↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
役立たず猫テイマーの辺境もふもふ開拓記  作者: ゆもニャ
第五章 冬ごもり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/52

第50話:ひんやり甘酒

 今日も書類は十時に終わった。

バルドが最後の一枚に署名して、束を揃えた。


「終わったな」


「終わりましたね」ヴァルテが言った。


 二人は顔を見合わせた。


「余った時間は」バルドが言った。


「猫を撫でる時間です」ヴァルテが言った。


 ゴロゴロゴロゴロ。


 ミィちゃんが答えた。


 昼過ぎに王都の醸造職人から荷が届いた。

 手紙が入っていた。


「先日の醸造所建設の許可決裁、誠にありがとうございました。おかげで新しい醸造所が完成しました。感謝を込めて、特製の米麹をお送りします」


 箱を開けると、白い塊が包んであった。甘い匂いがした。麹特有の、穏やかな香りだった。


「甘酒が作れますね」アルトが言った。


「王都では冬に温めて飲むものだな」ヴァルテが言った。


「ここはポカポカですから、冷たくして飲んだら絶対美味しいですよ」


「冷やし甘酒か」


「作ってみます」


 ドラゴンが台所の方を向いた。

 フシュー。


「準備できていますよ、という声ですね」アルトが言った。


 米麹を水に溶いて、弱火でゆっくり温めた。混ぜ続けた。甘みが出てくるまで、急がなかった。

 コテージの中に甘い匂いが広がった事で、ガインが作業場から顔を出した。


「何の匂いだ」


「甘酒です」


「酒か」


「ノンアルコールですよ。米の甘みだけです」


「そうか」ガインは少し考えた。


「それを冷やすのか」


「冷やしてみぞれにします」


 ガインは作業場に戻った。しばらくして、削り器を持って出てきた。


「わしが削ろう」


「ありがとうございます」


 甘酒が仕上がり、器に移した。

 ドラゴンが近づいてきた。

 口を少し開けた。


「フシュー」


 冷気が出た。甘酒の表面が白くなった。端から固まり始めた。中まで冷えていくにつれて、甘い香りがさらに立った。


 ガインが削り器を当てた。


 サッサッサッ。


 薄いみぞれが出てきた。甘酒の淡い白が、ふわっと積み重なってから、生姜を少し削って散らした。


 アルトが「デッキで食べましょう」と言った。


 全員が外に出た。


 夕方になっていた。


 聖域の空が、薄いピンク色に染まっていた。

 吹雪との境界線のところで、灰色と橙色が混ざっていた。見たことのない色だった。


 ガインが縁側に腰を下ろし、バルカンがその隣に座った。

 バルドとヴァルテが椅子を出してきた。


 全員が夕空を見ながら、みぞれ甘酒を食べた。

 スプーンを入れると、シャリッとした。

 冷たくて、甘みがサラサラと来た。生姜のわずかな辛みが後から来て、口の中がすっきりした。


「……サラサラと喉を通るな」ヴァルテが言った。


「温かい甘酒とは違いますか」アルトが聞いた。


「全然違う。温かいものは少し重く感じることがあったが、冷やすとこうなるのか」


「ドラゴンさんのおかげです」


 ドラゴンが縁側の端で丸くなっていた。フシュー、と小さく鼻息を吐いた。満足そうだった。


 ガインがみぞれ甘酒を一口食べた。


「……酒好きにも分かる甘さだな。すっきりしている」


「お酒じゃないですよ」


「分かっている。でも、こういう甘さがある」

 

 バルカンが頷いた。


「体に染み渡るな。繊維の目が揃ったときの手触りみたいに、一点の曇りもない甘さだ」


「繊維に例えるんですね」


「わしはそうなる」


 バルドはミィちゃんを膝に乗せたまま、スプーンを持ち、一口食べた。空を見た。


「……王都の激務の中にいた頃は、夕焼けを眺める時間などなかったな」


 誰も答えなかった。

 答える必要がなかった。

 バルドはもう一口、みぞれ甘酒を食べた。


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。


 ミィちゃんがバルドの膝の上で鳴いていた。


 ガインが器を置いた。


「美味かったな」


「そうですね」アルトが言った。


「また作ってくれるか」


「いつでも」


 ドラゴンが顔を上げた。


 フシュー。


「ドラゴンさんもいつでも手伝ってくれますよ」アルトが言った。


 ゴロロロ。


 ミィちゃんがバルドの膝の上で鳴いた。


 ゴロゴロゴロゴロ。


 夕空の色が、だんだん暗くなっていった。


 外の吹雪の音が、遠くで続いていた。


 コールドランドのデッキに、静かで優しい夜が来ていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。