第33話:親バカのDIY
爪切りを始めて最初に気づいた。
ミィちゃんの前足が、手のひらに収まらなかった。
以前は親指と人差し指で軽く持てた。
今は両手で包んでも、肉球が少しはみ出た。ずっしりとした重みがあった。爪も、以前より太かった。
アルトは爪切りを持ったまま、ミィちゃんの足を見た。
「……ミィちゃん、なんだか大きくなりましたね」
「ミィ」
声が、以前より低かった。
膝の上を見ると、ミィちゃんの体が太ももからはみ出していた。以前はすっぽりと収まっていた。今は後足が膝の外に垂れていた。それでも乗ってきた。収まる気でいた。
「重いですよ」
「ミィ」
気にしていないようだった。
ガインが台所から顔を出した。アルトとミィちゃんを見た。
「ああ、成猫になったな」
「成猫」
「子猫の時期が終わったんだ。神獣の成体、ということだろう」
アルトはミィちゃんを見た。白くて、丸くて、目が青かった。見た目はそんなに変わっていなかった。ただ、全体的に大きかった。
「そういうものですか」
「そういうものだ」
ルークが書類から顔を上げた。
「成体になったということは、神威もさらに増すということでしょうね」
「神威」
「まあ、アルトさんには関係ないですね」
ルークは書類に戻った。
アルトは爪切りの続きをした。爪が太い分、力が要った。一本ずつ丁寧に切った。ミィちゃんは大人しくしていた。途中でゴロゴロと鳴いた。
「気持ちいいですか」
ゴロゴロゴロゴロ。
「そうか。よかった」
翌日から、ミィちゃんがいない時間が増えた。
朝起きると、膝の上がいなかった。
コテージの屋根の上にいた。
後ろ足を揃えて、尾を巻いて座っていた。春の風を受けていた。目が細くなっていた。
昼になると、庭に出て百匹の猫たちの先頭に立って歩いていた。ゆっくりとした歩調だった。他の猫たちが後ろにぴったりとついていた。
夕方になると、林の入り口で止まって、遠くを見ていた。
アルトは膝の上が軽くなった感覚が、ずっと続いていた。
「反抗期でしょうか」アルトが言った。
「猫に反抗期はない」ガインが言った。
「でも前はもっと抱っこさせてくれたのに」
「成猫になっただけだ。諦めろ」
「諦めたくないですね」
アルトはキャットタワーを見た。ミィちゃんが最近乗らなくなっていた。大きくなって、上の段が少し窮屈になったからかもしれなかった。
次の日から、アルトは木を削り始めた。
新しいキャットタワーだった。今度はミィちゃんの体格に合わせて、段を広くした。柱を太くした。一番上の台を、ミィちゃんが伸びをしても余裕がある大きさにした。
それが終わると、大型の猫用ベッドを作った。
神獣毛の端切れをバルカンに頼んで詰め物にしてもらって、ガインに木の枠を作ってもらって、アルトが魔力で仕立てた。
「なんで急に色々作り始めたんですか」キースが聞いた。
「ミィちゃんが快適に過ごせるように」
「それはそうですが、一日で三つ作るのは」
「手が動いてしまって」
キースは手帳に何か書いた。
「ミィちゃんロス、深刻です」と書いたが、アルトには見せなかった。




