おまけ③
9月に入っても猛暑日が続くある日曜日の午後、幹線道路沿いにあるファミレスのある席には、男女2人の高校生が向かい合って座っていた。
ホールのアルバイトをしている合方正寿は、自分と年の近そうな2人の客をさりげなく観察していた。
正寿は趣味のお笑いの研究が高じて、自然と人間観察をする事が癖になっていた。1人は坊主頭の男子。目や鼻や口と言ったパーツが中心にやや寄っており、何とも言えない愛嬌を正寿は男子から感じていた。
そしてその坊主頭男子の前に座るのは正寿が息を飲むほどの美人だった。波打った長い黒髪。座っていても分かるスタイルの良さ。
そして形のいい鼻と唇。何よりその長いまつ毛の下の瞳は、見るものを魅了する力強さがあった。
坊主頭の男子は、美人女子に対して必死に会話をしている様子だった。だが、女子は無言でそれを聞き、どこか不機嫌そうに見えた。
「······もしかして上手く行っていないのか? あのカップル」
正寿は更に2人の観察を続けたかったが、新規の客が入店したのでそれを中断せざるを得なかった。
「そ、それでさ。その戸室坂が何かにつけて俺の足を踏んで来てさ。最近はもう殆ど朝の恒例になって来ちゃって」
東魁優仁は、恋人である坂那かすみに自分の学校での出来事を明るく話していた。
だが、優仁を知っている者であれば、彼が何時もより早口になっている事に容易に気付けた。優仁は心の中で焦り、何かに急き立てられている気がずっとしていた。
「······もういいよ。東魁君」
「······え?」
優仁の話を遮ったかすみの声には、明らかに怒りの成分が含まれていた。
「東魁君の話。いつもその戸室坂さんって人の話ばっかり。東魁君が話したいのは、私じゃなくてその人なんじゃないの?」
かすみはテーブルに千円札を置くと、ソファー席から立ち上がった。かすみを引き留める為に声をかけようとした優仁が目にしたのは、両目から涙を流していたかすみの姿だった。
優仁は腰を浮かしたまま石像のように固まり、身動きが出来なかった。入口の自動ドアから外に出たかすみは、一度だけ店内を振り返ったが、自分を追いかけてくる者は誰も居なかった。
かすみは失望したように更に涙を流し、ファミレスを後にした。その光景を眺めていたアルバイト店員の正寿は、何とも言えない後味の悪さを感じていた。
······翌朝、優仁は魂が抜けた廃人のような表情でクラス内に入って来た。
「おはよう。東魁。今朝は何時にも増して肌のノリが悪いな。元の顔があれなんだから、身の程を知ってスキンケアはちゃんとやれよ?」
韓国アイドルグループのセンターを張っていそうな超絶イケメンは、優仁を見つけるなり飼い主を見つけた子犬のように嬉々として駆けつけ、坊主頭の少年に話しかける。
「······悪いな。麻痺棚。今朝はお前に構ってやれる余裕はこれっぽっちもないんだ」
優仁はそう言うと、背中を丸めトボトボと自分の席に向かって歩く。
「はーい。すいませーん。野球部の鬼畜に乙女心を弄ばれた女子がそこ通りまーす」
自称「恋心を坊主頭に遊ばれた元一軍女子」は、優仁の足を踏みつけ。否。なんなら踵をめり込ませて更に足首に蹴りを入れて何事も無かったように他のクラスメイトに笑顔で挨拶をしながら通り過ぎる。
そのローキックは、もし空手部顧問が見たら本気で勧誘をしてくる程の華麗さだった。 正直優仁はその痛みに悶絶しそうだった。
だが、声を上げる元気も湧いてこず若干涙目でようやく自分の席にたどり着いた。 毎朝超絶イケメンにうざ絡みをされ、元一軍女子から日々磨きが増す蹴りをその身に受ける優仁は、自分は何かの罪を犯したのかと自問自答していた。




