図書室の密談
夏休みが1週間後に迫った放課後。図書室のカウンターに1冊の本が返却された。返却主の東魁優仁は無言で本をカウンターに置き、図書当番の戸室坂まひるは黙ってその本を受け取った。
「戸室坂さん。東魁と喧嘩でもしているの?」
返却本を棚に戻してきた韓国アイドル系イケメンの麻痺棚俊は、遠目からまひると優仁の様子を見ていた。
「別に。喧嘩する程親しくもないよ。珍しいね。他人に興味が無い麻痺棚君がそんな事を気にするなんて」
「これも戸室坂さんのおかげかな。以前よりもちょっと他人に興味が湧いて来たんだよね」
「それは何より。でも。それを差し引いても麻痺棚君と東魁君は仲良さそうだもんね」
俊と優仁との朝のやり取りを思い出し、皮肉を込めてまひるは呟いた。
「俺ってさあ。他人に興味が無い割にその人の第一印象が頭に浮かぶんだよね。東魁は「お節介」だったなあ」
「······へえ。そうなんだ」
無気力な麻痺棚の鋭い観察眼に、まひるは内心で驚いた。そして自分の印象はどうだったのか超絶イケメンに質問する。
「戸室坂さんの第1印象は「面白い」かなあ。でも今はごめんだけど「ちょっと嫌な感じ」かな」
「そ、そうなんだ。そんなに今の私、嫌な感じかな?」
「なんか負のオーラがだだ漏れって感じかな。ああ。ええと、ごめんね」
「別にいいよ。実際、最近嫌な事があってね。機嫌も体調もあんまり良くないの」
まひるはそう言いながら、顎を爪で掻きむしっていた。そして強引に話題を変える。
「そう言えば麻痺棚君。新しい彼女の噂が聞こえてこないけど。どこのクラスの娘なの?」
まひるが何気無く聞いた質問に、俊はしばらく沈黙を守った。
「······彼女に言われてさ。信頼できる友達以外には自分の事を言わないでって、頼まれたんだ」
俊には珍しく、その表情は真剣そのものだった。
「そ、そうなんだね。彼女、秘密主義なんだ」
「······でも。戸室坂さんは信頼できるし。その。今から話す事、他言無用にしてもらえるかな?」
「も、もちろんよ。信頼してるって言われて正直嬉しいし。私、空気は読める方だよ? 今の麻痺棚君が真面目に話そうとしている事くらい分かるし。信頼は裏切らないよ」
まひるも俊に負けず劣らず真剣に返答した。超絶イケメンは意を決したように頷いた。周囲を警戒し、まひるに近づきそっと耳打ちした。
「う、うそ? 嘘でしょう? 何かの冗談だよね? 麻痺棚君?」
俊が小声で呟いた新しい恋人の名は、まひるを驚愕させるには十分過ぎた。




