表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/26

第一話 火竜の鼻先で

挿絵(By みてみん)



王立中央病院の三階、第七診察室。


アイリス・フォッセルはその日、十二件目の患者の処方箋を書き終えたところだった。窓の外で銅鑼(どら)が鳴った。三度、ゆっくりと。


「番探しの宴」の触れ太鼓だ。


廊下が静まり返った。看護師が祈るような顔で扉を閉めた。エルフォニア王国民にとって、五十年に一度のこの日は、誰かが消える日だった。隣の家のだれかが。あるいは ── 自分が。


アイリスは羽根ペンを置き、白衣の袖口を整えた。怯えても仕方がない。番にされる確率は、計算上、二万分の一以下だ。彼女は確率を信じる女だった。


扉が、音もなく開いた。


そこに立っていたのは、深紅の長い髪を首の後ろで縛った男だった。背は天井に届きそうで、瞳は溶けた金属の色をしていた。耳の上に小さな角が二本。指の関節は人間より一節多く、爪は黒い。


竜人だ ── と理解した瞬間、男はアイリスのほうに一歩、踏み出していた。


「お前だ」


声は思いのほか低く、震えていた。震えていたのは、男のほうだった。


「番だ。私の番だ。間違いない」


アイリスは羽根ペンを取り直した。検証癖が顔を出す。


「失礼ですが ── あなたの嗅覚は、私の体臭から具体的にどのような情報を得たのでしょうか。私には、その判定基準を理解する素養がありません」


男は、目を見開いた。

それから、生まれて初めて笑うような顔をした。


「お前、面白いな」


その声で、アイリスはようやく恐怖を覚えた。

これは、自分の理屈が通じない世界の生き物だ。

挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ