第40話:ふわふわのかき氷
荷馬車が三台、コテージの前に止まった。
いつもと違ったのは、荷台に魔導の冷却陣が刻まれた箱が積まれていたことだった。白い霧が箱の隙間から漏れていた。
「なんでしょう」アルトが言った。
ルークが目録を受け取って読んだ。
「王都より。最高級結晶氷および高級果実シロップ一式。以上です」
「こんなにたくさんの氷と蜜が」
「バルド長官から、だそうです」
ガインが箱を開けた。
透き通った氷の塊が、整然と並んでいた。光に当てると、虹色に輝いた。隙間なく詰まっていて、魔導で完璧に保冷されていた。
もう一つの箱には、小瓶が並んでいた。赤いもの、黄色いもの、橙色のもの。色ごとに違う甘い匂いがした。
「相変わらず極端だな」ガインが言った。
「長官は」
「気が利くといえば気が利きますね」アルトが言った。
「せっかくですから、かき氷を作りましょうか」
ガインが厚い刃の包丁を出した。磨いてある。氷の塊を台に乗せて、角度を確かめた。
サッ。
削れた。
新雪みたいな白い削り氷が出てきた。ふわっとしていた。
サッサッサッ。
リズムよく削っていった。薄い削り氷が積み重なった。皿の上で小山になった。
「包丁でこんなに薄く削れるんですか」アルトが言った。
「道具の使い方次第だ」ガインが言った。
手を止めなかった。
皿が六つ、全部削り氷の山になった。
シロップを選んだ。赤いのと黄色いのをかけた。色が白い削り氷に染みていった。
庭からトコトコと足音がした。
ドラゴンが皿とアルトを見た。
「手伝ってくれますか」アルトが言った。
ドラゴンが少し口を開けた。
「フシュー」
細い冷気が皿に向かった。
削り氷の表面が、キリッと締まった。
「溶けませんね」アルトが言った。
「ありがとうございます」
ドラゴンが鼻息を鳴らした。フシュー。
ルークの通信石が光った。バルドからだった。
「届いた氷と食材の使い勝手はどうだ」
「完璧です」ルークが言った。
「現在当コテージでは、送られてきた超高密度結晶氷を用いた内部体温急冷および精神沈静化の試運転を行っております」
間があった。
「内部体温急冷だと」
「ええ。一口含ませるだけで、脳幹と内臓を直接冷却し、対象を一瞬で至福の恍惚状態へ落とし込んでおります」
「……至福の、恍惚状態」
「現在、全員が試運転に参加しています。効果は申し分ありません」
また間があった。今度は長かった。
「……分かった。報告ご苦労だった」
通信が切れた。
キースが手帳を出した。
「ルーク殿、今日は何の話をしたんですか」
「かき氷を食べる話です」
「それがどうして内部体温急冷に」
「一口含むと口の中が冷えます。脳に近い器官から冷却が進みます。事実です」
「そうですが」
「解釈は長官にお任せしています」
キースは手帳をしまった。
デッキに全員で座りかき氷を受け取った。
アルトが一口食べた。
シャリッとした。
フワッとした。
甘みが冷たさと一緒に来た。シロップの赤い色が舌に広がった。口の中が一気に冷えた。
「美味しいですね」
「頭がキーンとしないな」ガインが言った。
「良い氷だ。削り方と冷やし方が合っていると、こうなる」
「ガインさんの削り方のおかげです」
「ドラゴンの冷気もある」
ドラゴンが鼻息を鳴らした。フシュー。
「そうですね。二人のおかげです」
猫たちに、冷やしたミルクを小皿に分けて出した。
ドラゴンの冷気で少しだけ冷やした。冷たすぎないように、一息だけかけた。
ミィちゃんが近づいた。
匂いを嗅いだ。
ペロ。
止まった。
ペロペロペロ。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。
「気に入りましたか」
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。
他の猫たちも小皿に群がった。ペロペロという音があちこちから聞こえた。
小型ドラゴンがアルトの膝の上に来た。
自分用の冷やした肉を、膝の上でモグモグと食べた。
「ゴロロロ」
冷気混じりの重低音だった。
「美味しいですか」
「ゴロロロロ」
「よかった」
アルトはかき氷を食べながら、外を見た。
デッキは春の陽気だった。
右にミィちゃん。左にドラゴン。手にかき氷。
「今日もいい日ですね」アルトが言った。
ゴロゴロゴロゴロ。
ゴロロロ。
二つの音が重なった。
王都では夕方に報告が届いていた。
「聖域での兵器試運転が成功した模様です。参加者全員が精神沈静化状態、つまり至福の昼寝状態に入ったとのことです」
バルドが報告書を受け取った。
「追加の蜜のフレーバーを全種類手配しろ」バルドが言った。
「全種類ですか」
「全種類だ。機嫌を損ねて王都にその氷を投げ込まれたら終わりだ」
「長官、相手はただかき氷を食べてお昼寝しているだけのようですが」
「黙れ」
「はい」
「起こすな」バルドは窓の外を見た。
「胃が痛い」
副長官が退出した。
バルドは椅子に座り、報告書を読んだ。
至福の恍惚状態、という言葉が目に止まった。
「かき氷か」
バルドは独り言を言った。
「美味いのだろうな、きっと」
誰も答えなかった。
窓の外で、王都の風が鳴っていた。




