表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
役立たず猫テイマーの辺境もふもふ開拓記  作者: ゆもニャ
第一章 追放とモフモフたちとの出会い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/11

第8話:もふもふ荷車

 朝のブラッシングを終えると、倉庫の扉が少し開きにくくなっていた。


 アルトは両手で引いて、やっと開けた。

 中を見ると、原因はすぐ分かった。


 棚に積んだ箱が溢れて、床にまで置かれていた。魔石の入った箱。神獣毛を束ねた袋。猫たちが運んできた薬草の束。乾燥させた魔魚。黄金大麦の袋。


「いつの間に」


 ガインが後ろから覗き込んだ。


「いつの間にって、毎日増えとるじゃろうが。お前が気づかんだけで」


「そうか」


 アルトは倉庫を眺めた。

 魔石だけで箱が四つあった。猫たちがせっせと運んでくるので、気づけばこの量になっていた。神獣毛の袋も、ガインが紡いでも紡いでも減らなかった。


「ゴミにするのも勿体ないな」


「ゴミ!?」ガインの声が裏返った。


「魔石がゴミ!?」


「使い道がないと場所を取るだけじゃないですか」


「使い道ならいくらでもある! 問題はお前がその価値を全然分かっとらんことじゃ!」


 ガインはこういう時早口になった。

 アルトは聞きながら、倉庫の棚を整理した。


「たまには町に行って日用品を買い足したいな、とも思っていたんです。魔石と毛を持っていけば、交換してもらえますかね」


「交換どころか……」ガインが額に手を当てた。


「まあいい。行くなら乗り物が要るな」


「何か作れますか」


 ガインがニヤッとした。


「任せとけ」


 三日かかった。

 ガインが設計して、アルトが魔力で補助して、木と石と魔石を組み合わせて作った。


 骨格は丸太を曲げたドーム型だった。外側に石を薄く張って、隙間を粘土で埋めた。


 内側に板を張って、床には神獣毛の端切れを敷いた。座席は二人分で、背もたれがあった。小さな棚もついていた。


 動力は魔石だった。

 床下に一個組み込んで、魔力を熱に変換する。床から温風が出る仕組みだった。試しに床に手をかざすと、じんわりと温かい風が来た。


「ストーブより使いやすいな」アルトが言った。


「魔石一個でひと月は持つ」


 ガインは外側を拳で叩いた。


「丈夫さは保証する。多少ぶつかられても壊れん」


 あとは引っ張る役だった。


 アルトがコテージの前に立つと、猫たちが集まってきた。体の大きい数匹に、ガインが作った具を取り付けた。締め付けないよう布で包んだだけのもので、猫たちは特に嫌がらなかった。


 ミィちゃんが先頭に出た。


 自分から出た。引っ張る気はないようだった。ただ先頭に立って、前を向いた。総隊長のような顔だった。


「ミィちゃんは先導するのか」


 ミィ。

 当然でしょうという声だった。



 出発は翌朝だった。

 辺境の町まで半日の道のりだった。


 乗り込むと温かかった。外の冷気が壁越しに伝わってこない。床から温風が出続けているので、出発してすぐに上着を脱いだ。ガインは早々に居眠りを始めた。


 窓から外を見ると、ミィちゃんたちが走っていた。


 速かった。音も静かだった。

 蹄の音がないので、滑っているような感覚だった。街道の両脇に雪が積もっていたが、先頭のミィちゃんの周囲だけ雪が融けた。通った後に芝草が見えた。


「春が移動している」


 アルトは窓から離れて、持ってきた魚の燻製をかじった。


 道中は穏やかだった。風の音と柔らかい振動と、ガインの寝息だけがあった。


 街道が森に差し掛かった頃だった。


 前方で声がした。

 怒鳴り声と、獣の唸り声が混ざっていた。


 アルトが窓から顔を出すと、街道の先に荷台が止まっていた。


 御者台から転げ落ちた男が、荷台の陰に隠れていた。男の前に、四足の魔獣が三頭いた。体高が馬と同じくらいある、黒い毛の獣だった。


 男は商人らしかった。棒切れを構えていたが、手が震えていた。


「魔獣が」


 アルトが呟いた次の瞬間だった。

 ミィちゃんが速度を落とさずに前に出た。

 魔獣の一頭がこちらに気づいて、唸り声を上げた。


 ミィちゃんが横目でちらりと見た。

 それだけだった。

 魔獣三頭が、音もなく吹き飛んだ。森の奥まで真っ直ぐに飛んでいって、遠くで何かにぶつかる音がした。それきり聞こえなくなった。


「風が強いな」


 アルトが空を見上げた。

 木々は揺れていなかった。


 ガインが目を覚ました。


「着いたか?」


「もう少しです。あ、人が倒れています」


 棒切れを持ったまま商人が白目を剥いていた。気絶していた。荷台の馬は無事だったが、脚をくじいたらしく立ち上がれずにいた。


 アルトは降りた。

 

 商人の肩を叩いた。反応がなかった。

 顔色は悪くなかった。怪我もなかった。単純に気絶していた。


「どうする」

 ガインが降りてきた。


「放っておけないですね」


 二人で商人を乗せて、毛布をかけた。商人の馬は繋いで一緒に引いてもらうことにした。


 ミィちゃんを見ると、普通の顔で前を向いていた。


「町まで行けるか」


 ミィ。

 問題ないという声だった。


 温風が床から上がってきた。商人は毛布の中で静かに眠っていた。ガインがまた居眠りを始めた。


 アルトは燻製の残りをかじりながら、窓の外を眺めた。街道の雪が、ミィちゃんたちの通った後から順番に融けていった。


 辺境の町が、遠くに見え始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ