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役立たず猫テイマーの辺境もふもふ開拓記  作者: ゆもニャ
第三章 激動の冬毛

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第14話:王都と、公爵家

 報告書が届いたのは、七日後の朝だった。

 魔法省長官バルドは執務室で封を切った。

 セルジュの筆跡だった。それだけは確かだった。


 読んだ。

 何度も読み返した。


 立ち上がって、廊下に出た。


「副長官を呼べ」


 副長官が来た。読んだ。顔色が変わった。


「長官。これは」

「読んだな」

「読みました。しかしこれは」

「緊急最高機密会議を招集する」


 バルドは報告書を丸めて脇に抱えた。


「閣僚全員だ。今すぐ」

「今すぐですか」

「今すぐだ」


 一時間後、会議室に閣僚たちが集まった。

 財務大臣、軍務大臣、外務大臣、それから魔法省の幹部が三人。


 全員が「緊急最高機密」という言葉に顔を強張らせていた。


 バルドは咳払いをしてから、立ち上がった。


「諸君。コールドランドに派遣した特使団から、第一報が届いた」


 全員が前のめりになった。


「報告する」

 バルドは紙を広げた。


「敵は現在、我々が把握していない未知の兵器を使用している」


「未知の兵器」

 軍務大臣が繰り返した。


「どのようなものか」

「名称は……」

 バルドは一瞬止まった。


「冬毛の猫、とされている」


 静寂があった。


「……もう一度言ってくれ」

「冬毛の猫だ」

「猫、と言ったか」

「言った」

 外務大臣が手を上げた。


「それは比喩か。暗号名か」

「セルジュの報告書によれば、文字通りの意味らしい」

 バルドは報告書を置いた。


「この兵器は、ゴロゴロという音波を共鳴させることで対象の精神に作用する。我が国の精鋭騎士団を、数日で無力化した」

「ゴロゴロ」

「ゴロゴロだ」

 財務大臣がゆっくりと目を閉じた。


「バルド長官。君は今、正気か」

「至って正気だ。セルジュからの第二報を読め」 

 バルドは別の紙を配った。


 全員が読んだ。

 追記。黄金大麦のパンのレシピを入手したい。アルト殿に聞けば教えてもらえると思う。

会議室が静まり返った。


「……セルジュが、やられている」

 軍務大臣が低く言った。


「そうだ」

「精神魔法か」

「そうだ」

「パンのレシピを求めているということは、相当深いところまで侵食されている」

「そうだ」

「ゴロゴロという音波によって」

「そうだ」


 軍務大臣は立ち上がった。


「対抗手段は」

「不明だ」

「追加戦力を送るべきか」

「それも不明だ。観測史上最大の魔力反応がある。王都の騎士団を全軍投入しても、全滅する可能性がある」

「では」

「待つしかない」

 バルドは椅子に座った。


「セルジュたちが戻るまで、待つ。それしかない」


 外務大臣が手を上げた。


「一つ確認させてくれ」

「何だ」

「この『冬毛の猫』というのは」

 外務大臣は報告書を見た。


「本当に猫なのか」

「セルジュはそう書いている」

「猫が」

「ああ」

「ゴロゴロと」

「ああ」

「精鋭騎士を無力化した」

「ああ」

 外務大臣はしばらく報告書を見てから、静かに置いた。


「この会議の内容は、外に漏らさないようにしてほしい」

「なぜだ」

「猫のゴロゴロ音で国家存亡の危機などと、外国に知れたら笑い話になる」

 全員が沈黙した。


「……同意する」

 バルドが言った。


 会議室が重い空気に包まれた。

 窓の外に王都の灰色の空が広がっていた。


 どこかで猫が鳴いた。

 全員が窓の方を見た。

 野良猫が屋根の上を歩いていた。

 誰も何も言わなかった。





 同じ頃、公爵邸では。

 カイルが執務室の椅子に座って、天井を見ていた。

 ルークからの催促状が今日も来ていた。四通目だった。返済期限まであと七日だった。


「特使団の件はどうなっている」


 執事が答えた。


「消息が絶えたままとのことです。王都からの連絡では、現在魔法省が対応中とのことで」

「対応中」

 カイルは繰り返した。


「何日対応中だ。もう十日以上経つ」

「はあ」

 カイルは立ち上がって窓に近づいた。

 外は枯れた畑だった。

 今日また農夫が二人、領地を離れていった。春になっても種籾を買う金がなかった。

 買う金を作るには領地を売るしかなかった。領地を売れば公爵家の体裁が保てなかった。

 堂々巡りだった。


「王家に頼めないか」

「先日も断られましたが」

「もう一度頼め。特使団が戻れば状況が変わるかもしれない。それまでの繋ぎだけでいい」

「……承知しました」


 執事が出ていった後、カイルは父の執務室に向かった。

 扉を開けると、エドガーが椅子に座っていた。今日も机の書類に触れていなかった。窓の外を見ていた。


「父上」

「……カイル」

「特使団が戻れば、状況が変わります。王家が動けば、ルークも強くは出られない」

 

 カイルは机の前に立った。


「あと少しです。あと少し耐えれば」

 エドガーは答えなかった。


 窓の外の空が、灰色だった。

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