サンダー』。
地殻を貫き、プレートにさえ傷を付ける、俺の武器の中で最大の貫通力を誇る武器だァ!
俺はそれをヨミに振り下ろした。
落雷よりも凄まじい音が辺り一帯に響く。
常人の鼓膜を破る───どころか、凄まじい刺激により、視覚から入った情報を脳から全て消してしまいかねないほどの轟音。
ボーリング・サンダーから放射された雷は、真っ直ぐ青い線となり、地面を穿った。
大量の土埃が舞い、辺りを隠す。
しかし、その煙の中には、確実に、底の見えない穴が地面に空けられた。
「───嘘だろ」
俺は無事に地面に降り立つ。
煙で当たりは見えない。しかし、ボーリング・サンダーを振り下ろした瞬間はきちんとヨミを補足していた。
───避けやがった。
頭に撃ち込めば即死は免れない。
流石にそれはやり過ぎだというのは、今の俺でも分かる。
だから、頭ではなく左腕を吹き飛ばそうと、狙いをズラした。
けど……そんな、まさか、狙いがズレたのを見て、即座に、空中で翻すなんて……!
動揺を誘った。不意を突いた。
ヨミに思考させないために打った策だったんだぞ!
なのに……ヨミの奴、ギリギリで反応しやがった……!
ギリギリの回避だから、ボーリング・サンダーによって生じる熱はヨミに触れた───が、余波程度では、クジャクが守って、ヨミにダメージを与えられない。
煙が晴れる。
そこには、案の定、五体満足なヨミの姿が。
「あはははァ……今のは危なかったよ〜? サガ兄」
さっきのボーリング・サンダーは、ヨミからしても「食らえばただては済まない」と理解できる一撃だったようだ。
そんな一撃を見て尚、そんな一撃を向けられて尚、ヨミは笑ってる。
死にそうになった───というのに、何故か、ヨミは心底、楽しそうに笑っていた。
「………ッ」
───不可解!
俺は新たに武装を生成する。
それに合わせて、ヨミも構えを取った。
そこからも激しい戦闘が続く。
俺の展開する武装はどれも環境を破壊するのに十分な威力を誇る物ばかり。
ヨミもヨミで、一発一発の破壊規模が尋常じゃない。
まさしく地上は地獄絵図。
一向に煙は晴れず、燃料となる草木はほとんど燃え尽きているのに、まるで土でも燃やしているかのように溶岩から火が昇り続ける。煙の中で度々煌めく光は、煙の中で、数百・数千の命を理不尽に奪い去る攻撃が、今も尚、くり出されている証拠だった。
紫の光の線が導線を辿るように光る黒い棒。
一メートル以上はあるそれを、俺は右手で持ち、前へ突き出す。
煙以外は何も無い筈なのに、まるで棒でスタンプを押されたように、黒いモヤが棒で突いた空間に残る。
すると、黒いモヤは引力を発生させ、全てを引き寄せようと動き始めた。
俺は『銀閃』の性能を全力で利用して、その場から退避。
簡易ブラックホールの生成。
これが “超引力発生装置” 『ウド』の力。
発生する引力があまりにも強すぎるから、銀閃レベルの身体強化が無いと脱出できない。
これでヨミをどうにかできるとは思ってない。
とりあえず煙が邪魔だ。
何度も煙を立たせ過ぎた。
煙が中々晴れなくなってる。
まずはこの煙をどうにかしないと!
ウドはどんどんと引力で物や土などを引き寄せる。
際限なく高まる引力は、引き寄せて物を、固めて、さらに圧縮し、最終的に核融合を引き起こして核爆発を引き起こす。
流石にそこまでやらない。ある程度、煙を吸った所で解除するつもりだ。
「あははははは!!」
ヨミが笑いながら突っ込んでくる。
クジャクを纏ったアイツなら、この引力から逃げることも可能だろうに、ワザと引き寄せられに来やがった!?
何を───
ヨミが引いていた右手を突き出す。
クジャクもそれに連動して右手を突き出す───と、その巨人の掌から凄まじい熱量の砲撃が放たれた。
ウドが砲撃を引き寄せ、自らの中心に誘導する。誘導された砲撃は、ウドによって引き寄せ、固められた物体と衝突。
───凄まじい爆音と共に、大規模な爆発が起きた。
「───くッ」
ウドの中央で超威力の爆発を起こし、エネルギーの流れを乱しやがった……!
ウドの核は、空間に残した小さな部品だ。
ナノマシンから着想を得た超極小のミスリルの塊を空間に浮かせ、ミスリルの塊に組み込んだ引力発生装置を起動させる。
要は、この塊が吹き飛ばされれば、引力は止まる。
分かったのか・見えたのか……とにかく、ウドを最短で止める最適な一手だ。
また煙が発生しやがった。
もう晴らすのは諦める。
「───」
ヨミがこっちに来た。
笑みを浮かべながら、すでに俺の右側に移動し終えている。
左の肘打ち。
俺の体に肘をめり込ませることを目的とした一撃。
ナメんなッ!
俺は上空に跳んで、その攻撃を回避。
ヨミが肘を空振った瞬間、超低温の冷気が扇状に放たれ、彼女の前の地面を凍り付かせる。
危ねェ……。
もし食らってたら、臍から下が全部凍り付いてた。
冷気を食らったら、即座に高温を排出するようにしてるけど、正直、クジャクの冷気に対抗できるとは全く思えない。
食らわないに越したことはないな。
ヨミは歯を見せながら、こっちを見て笑ってる。
何がそんなにおかしい!!
俺は持ち手の両端に片刃が付いた槍を両手で持つ。
槍は常に蒼く帯電して、強い熱を持っており、これも『銀閃』を装備してなきゃ扱えない。
二メートルはあるそれを、刃をヨミに向けて、縦回転させる───と、上にあった刃が下に振り切れた瞬間、ヨミの頭上から極太の雷線が落ちた。
それは線というにはあまりに太すぎる。まさしく柱。
辺りに細かい雷を迸らせながら、それは地面に穴を空けた。
「まだまだァ!!」
俺は雷の柱が完全に消える前に、また槍を回し、上にあった刃を下へ回す。
すると、二つ目の雷の柱が、一つ目の柱に落ちる。
直視すると失明させかねない光量と、意識を奪いかねないほどの轟音、さらに、例えこの場にあるのが戦車だろうと吹き飛ばしかねないほどの余波を伴い、柱はその場を焼き続けた。
俺は、何度も槍を回し、雷の柱を落とし続ける。
運転式落雷強制発生装置『乱刃雷槍・運回牙』。
これが壊れるまでぶん回し続ける!
たった六回落としただけで、運回牙がボロボロに崩れる。
チッ、やっぱ早いな。威力を重視して、耐久力には目をつぶったから、連発には耐えられんか。
轟音がやみ、熱と煙のみが残る。
煙のせいでなんも見えん。
感知系の開発は必須だな。こうなったら『第三の目』も役に立たないし。
「───!」
白い煙を引きずりながら、ヨミが突っ込んできた。
体はあっちこっち焼かれ、右腕に至っては爛れてるのに、お構いなしかよ!?
運回牙の攻撃も、クジャクでは防ぎ切れない筈。
右腕の爛れから見るに、運回牙の雷柱を、熱で迎撃して軽減。相殺しきれなかった分はクジャクの防御と魔素で作り替えられた肉体で耐えたのかッ。
相当、痛ェだろォに、間髪入れずに攻撃を仕掛けてきやがった!
一歩間違えてたら死んでたんだぞ!! それなのに……なんでッ、そんな嬉々として戦いに身を委ねられる!??
ヨミが右手を突き出してくる。
俺はそれを、右の脇を広げて、ギリギリ回避。ヨミの拳が、俺の右腕と脇の間を通過する。
ヨミの腕が完全に伸び切る───瞬間、ヨミは勢いよく肘を引いた。
「───ッ!」
俺の背後で大爆発が起きる。
殴り方を変えたのは、熱噴射から爆発に切り替えるためか!
凄まじい衝撃ッ。
直撃じゃない。余波の熱程度なら『銀閃』が防いでくれる───が、衝撃による吹き飛ばしはその限りじゃない!
大爆発により、俺は強制的に地面へと落下───
「───」
ヨミが左手で手刀を作ってる。
ヨミがすぐに拳を引いたのは、爆発を誘発させるため───だけじゃなかった。すぐに次の攻撃へ転じるための、“繋ぎ” の動作!
俺が下へと落ち始めると同時に、ヨミが左の手刀を俺に向けて振り切る。
俺が落ちる方がやや早い。
けど、関係ない。
「翔ッ開ッッ!!」
ヨミが左の手刀を振ると、刃の衝撃が俺の左脇に直撃。
とんでもない速度で振るうことで発生する衝撃波ッ。
それに『クジャク』の冷気が付与されて……ッ。
爆破の余波に手刀の衝撃がプラスされて、さらに勢いを増して落下する。
地面には、まるで、本来ならそう亀裂が入っていたと証明するように、直線状に衝撃波が届いた箇所が凍結。
その凍結に巻き込まれ、俺は地面から起き上がれなくなる。
「烈ッッ過ッッッッ!!!!」
俺が動けないことなどお構いなしに、ヨミは追撃の手を緩めない。
今度は直上から跳び蹴り───いや、落下蹴り。
俺に焦点を合わせ、真っ直ぐ伸ばした右脚に炎を纏わせ、後ろに向けた右手から炎を噴射し、ヨミ自体が炎の矢となって俺に落ちてくる。
ふざけッッッ死ぬに決まってんだろそんなん!!
「イぃぃぃいジぃスッッッ!!!」
俺の掛け声により、俺の体の上に巨大な電磁バリアが発生。
俺の最大の守り『イージス』。
準備するのに時間はかかるが、電磁バリア五十倍の出力を誇る盾。
アトラスを顕現させた時から、念の為、準備しといたァ!
発生させる電力があまりに強過ぎるため、感電死しかねないほど高電圧な電気が周りに迸る───から、『銀閃』装備状態じゃないと使えない盾だ!
弾き返されちまェよォォ!!
「───!?」
ヨミとイージスが激突。
ほとんど拮抗できずにイージスが押し込まれていく。
嘘だろ!? イージスだぞ!!
数秒しか保たないなんて───
「五重展開!!」
ほんの刹那の差。
イージスが破れるより早く、『銀閃』固有の電磁バリアを体の上に持ってくる。俺の体を守る盾としてではなく、斜めに逸らすために。
イージスが破れ、収束を失った電気が周りに被害を及ぼす。
イージスによっていくらか勢いを削いだおかげか、なんとか五重の電磁バリアでヨミの落下点をズラせた。
ほぼ俺の真横にヨミが着弾。
───瞬間、地面が膨れ上がり、地雷が大量に埋め込まれていたのでは、と言いたくなるほどの爆発が引き起こされた。
この爆発のおかげで体を拘束していた氷も吹っ飛んだが、その爆発をほぼ至近距離で受けた俺もまた無事じゃ済まない。
自動防御で電磁バリア一枚は展開できたとはいえ、ほぼモロでヨミの手刀の衝撃を受けたんだ。電磁バリア一枚で防げるほど、今のヨミの攻撃は甘くない。当然のように電磁バリアは破られ、ヨミの衝撃は俺の『銀閃』に激突。
これまでの攻防もあって、ヒビが入っていたんだ。
爆発を右半身で受けた結果、『銀閃』の右側あちこちにもヒビが。
武器貯蔵庫の役割を果たしていた装備もオシャカ。物言わぬ金属の塊に戻っちまってる。
「はぁ……」
万が一に備えて、自動修復の機能も付けないと。
この戦いが終わったら、また開発に逆戻りだな。
「………ぐッ」
クソッ、爆発の衝撃が貫通して、俺にまでダメージが入ってやがるッ。立つのがやっとだ……!
「あははッ、あはは!」
ヨミが爆煙の中から歩いて現れる。
その顔はとびっきりの笑顔だった。
何がそんなにおかしいんだか。
全力のぶつかり合い。
戦う内、度々覚える驚きにより、俺の怒りは収まっていた。
今は、ただただ疲れたという思いと、元気いっぱいなヨミに対する呆れが胸中を支配する。
意味が分からない。
どうして笑える?
すでにこれは “訓練” の域を凌駕してる。最早、“殺し合い” だ。
一歩間違えたら死ぬかもしれないギリギリのやり取りの中、どうして笑るんだ?
どうして、あんなに楽しそうに……それこそ、さっきの俺みたいに───
「───」
さっきの、俺?
「……」
え、あぁそうか。そっか。
マジか。マジなんか。
ヨミの奴、ガチで楽しんでる訳? これ。
アイツに死への恐怖は無いのだろうか?
普通、怖がるよね? 嫌がるよね? 怒るよね?
え、そんな感情ない?
「………」
無いんだろうなぁ。
じゃないと、あの笑顔は出てこない。
そういう負の感情を全て吐き出さないと、あの心底 楽しそうな顔は出てこない。
ヨミにとって、こんなのは危険な行いの内に入らないんだ。
ヨミにとって、これは新しい技を試す場で、修めた技を披露する場所なんだ。
思う存分、自分の覚えた技を試せるから嬉しい。思う存分、自分の努力を見せられるから嬉しい。
そんな感情。
よ〜く分かるよ。
ヨミがクジャクを出す前まで、俺も同じ気持ちだったから。
「まったく……」
これで “お遊び” とか勘弁してくれよ。
付き合わされる方はたまったもんじゃない。
とはいえ……うん、良かった。
あの日、ヨミを連れていくと決めた俺の判断は間違ってなかった、と証明されたな。
ここまでの力を付けられる娘が、俺を逆恨みして、俺の知らない所で力を付け、なりふり構わずに俺の命を狙いに来る───そんな状況になったら、生き残れる気しないもん。
まぁ、その代わり、現在進行形で命の危機なんですけどね。
「くくッ」
ヤバ過ぎて笑えてきた。
ありえる? たまたま出会った娘がこんな地雷娘だった、なんて。無いでしょ、普通。
あ〜ぁ。
楽しそうに笑って、まぁ。
駄目だよ、ヨミちゃん。
そんな笑顔を人に向けちゃあ。
君みたいな普通に可愛い娘に、そんな蕩けた笑顔で見られたら、勘違いする人が出てきちゃうよ。───あれ、あの娘、俺に気があるんじゃね? て。
まぁ、この戦いの中で、色々思いはしたけどさ。
よくよく考えれば、ヨミってまだ十歳になったばっかなんだよなァ。
こんな激しい戦闘中、そんな歳の娘に「自制しろ」て言う方が無理な話だ。
なんかそう考えると、自分が情けなくなってきた。何こんな娘にムキになってんだ、て。
いやまぁ、冷静に考えても、ヨミの攻撃はやり過ぎだ、て思うけど。
さて、それじゃ、俺はどう応えるべきか。
笑いながら期待のこもった目で見てくる彼女に、どう応えるべきか。
保護者代わりになって……面倒を見てきて、散々 “お兄さん風” 吹かせてきたのに……ここで逃げるのは、流石にダサくねェか?
ヨミは遠慮なく技を仕掛けてくる。それってつまり、俺の強さを信じてのことだろ? せっかくここまで信頼を築いてきたのに、それを崩すのは……なんか嫌だった。
そりゃ、ホントにヤバい時は逃げるのも吝かじゃないよ?
逃げるのが最善な時は迷わずそうするさ。
でも、逃げたら、状況が悪くなる時が必ず来る。逃げずに立ち向かわないといけない時が必ず来る。
そんな時も、命が危ないからって逃げるのか? そんな逃げ癖を付けていいのか?
肝心な時に逃げ腰になるダサい人間が、本当に最後まで生き残れるのか?
───違ェよな。
今後、相手にするのは、人間に対して無慈悲な悪魔や化け物だ。
いつまでも逃げが通じるほど甘い相手じゃない。
立ち向かう勇気を、危ない状況でも意地で生き残るような粘り強さを。勝ちに……生に執着できない人間に、未来は無い!
目の前の恐怖に負けるような人間に、明日の未来を掴む資格は訪れない!
───何より、普通にダセぇ人間にはなりたくねェ。
「フッ」
我ながら、自分の融通の効かなさには辟易する。
でも、改めて、自分の気持ちを見つめ直せた。
晴れ晴れとした気持ちだ。
俺は銀閃の左腕を胸まで持ってきて、注目する。
武器貯蔵庫が破壊された今、環境破壊規模の兵器はほとんど封じられた。
だが、一種類だけ、『銀閃』にそのまま格納していた武器が存在する。
それは『シキ』の名を冠する武器。
俺は気に入った装備には必ず『シキ』の名を入れる。
なんてことは無い。前世で気に入ったキャラの名前が『シキ』だというだけのこと。
そうだな、強いて言うなら『 “シキ” シリーズ』。
シキシリーズは現在三種のみ。
さっき使った『逢魔が色』と『断空紫鬼』がこれに当たる。
使いやすく、大きな効果が見込め、何より格好いい。
環境破壊規模の兵器だって、『シキ』の名は滅多に入れない。ただ強ければいいってもんじゃないんだ。
余っ程、気に入った出来の物じゃないと付けたくない。それほど、俺にとって『シキ』の名は大事なもの。
現段階で存在する『シキシリーズ』最後の一種。
俺は左腕の部位から刀を取り出す。
紫がかった銀の刀身に、怪しげな華や蔓の装飾が施された刀。
名を『死希塞翁』。
怪しくも美しいこの刀の性能は、持ち主の肉体を強化するという単純なもの。
本来、刀とは、一撃必殺を目的とした武器。
その細さ故、非常に扱いが難しく、横からの衝撃や、入射角を間違えただけで、すぐに刃こぼれし、最悪、折れてしまう。
でも、アニメに見ていたからこそ思う。───刀で何度も相手と切り結ぶ、そんな戦いができたら、くッッッそ格好良くないか、と。
これはその願いを叶える刀だ。
込められた魂力は、武器の耐久力と、持ち主の身体能力を高めるためだけに使われる。
当然、強化ミスリル製。
込められる魂力が多い故に、その強化率も半端じゃない。
その強化幅は、たただ立っているだけで、肥大化した筋肉が骨や血管を潰してしまうほどだ。
だから、細胞活性によって超再生が可能となってる『銀閃』装備時じゃないと使えない。
けど、装備できたら───身体能力に限り、原作ゲームで、三つの国を単独で滅ぼした魔王すら凌駕すると自負してる。
刀を右腕の部位から引き出し始めると、まるで世界が拒んでいるかのように、耳を劈く金切り声が発生。
起動した瞬間、一気に莫大なエネルギーが刀身を覆うが、行き渡る勢いが強過ぎて、一部エネルギーが音となって漏れた結果だ。
刀身を全て引き抜くと同時に、金切り声が止まる。
その刀身は、紫色の光が発せられているのでは、と幻視するほど美しく、そして、危険な雰囲気を纏ってる。
引き抜いた刀を上から下に振る。
それだけで、軽く風が吹き、砂を巻き上げた。
少し振るだけで衝撃が発生する事実が、死希塞翁の重さを物語る。
仕方ないから全て受け止めてやるよ。
今は、俺が唯一のヨミの身内だからな。
俺は死季塞翁の切っ先をヨミに向けた。
裏話①
ヨミが口走った『翔開』『烈過』というのは技名です。
ヨミが通う道場にも、当然、固有の技や、攻撃を繋げるための型があります。
しかし、わざわざ口にしなくても使えますし、何より、技名を叫ぶのは恥ずかしいため、ヨミはこれまで技名を口にしませんでした。
今回、技名を言ったのは、単にテンションが上がっていたからです。サガとの戦闘、初めて全力でぶつかれてることが嬉しくて、ハイになっちゃったんです。可愛いですね。
裏話②
サガが、ヨミの『烈過』を逸らせたのは『イージス』の力が大半です。
本文を読むと、あたかも『電磁バリア五重展開』によって逸らせたかのように思われますが、これは最後のひと押しに過ぎません。
『イージス』もまた電磁バリア由来の盾。用途状、盾などと言っていますが、その実状は、防ぐ壁ではなく、弾く力が主です。つまり、『烈過』と『イージス』のぶつかり合いは、力と力のぶつかり合いに置き換わります。
力と力のぶつかり合いになった以上、ヨミの攻撃に真反対から力をぶつけなければ、完全な相殺とならず、逸れる力が働きます。中学で習う理科「力の合力」を思い出していただけると分かりやすいです。
『イージス』は普通の電磁バリアとは比べ物にならない力を発生させる盾です。本来であれば、『イージス』だけでヨミの攻撃は逸れていました。そうならないよう、ヨミが炎を噴射し、微調整していた訳です。ですが、確実に、『イージス』によってヨミの攻撃は逸れかかっていました。
そこで、最後に出力は『イージス』に劣るとはいえ、強く横に逸らすよう『電磁バリア』を五重展開したため、なんとかヨミの攻撃を貰わずに済みました。
貢献度で言えば『イージス』8、『五重電磁バリア』2といった所ですね。イージス様々です。




