↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
役立たず猫テイマーの辺境もふもふ開拓記  作者: ゆもニャ
第五章 冬ごもり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/52

第41話:王都の精鋭②

 吹雪の中を、馬が六頭進んでいた。防寒外套を着込んだ騎士たちが、荷を抱えて一列で歩いた。荷の中身は小瓶が何十本も詰まった木箱だった。全部、魔導保冷の術式が刻んであった。


 先頭でセルジュが馬を進めながら、前方を見た。


「もう少しだ」

「はい」後ろの騎士が答えた。


「あの境界線を越えれば」


「そうだ」


 二人とも、声が少し弾んでいた。任務の緊張感とは別の何かが、顔に出ていた。


 馬が一歩、踏み込んだ。

 吹雪が、止まり、空が青くなった。

 そして芝草が現れ、温かい風が来た。


 全員が、ほっと息を吐いた。


 馬たちも止まらなかった。前回は腰を抜かしていたが、今回は大人しく歩いた。慣れてきたらしかった。


「帰ってきた」誰かが言った。


「帰ってきたという表現が正しいかどうかは別として」セルジュが言った。


「温かい」


「同じことです」


 セルジュは否定しなかった。




 コテージが見えてきた。

 

 庭に、新しいものがいた。藍色だった。大型犬くらいのサイズで、四足で歩いていた。鱗が光を反射していた。翼が小さく畳まれていた。


「……何ですか、あれは」後ろの騎士が言った。


「ドラゴンだな」セルジュが言った。


「ドラゴン」


「前回来たときにはいなかった」


「いつの間に」


 ドラゴンがこちらを見た。


 鼻息を吐いた。


「フシュー」


白い冷気が、少し出た。後ろの騎士が冷汗をかいた。


「セルジュ殿、あれはどういう存在ですか。戦力としては」


「前回のミィちゃんと同等と仮定すれば」セルジュは少し間を置いた。


「逃げても無駄です」


「では」


「機嫌を損ねないように、丁寧にしましょう」


そのとき、コテージの扉が開いた。


「あ、セルジュさん」アルトが出てきた。

 エプロンをしていた。


「遠いところをありがとうございます。荷物は無事に届きましたか」


「届きました」セルジュは馬から降りた。


「バルド長官からの追加の品です。蜜の全フレーバーとのことで」


「蜜を全種類」アルトは木箱を見た。


「こんなにたくさん」


「長官の指示です」


「せっかくですから、みなさんにもかき氷を召し上がっていただきましょう」


 セルジュは少し目が輝いた。それを後ろの騎士に見られた。


「セルジュ殿、今少し嬉しそうでしたね」


「気のせいです」


「いえ、確かに」


「任務中です。黙りなさい」




 ガインが包丁を出して、氷の塊を台に乗せた。


 サッサッサッ。


 削り氷が出た。新雪みたいにふわっとした。


 皿の上に積むと、ドラゴンがトコトコと近づいてきて、皿を見て細い冷気をかけた。


「フシュー」


 削り氷が、キリッと締まった。


「ありがとうございます」アルトが言った。


 シロップをかけた。赤、黄、橙、紫。色とりどりに染まった。


 精鋭たちの前に並べた。


「どうぞ、召し上がってください」


 精鋭たちが顔を見合わせた。後ろの騎士が小声で言った。


「これが、例の内部体温急冷兵器では」


「報告書で読みました」別の騎士が言った。


「一口で脳幹と内臓を冷却するという」


「食べていいんですか」


 セルジュは少し間を置いた。


「長官が送ってくれた蜜で作ったものです」


「では」


「食べなさい」


 全員が一口食べた。


 シャリッと、フワッとした。


 甘みが来た。冷たさが来た。口の中が一気に冷えた。


「……美味すぎます」後ろの騎士が言った。


「そうですね」セルジュが言った。


「あの極寒の道中を越えてきた後に、これは」


「そうですね」


「体が、幸福感で」


「そうですね」


 セルジュはかき氷を食べ続けた。

 

 ミィちゃんが足元に来た。頬を押しつけた。


 ゴロゴロゴロゴロ。


「お久しぶりです、ミィちゃん」


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。


 ドラゴンがセルジュの膝の方へ来て座った。


 少しひんやりした。


「君は初めてですね」セルジュはドラゴンを見た。


「触っていいですか」


ドラゴンが頭を下げた。


 触れた。鱗が滑らかだった。少し冷たくて、心地よかった。


「ゴロロロ」


 小さな地響きだった。


「気持ちいいんですか」


「ゴロロロロ」


「そうですか」


 後ろで騎士たちが芝草に座り始めていた。かき氷を食べながら、猫たちにすり寄られていた。全員の表情から緊張が抜けていた。


 一人が仰向けになった。


「天国だ……」


「任務中です」セルジュが言った。


「分かっています。でも、天国です」


 セルジュは何も言わなかった。


 ドラゴンが膝の上で小さくなった。


 ゴロロロ。


「ひんやりして、気持ちいいですね」セルジュが言った。


 小声だった。聞いている人間はいなかった。全員がかき氷を食べながら、思い思いの場所に寝転がっていた。




 ルークが通信石を取り出した。バルドに向けて報告を入れた。


「精鋭部隊が到着しました。追加のシロップも無事に届き、全フレーバーのかき氷の試運転が完了しました」


「ご苦労だった。部隊の状況は」


「全員が試運転に参加し、現在沈黙中です」


「沈黙とは」


「至福の休憩状態に入っています」


 間があった。


「……全種類食べたのか」


「はい」


「自分たちだけ」


「はい」


「セルジュたちが」


「はい」


 長い沈黙があった。


「……ご苦労だった」バルドが言った。


 声が平静だった。ただ、少しだけ何かが滲んでいた。


「長官も今度いらっしゃいますか。全フレーバー、お作りします」


 間があった。


「……考えておく」


 通信が切れた。




 庭では、精鋭たちが芝草の上で横になっていた。アルトとミィちゃんとドラゴンも、デッキで横になっていた。


 右にミィちゃん。左にドラゴン。


 温かさとひんやりが、両側から来ていた。


 外の吹雪の音が、遠くに聞こえていた。


「今日もいい日ですね、ミィちゃん」アルトが言った。


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。


 ゴロロロ。


 コールドランドのコテージは、今日も春だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。