恋する超絶イケメン②
麻痺棚俊はイケメンだった。高校2年生の現在も 。勿論中学生の時も。無論小学生と幼稚園とついでに幼児と乳児の頃もイケメンだった。
俊はいわゆる異性にモテる為の努力をただの1度もした事が無かった。その必要が無かったからだ。高身長で細身の俊は黙って立っているだけで芸術的な絵画のようだった。
その絵画に群がる女性達の中から俊は付き合う相手を選ぶだけで良かった。だが、他人に興味が薄い俊の無気力な性格が祟り、付き合う恋人達は去って行った。
俊はさして感慨もなくそれを見送ってきた。去る者を追わずとも、次々と新しい女性達が自分と付き合いたいと立候補してくるからだ。
俊は女性達が自分の顔の造りに惹かれて近づいて来ることを自覚していた。それに対して特段嫌悪感を抱く事は無かった。
その辺りも無気力気味の性格が影響していた。俊も付き合うなら美人の方が良かった。俊にとって恋人とは、移ろう季節と同じだった。
季節が巡るように、恋人も日々相手が変わって行く。これまではそうだった。だが、佐為北楓と出会い俊の人生観は激変した。
強烈な個性の輝きを放つ楓に、俊は楓の外見では なく人間そのものに恋をした。そして気付く。彼氏としての自分の魅力と能力に。
超絶イケメンと言う外皮を1枚剥ぎ取れば、彼女を笑わす事も出来ない無力な能無しである残酷な事実。俊は17年の人生で初めて自己嫌悪を体験していた。
恋人の楓を笑わす為に、顔がイケメンなどと言う事実は何の役にも立たなかった。だが、俊には打ちひしがれている時間的余裕は無かった。
いつも暗い表情の楓を唯一笑わせる東魁優仁の存在。そのうち楓が優仁を好きになって自分から去って行くのではないかと不吉な事ばかり俊は考えていた。
自己嫌悪や自己憐憫に浸っている暇は俊には許されなかった。恥をかいても。情けなくても。周囲からドン引きされても。
それでも俊は楓を笑わせ、生きて行く事も悪くないと恋人に思わせなければならなかった。
「戸室坂さん。東魁と俺の違いは何だろう? 滑りまくった俺のバナナの話も。東魁の柴犬の話も。いつものなんて事の無い日常の一瞬には変わりない筈だよね? けど、佐為北さんは東魁の話だけには笑っている。違いは何なんだ?」
図書室の受付カウンターで、俊はお笑い芸人の自伝書を2冊開き、右手に持つスマホからは漫才動画が流れていた。
図書委員の仕事を完全放棄した相方に対して、戸室坂まひるはどんな表情をすればいいか困っていた。
「······そ、そうだね。不思議だね。強いて言えば空気感。かな?」
「空気感? 俺と東魁が出してる空気って事?」
「うん。イメージって言ってもいいかも。東魁君は普段から軽口をよく叩いているでしょう? それに対して麻痺棚君はいつも口数が少なくクールな感じ 。そんな麻痺棚君が突然東魁君の真似をしても周囲は受け入れ難いかな」
「それお前のキャラじゃないだろう? って事かな?」
「う、うん。イメージって固定されると結構変えるの難しいから。だからイメチェンするにしても時間をかけたほうがいいかも」
「それが駄目なんだ。戸室坂さん。俺にはその時間が無いんだ。いつ佐為北さんに「つまんないから別れる」って言われるか気が気じゃないんだ俺。それを考えだすと夜も寝れなくて」
泣きそうな表情で漫才動画を食い入るように見る俊の横顔を見ながら、まひるは呆然としていた。人は恋をするとここまで変わるのかと。
まひるにとって恋愛は自分をより高く見せる為の手段に過ぎなかった。俊のように我を忘れて誰かを想う経験などまひるには無かった。
まひるは俊の変貌ぶりを間近で見ながら、人を盲目にさせる恋の力に畏怖すらしていた。それはまひるには必要が無いものだった。
このままイケメンを手玉に取る経験を積み、職場や結婚相手、あらゆる人間関係で誰からも舐められない人生を歩む。
それがまひるの人生設計だった。今、隣に座る俊 のように恋の魔力に絡み取られたらその人生設計が必ず頓挫するとまひるは感覚的に悟っていた。
「······私はご免だわ。そんな人生」
まひるは俊にすら聞こえない小声で呟いた。隣の超絶イケメンは、必死な形相でお笑い芸人の動画をいつまでも見ていた。




