化粧すると化ける地味目女子の事情
夏休みが明日から始まる教室内では、休みを謳歌しようと様々な計画を立てる生徒達が待ちきれないとばかりにソワソワしていた。
席に座りながら顎の痒みが止まらない戸室坂まひるは不機嫌だった。夏休みまでに東魁優仁の偽善者振りを暴こうと自らに課していたが、その目的は達成出来なかった。
優仁は呆れるほど見た目そのままの単純な男子だった。相手が1軍女子だろうが2軍男子だろうが接する態度は不変であり、性格が暗かろうが成績が悪かろうが誰にでも平等に接していた。
東魁優仁という偽善者の皮を1枚めくると、その中には同様に偽善者の優仁がいた。これは何回めくっても中身は変わらない。それがまひるの出した結論だった。
自分の精神衛生上の為に、これ以上は優仁に関わる事は止めたほうがいいとまひるは決断する。当初から優仁に感じていた胸の中モヤモヤは解消されなかったが、割り切るのも大事だとまひるは自分に言い聞かせた。
だが、運命の悪戯は放課後にもう1幕の物語を用意していた。午前中で学校が終わり、気温が37度に迫る炎天下の中、まひるは日傘を差しながら下校していた。
バス通りから住宅街に入ろうとした刹那、まひるの視線の先に3人の人影が映った。2人は男子でまひると同じ高校の制服を着ていた。 もう1人は他校の制服を着た女子高校生。
2人の男子は身ぶり手ぶりを交えて女子高校生に話しかけ 、女子高校生は困ったような表情で首を横に振っていた。
モテない2軍男子の身の程をわきまえないナンパ。まひるは瞬時にそう判断したが、さして興味も持たず角を曲がろうとした時だった。
まひるは背後から誰かが地面を蹴る音を聞いた。顔を横に向けると、見慣れた坊主頭の男子が野球部のユニフォーム姿で走っていた。
3人の間に割って入った東魁優仁は、女子高校生の前に立って2人の男子に何かを話していた。程なくして2人の男子は気まずそうな顔をして退散した。
女子高校生は何度も優仁に頭を下げる。優仁は少し困ったような表情で右手を横に振っていた。優仁がその場から立ち去ろうとした時、女子高校生がスマホを出して優仁に何かを聞いていた。
女子高校生は遠目からみてもスタイルが良く綺麗な顔立ちをしていた。優仁は再び手を横に振って美人女子から離れる。 そして優仁が顔を前に向けた時、そこにはまひるが立っていた。
「······戸室坂。まさか見てたのか?」
「見てたんじゃないわ。勝手に見せられたのよ。ジョギング中の優しい男子がナンパされて困ってる女子を助ける寸劇をね」
「なんかトゲがある言い方だな。俺、戸室坂から好かれているとは思ってないけど、そこまで嫌われる理由ってあるのか?」
「私が東魁君の何に対して怒っているのか。それが分からない。考えもしない。そんな人に懇切丁寧に説明する義理はないわ。さよなら」
「待てよ。戸室坂。俺と話したくないなら俺もお前に関わらないようにする。でも、理由くらい教えてくれないか?」
「······何で? 何で対して仲良くも無いただのクラスメイトにそんなに執着するの? 東魁君」
「クラスメイトだからだよ。俺は、全ての出会いには縁があると思っている。戸室坂とはせっかく縁があって同じクラスになったんだ。出来たら仲良くなりたいって思うのはおかしいか?」
優仁のその言葉に、まひるは文字通り失笑しそうになった。まひるの優仁に対しての苛立ちはいよいよ抑えが効かなくなり、今正に溜まった鬱憤を本人にぶつけようとしていた。




