第1章 第4話:死から学ぶ
呪われた狼は五頭だった。
ブレンダンが剣から白い光の術を放ち、三頭を一気に薙ぎ倒す。
セレバーはマグナムを抜き、一発目は外したが二発目で仕留めた。
『殺すなかれ』
死んだ時に聞こえる、あの声が頭の中に響いた。
同時に、全身の筋肉に激しい痛みの電気が走った。
次の瞬間、セレバーは馬車の床に血を吐き、体をよじって悶えた。
「何が起きてるの!?」
ダイアンが悲鳴に近い声で叫ぶ。
「わからねえ! あのクソ狼のせいだ!」
ブレンダンが答える。
その間に五頭目の狼が馬車の屋根に飛び乗り、天井を引っ掻き始めた。
ダイアンが風の術を使い、風の刃を飛ばして狼を屋根から叩き落とし、仕留めた。
セレバーは徐々に痛みから回復し、体を起こした。
「どうした、兄貴?」
ブレンダンが心配そうに尋ねる。
「俺にもわからねえ……」
「内臓出血かもしれない」
ハナがセレバーの腹に手を当てる。触れた瞬間、彼女の手が淡く輝き、痛みが瞬時に消えた。
「今のは……?」
「私が授かった奇跡よ。『神の触れ』っていうの。致命傷すら治せる代わりに、少しだけ蓮の流れを消費する」
「奇跡? 蓮の流れ? 聞いたことねえ……」
「兄貴、お前……別の世界の奴か?」
ブレンダンが尋ねる。
「間違いなくそうね」
ダイアンが皮肉っぽく言う。
「蓮ってのは、すべての生き物が持ってるエネルギーの源だ。多い奴もいれば少ない奴もいる」
ケヴィンが説明する。
「もうすぐ隣町に着くぞ」
unbrokenが告げる。
到着すると、 unbrokenとケヴィンは馬車の番をすると言った。セレバー、ブレンダン、ダイアンの三人で荷物を届けに向かう。
買い手の家は街のはずれの孤立した場所にあった。奇妙な立地だ。
家に入ると、ブレンダンが言った。
「ご注文の品です」
全身に傷を持ち、片目を失った男が出てきて箱を受け取り、三人に礼を言った。
他の二人が先に出ようとする中、セレバーはその男に強い違和感を覚えたが、すぐに気にしないことにした。
一行は街の中心の食堂で食事を取りながら談笑していた。その時、先ほどの男が黒いリュックを背負って食堂の前を通り過ぎた。誰も深くは気にしなかった。
しばらくして、街の中心部で激しい爆発音が響いた。
全員が駆けつけると、広場は破壊され炎上していた。犯人は、あの男だった。
三人は男に向かって飛びかかる。男は土の術を唱え、地面から石を引き剥がして浮遊させ、セレバーたちに投げつけてきた。三人は軽くかわす。
すると男は背中から剣を抜き、セレバーに斬りかかった。喉を切り裂かれ、セレバーはその場に崩れ落ちた。
全員が凍りついた。
「セレバーっ!!」
ダイアンとブレンダンが叫ぶ。
ハナは言葉を失い、目に涙を浮かべた。
セレバーの最後の視界に映ったのは、仲間たちの驚愕の表情だった。
彼は目を閉じ、死を待った。
『殺すなかれ』
セレバーが目を開けると、そこは馬車の中だった。慌てて喉に手を当て、まだ息をしていることを確認する。
窓から外を覗くと、ちょうど隣町に到着するところだった。
街の入り口に着くと、再び unbrokenとケヴィンが馬車の番をすると言った。セレバー、ブレンダン、ダイアンが荷物を届ける番だ。
『ちくしょう……』
前回の死を思い出し、セレバーは内心で舌打ちした。
買い手の家に行き、荷物を渡す。皆が出ようとした時、セレバーが言った。
「トイレはどこですか?」
「あっちだ」
男が廊下を指さす。
もちろん探りを入れるための嘘だったが、特に怪しいものは見つからなかった。
トイレに入り、手を洗おうとした時、洗面台の近くに小さなレバーがあるのに気づいた。
引いてみると、壁が開き、武器と爆薬で埋め尽くされた隠し部屋が現れた。
セレバーはすぐにレバーを戻して隠し、家を出た。馬車で待っていた皆のところへ戻る。
「あの男の家に、武器と爆薬の隠し倉庫があった!」
皆が半信半疑だったが、ブレンダンだけはすぐに信じた。
「俺が一緒に行く」
他の者は馬車に残ったが、ダイアンだけは落ち着かなかった。
「セレバー、大丈夫かしら。術も使えないし、戦いもそこそこなのに……」
二人は男の家に戻った。ブレンダンは躊躇なくドアを蹴り破った。
「おい、大人しく降参しろ! でなきゃボコボコにするぞ!」
剣を抜きながら叫ぶ。
男は怒りに任せて剣を抜き、斬りかかってきた。ブレンダンが受け止める。
男は土の術で、固い土の球体をブレンダンに飛ばした。ブレンダンは防いだが、大きく後方に押しやられる。
男はセレバーに向き直った。
セレバーはマグナムを抜き、男の顔を掠める弾を撃った。
男が剣を振り上げた瞬間、セレバーはその動きを認識した。以前、自分の喉を切り裂いたのと同じ動きだ。
だから彼は避け、腹に蹴りを叩き込んだ。
それを見たブレンダンが純粋な蓮の術を発動し、男を昏倒させた。
ダイアンとケヴィンが家に入ってきて、その光景を目にする。
男が倒れ、ブレンダンがセレバーに自慢げにしている。
「はぁ……心配して損したわ」
ダイアンがぼやく。
ケヴィンが衛兵を呼んだ。
男が牢屋に連行された後、署長が一人につき十リリオスの袋を渡した。
「あの男は黒い結社の一員だ」
衛兵が告げる。
「だから爆薬があったのか」
ブレンダンが頷く。
牢屋を出た一行は食堂へ向かった。そこで黒い結社についての話になる。
「最近、黒い結社は大きな動きを控えてるみたいね。表立った活動が減ってる」
ダイアンが言う。
「それはいいことじゃないの?」
ハナが尋ねる。
「いい面もあるけど、悪い面もあるわ。もっと大きなことを企んでる可能性が高い。それが厄介」
「その見方もあるな」
ブレンダンが同意する。
「黒い結社って何だ?」
セレバーが尋ねると、ダイアンが目を丸くした。
「知らないの?」
セレバーは一瞬迷った。
『言うべきかどうか……いや、言っちまうか』
「実は俺、別の世界から――」
言い終わる前に、セレバーは見知った場所へと転送されていた。目の前には、見知った存在が立っている。
「また会ったな、セレバー」
グランデ・Cが言った。
「どうしてまたここに? 神様」
「よく聞け。お前はまだ、自分が別の世界から来たことを他人に話してはならん。少なくとも今はな」
「……わかりました」
「もう一つ聞きたいことがある」
セレバーが続ける。
「俺は……不死なんですか?」
「その通りだ。お前が死ねば、前の人生の記憶を持ったまま時間を巻き戻される」
「……だからか」
「その能力は、正確には何なんです?」
「そして、死んだり殺したりするたびに、頭の中で『殺すなかれ』って恐ろしい声が聞こえるのはなぜですか?」
「まず、その力は『殺すなかれ』という戒めだ。この土地の者たちが『排他』と呼ぶものに当たる」
「次に、その『声』は、お前を二十四時間監視している天使のものだ」
「そして三番目。生き物を殺した後に罰を受けるのは、『殺すなかれ』とは関係ない。それはお前を監視している天使が、何かが制御不能になった場合のために考えたものだ。だが安心しろ。その痛みは時間とともに弱まっていく」
「さて、お前があのことを言いかけた数秒前に時間を戻してやる」
存在が告げる。
「それと……その力は責任を持って使えよ、我が子よ」




