第1章 第5話:敵を知る
セレバーは、何かを言いかけた数秒前に戻された。
「その見方もあるな」
ブレンダンが答える。
セレバーは深呼吸をしてから口を開いた。
「黒い結社の連中って、どんな奴らなんだ? 今まで名前しか聞いたことなくて」
「はっきりしたことはわからねえ」とブレンダンが答える。「誰でもなり得る。社会に紛れ込んでるからな」
「でも姿を現す時は、黒い外套にフード付きの黒いマントを着てるわ。マントには黒い結社の紋章がついてる」とダイアンが付け加える。
「紋章はどんなんだ?」
「黒い蜘蛛に髑髏だ」とブレンダン。
「私、あいつらが怖くて……」ハナが両腕で自分を抱きしめる。
「とにかく、飯は終わったし、会計して帰ろう」
全員が会計を済ませ、食堂を出た。
馬車で待っているケヴィンと unbrokenのところへ向かう途中、セレバーは古い型の自動車を見かけた。
「なんで俺たちには車がないんだ?」
「ああいう技術は、貴族にしか許されてないからよ」とダイアンが答える。
「……ふーん」セレバーは小さく呟いた。
馬車に着くと、ケヴィンは眠っており、 unbrokenはナイフを研いでいた。
「遅かったな。ケヴィンまで寝ちまったぞ」
「長い話だ。帰り道で話す」とブレンダン。
皆が馬車に乗り込み、街を出発した。
ヒドラへ戻る道中、セレバーはただ一つのことを考えていた。
『この連中とうまくやっていけますように』
森を通過する。風が馬車を撫で、木々の葉が落ちる。
突然、強い血の匂いがした。
unbrokenが馬車を止め、叫んだ。
「全員、馬車から降りろ!」
ブレンダン、ダイアン、ハナ、セレバーが降りると、目の前の光景に言葉を失った。
三人の衛兵が地面に倒れている。
周囲には血が広がり、蠅が飛び交い、腐臭が漂っていた。
ダイアンとセレバーは絶句した。
「くそったれどもが!」
ブレンダンが馬車の扉を殴りつける。
「見たくない……」ハナが視線を逸らす。
「吐きそう……」ダイアンが呟く。
「誰がこんなことを……?」セレバーが尋ねる。
「間違いなく黒い結社だ」と unbroken。「これが初めてじゃない」
「衛兵は武装してたんじゃないのか?」
「してたわ。でも黒い結社の連中は、殺した相手の武器を奪っていくの」とダイアン。
「行くぞ。街に戻って報告しなきゃならん」とブレンダン。
まだショックを引きずりながら、皆は馬車に乗り、街へ向かった。王に報告するためだ。
「この一ヶ月で、黒い結社のメンバーを一人しか捕まえられなかったなんて……」ダイアンが怒りを込めて言う。
「ああ。だが、あいつらが表に出てこなくなってから、もう一ヶ月になるんだぞ」とブレンダン。
ケヴィンが目を覚まし、ぼんやりと尋ねる。
「何があったんだ?」
「黒い結社がまた、街の衛兵を三人殺した」
「……これはもう、制御不能だな」ケヴィンが低く呟く。
街に着くと、カレブが小さな厩舎に馬車を止め、全員が降りた。
「衛兵をあんなに簡単に殺せるなんて、奴らはどんな武装をしてるんだ?」セレバーが尋ねる。
「あらゆる種類だ。白兵武器、術、銃」とブレンダン。
「で……その黒い結社を統べる奴がいるのか?」
「いる。だが、ほとんど何もわかってない」ケヴィンが俯いて答える。
「大規模な作戦の末に、男だってことだけはわかった」とブレンダン。「残念ながら、それ以外の情報は何もない」
「俺は家に帰る。じゃあな」
「ああ」皆が答える。
会議室に入ると、王の出迎えは冷たかった。
「遅すぎる。向かった街はそれほど遠くないはずだ」
「陛下、問題が起きまして……」ハナが切り出す。「荷物の依頼主が、黒い結社の一員でした」
「戦って捕まえました。報酬もいただきました」とダイアン。
「それに、帰りの道で街の衛兵が三人、殺されているのを見つけました」とブレンダン。「間違いなく黒い結社の仕業です」
「……これは憂慮すべき事態だ」王が猜疑の混じった目で言う。「下がってよろしい」
防衛隊の面々は会議室を出て、部屋で休むために向かった。
だがセレバーとブレンダンだけは、邸宅の外へ出た。
「なあ、今日は短かったけど色々あったよな。ブレンダンド、俺が少し羽を伸ばせる場所、知ってるか?」
「そうだな……近くにキャバレーが――」
「ダメだ、この馬鹿! そういうのは苦手だ」
「わかったわかった」ブレンダンが笑う。「子供たちが遊んでる広場があるぞ。行くか?」
「いいぜ」
二人は広場へ向かった。舗装された道を抜け、土の道に入る。
「今、何時だ?」セレバーが辺りを見渡しながら尋ねる。
「午後一時半だ」ブレンダンが腕時計を見て答える。
セレバーは気づいた。この辺りは比較的貧しい区域で、家々の多くが木造や即席の建材でできている。
『変だな……この辺、明らかに貧しい。あの王が何か関わってるのか?』
広場に着くと、多くの子供や若者が走り回り、凧を上げ、ボール遊びをしていた。
セレバーが広場に入ろうとした時、ベンチに座っている小さな黒い肌の少年が目に入った。
よく見ると、その少年はひどく落ち込んだ表情をしていた。
「ちょっと待ってろ、ブレンダン。俺、あそこに行く」
セレバーは少年に近づき、隣に座った。
「よう、坊主。どうした? そんなに落ち込んで」
「あそこにいる連中とボールしたかったのに、遊ばせてくれないんだ」少年が他の子供たちを指さしながら愚痴る。
「なんでだ?」
「病気があるから。伝染しないって何度も言ってるのに、みんな伝染するって言うんだ」少年が首を振る。
「父親に説明してもらえばいいだろ?」
「……父さんは死んだ」少年がセレバーをじっと見つめる。
「……悪い」セレバーは気まずい思いをした。
「なあ、こうしよう。あそこに行って話をつける。俺が何とかして、お前がボールできるようにしてやる。いいか?」
「……うん。ありがとう」
二人は立ち上がり、広場へ向かった。
「ところで、名前は?」セレバーが少年の肩に手を置く。
「アントニー」少年が微笑んで答える。
「……アントニー、か」セレバーは低い声で呟いた。「まあいい。行こう」
広場に入ると、ブレンダンが待っていた。
「そいつは誰だ、セレバー?」
「アントニーだ。ちょっと用がある」
「何の用だ?」
「偏見だ」セレバーは自分のリボルバーをブレンダンに渡す。「預かっててくれ」
セレバーとアントニーは、ボール遊びをしていた五人の子供たちのところへ向かった。近づくと、子供たちは後ずさりした。
三人の男の子と二人の女の子。
一人は坊主頭、一人は浅黒い肌、一人は口が利けない。
女の子たちは居心地悪そうにし、男の子たちが言う。
「あっち行け!」
「病気が移るだろ!」
セレバーは首を横に振った。
「いいか、やつの病気は伝染しない。俺が保証する」
「お前、誰だよ?」浅黒い肌の少年が尋ねる。
「なんでわかるんだよ?」坊主頭が続ける。
「セレバー・デ・ラ・ロサだ。こいつの……家族の友人だ」セレバーがアントニーの肩に手を置く。
「本当に移らないのか?」
「こいつが鼻水垂らしてる赤ん坊の頃からずっと一緒だ。伝染する病気なら、とっくに俺が移ってるだろ? 移らない」
「……じゃあ、一緒に遊んでもいい?」アントニーが希望を込めた顔で尋ねる。
「いいよ!」二人の女の子が言う。口の利けない少年も親指を立てた。
「俺はいいぞ」浅黒い肌の少年。
「……わかった。名前は?」坊主頭がボールを拾いながら尋ねる。
「アントニー……アントニーだ」
「ボールは上手いか、アントニー?」セレバーが尋ねる。
「うん、上手い」
「じゃあ決まりだ。俺とアントニーで、お前らに勝負だ」
試合が始まる。セレバーが坊主頭を抜き、アントニーにパス。アントニーは素早くボールを受け取り、浅黒い肌の少年をかわす。
「こっちだ! 空いてるぞ!」
アントニーがパスを出し、セレバーは二人の女の子を抜き、再びアントニーへ。アントニーは目を血走らせ、全力でシュートした。
口の利けない少年が守るゴールに、ボールが吸い込まれる。
ゴール。
アントニーが点を決めた。
ブレンダンが剣を柵に立てかけ、近づいてくる。
「いいゴールだ、坊主! 俺も混ざっていいか?」
「乗れよ、ブレンダン! 遊ぼうぜ!」セレバーがアントニーの肩に手を置く。「ただし、こいつのことは次のペレだと思っておけ」
「ペレって誰だ?」ブレンダンがボールでリフティングをしながら尋ねる。
「まあいい。これからは俺とブレンダン対お前らだ!」
それから約四時間が経った。その間に、小さなアントニーは他の子供たちとすっかり打ち解けていた。
「そろそろ帰るぞ、坊主ども」とブレンダン。
「ああ、もう遅い。アントニーも帰った方がいい」とセレバー。
「家まで送ってくれますか?」アントニーが尋ねる。
「いいぜ」セレバーが答える。
「俺も特に予定はないし、構わない」ブレンダンが髪を整える。
「またな」アントニーが手を振る。
「ああ」セレバーも答える。
広場を出て、土の道を歩き始める。
「家、遠いのか?」
「すぐそこだよ」
「ブレンダン、俺のリボルバー持ってるか?」セレバーがポケットを探りながら尋ねる。
「ほら」ブレンダンが返す。
「ありがとな」
しばらく歩いて、アントニーの家に着いた。母親がすでに玄関に立っている。
「どうして遅れたの?」母親がサンダルを手に持って言う。
「落ち着いてください、奥さん。こいつとボールしてたんです」とブレンダン。
「ええ。うまく輪に入れなくて、手伝ったんです」セレバーがアントニーの頭を撫でる。
「……あなた、ブレンダンさんですね?」
「はい。こちらはセレバー。俺たちは街の防衛隊です」ブレンダンがセレバーの肩を軽く叩く。
「よかった……どうぞ、お入りください」
「失礼します」
「奥さんのお名前は?」セレバーが尋ねる。
「マルシアです」
家の中に入ると、質素な造りだとすぐにわかった。ソファ、テーブルと椅子、二つの部屋、そして古いテレビが置いてある。
二人はソファに座り、セレバーが切り出した。
「少し、真剣な話をさせていただきたいんですが」
「わかりました。アントニー、部屋で遊んでて」
アントニーは小さな自分の部屋へ行った。
「それで、何をお聞きになりたいのですか?」マルシアが優しい表情で尋ねる。
「お子さんに病気があるというのは本当ですか?」セレバーが尋ねる。
「……はい。残念ながら……」マルシアが悲しげに答える。「でも安心してください。伝染はしません」
「それはわかっています。症状を教えていただきたい」
「味がわからなくなります。時々不眠にもなります。そして……治療しなければ、内臓が機能しなくなる可能性があります」彼女は俯いた。「幸い、完治できる治療法はあるのですが……」
「それはよかったな」とブレンダン。
「はい、本当に……でも、お気づきかもしれませんが、私には治療費を払う余裕がありません」表情が悲しみから怒りに変わる。「あの王様は、助けようともしてくれない」
「助けを求めたことはあるんですか?」
「一度や二度じゃありません。三度も……全部拒否されました」マルシアが絶望した声で言う。
『最低だ』セレバーは内心で吐き捨てた。
「本当に申し訳ありません……」ブレンダンが言う。
「病気がわかったのはいつですか?」セレバーが心配そうに尋ねる。
「二ヶ月前です」マルシアがほとんど泣きそうな声で答える。「でも、ずっと前からかかっていた可能性が高くて……最近になって進行しただけなんです」
「……気の毒に」セレバーが呟く。
「俺たちはもう行かなきゃならない。何かあったら、邸宅に来てくれ」ブレンダンが立ち上がる。
「またボールしに来るよ」セレバーが言う。
「まだ早い時間ですよ」とマルシア。
「本当に行かなきゃならないんです」
「……わかりました。アントニーを見てくださって、ありがとうございました」
「どういたしまして」二人は同時に答えた。
家を出て、土の道を歩き始める。気まずい沈黙が流れた。
それを破ったのはセレバーだった。
「あの王、どうしてあんなに馬鹿なんだ?」
「慣れろ。昔からああだ」ブレンダンが怒りを滲ませて答える。
「最初から好感は持てなかったが……今はもっと嫌いだ」
西に傾く太陽の光が、セレバー・デ・ラ・ロサ・ジェネシスの怒りに満ちた横顔を照らしていた。




