第51話:特製ひんやりフルーツパフェ
朝、馬車が四台来た。荷台に大きな箱が積んであった。一台ではなく、四台全部に積んであった。
御者が一人ずつ箱を降ろすと、コテージの前に並んだ。
「何事だ」バルドがデッキから見て言った。
ルークが送り状を確認した。
「王都の行政各課から、全部署合同の感謝の品だそうです」
「全部署から」
「爆速決裁のおかげで年間業務が前倒しで完了したと。お礼を込めてとのことで」
箱を開けた。
一つ目にイチゴが入っていた。粒が大きくて、赤くて、甘い匂いがした。
二つ目に柑橘が入っていた。
三つ目に濃い紫色のブドウが入っていた。房が重かった。
四つ目に手紙が入っていた。
「おかげさまで職員が定時に帰れるようになりました。感謝を込めてお送りします。王都行政各課一同より」
バルドは手紙を読んだ。
「王都の連中も、余裕ができているようだな」
「良い循環です」ヴァルテが言った。
「そうだな」
ミィちゃんが箱に近づいた。
イチゴの匂いを嗅いだ。
「お前にはやれんぞ」バルドが言った。
ゴロゴロゴロゴロ。
気にしていないようだった。
アルトが果物を見渡した。
「せっかくなので、贅沢に使いましょう」
「何を作るのか」ガインが言った。
「パフェです。グラスに層を作って、上からドラゴンさんに冷やしてもらって」
「パフェとは」
「果物と氷と色々重ねたものです。見た目も綺麗で」
ドラゴンがデッキから台所の方を覗いていた。フシュー。
「手伝ってくれますか」
フシュー。
「ありがとうございます」
柑橘の果汁を絞って、葛粉で固めてゼリーを作った。ドラゴンの冷気でキリッと冷やした。シャリシャリした感触になった。
ブドウを煮てソースにした。蜜を少し足した。これもドラゴンに冷やしてもらった。とろりとした状態のまま、表面だけみぞれ状になった。
イチゴは半分に切って、ドラゴンの冷気で表面だけ締めた。外はキリッとして、中はとろりと熟れたままだった。
グラスに重ねた。
柑橘のゼリーが一番下。ブドウのソース。冷やしたイチゴ。また柑橘のゼリー。
層になった。
透明なグラスの外から、色が見えた。黄色と紫と赤が、縦に並んでいた。
「綺麗ですね」アルトが言った。
バルカンがグラスを横から見た。
「層のグラデーションが見事だな」
バルカンが言った。繊維を見るような目だった。
「密度の違いが、色の差になっている」
「食べものですよ」
「分かっている。でも美しい」
全員がコタツに入って食べた。
スプーンを入れた。
シャリッ。
柑橘のゼリーが崩れた。冷たかった。酸味が来た。
もう一口深く入れた。
とろっ。
ブドウのソースが来た。甘みが深かった。
イチゴが来た。外がキリッとして、中がとろりとした。
全部が一度に来た。
「シャリシャリ感がたまらん」ガインが言った。
「層を崩しながら食べるのが最高ですね」アルトが言った。
「このブドウのソースが深いな」ヴァルテが言った。
「冷やすと甘みが引き締まって、また違う顔を見せる」
「ドラゴンさんのおかげです」
ドラゴンがデッキの外から覗いていた。
フシュー。
嬉しそうだった。
ミィちゃんがバルドの膝に乗ってきた。
甘い匂いが気になるらしかった。鼻をひくひくさせながら、グラスに顔を近づけようとした。
「やれんぞ」バルドが言った。
ゴロゴロゴロゴロ。
「匂いだけか」
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。
バルドはミィちゃんの頭を撫でながら、パフェを食べ続けた。
グラスが空になった頃、通信石が光った。
ルークが受け取った。
議長からだった。
「ルーク商会か。職員たちが果物を送っただろう。何か作ったはずだ。一口だけでいい、王都へ送ってもらえんか。一口だけでいいんだ」
「予約はあと二ヶ月と二十七日です」ルークが言った。
「公正な順番待ちを乱すことはできません」
「一口だけだ。グラスに少しだけ」
「二ヶ月と二十七日です」
「議長として命じると言ったら」
「長官の許可が必要です」
ルークがバルドを見た。
バルドはパフェの最後の一口を食べていた。
「却下する」バルドが言った。
「却下とのことです」
「くっ……」
通信が切れた。
「議長、本当に楽しみにしてくれているんですね」アルトが言った。
「そうだな」バルドが言った。
「二ヶ月と二十七日後には、また別の美味しいものができていそうですね」
「そうだな」
「何を作ろうかな」アルトは少し考えた。
「季節の果物を使ったものが良いですかね」
「任せる」バルドが言った。
「何を作っても美味い」
「そんなことないですよ」
「お前が作れば美味い」
「そうですか」アルトは少し笑った。
「では考えておきます」
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。
ミィちゃんが鳴いた。
外の吹雪の音が、遠くで続いていた。
甘い果物の香りが、まだコテージの中に残っていた。
コールドランドの夕方は、今日も穏やかに暮れていった。




