【腐】
【腐】
訓読み:くさ-る
音読み:フ
部首:肉
画数:14
意味
1 食べ物や死体が傷む
2 古くて役に立たない
3 心を痛める
電車に乗って、ふと見た車内広告。
長崎のとある町のふるさと納税の広告だった。最近は、税金を使って、車内広告を出す時代なのね。
でも、これでふるさと納税が増えたらプラスになるか。
「ねえ、鯖くさらかし岩って何?」
「なにそれ?」
私が指差した車内広告には、山の中腹にある大きな岩の写真。「鯖くさらかし岩」というキャプションがついている。
「鯖……くさらかし?」
彼も首をひねり、さっそくスマホで調べはじめる。
「落ちそうで落ちない巨岩の名前らしい」
「稀によくあるやつね」
「しかし、ネーミングセンスが。なんで、大きな岩の名前が鯖なんだ?」
私もそう思う。鯖って、大きくなさそうなのに。クジラとかジンベイザメなら分かる。せめてカジキマグロくらいはないと。
「あと、くさらかしって何? 草を枯らすの?」
「いや、くさ『らかし』だから『腐らかし』じゃないかな」
「鯖が腐るの? 岩で? どうして?」
二人の頭の上にいくつもの?マークが浮かぶ。
私の疑問に彼も頷き、町の公式ページを確認していく。
「うわ、ホントに鯖が腐ったらしい」
「はぁ?」
岩が落ちそうだから、落ちてから進もうと待っていたら、背負っていた鯖が腐ってしまったという逸話がある。
だから「鯖腐らかし岩」。
「もっと良いエピソードあるでしょ!」
電車の中なので、私は小声でツッコんだ。
なぜ、そんな逸話をネーミングに採用したのか。
「落ちないから、合格祈願で人気なんだって」
彼は鯖くさらかし岩について調べ始めた。彼がいろいろと知っているのは、この調べたがりの性格のせいよね。
そもそも鯖って傷みやすいんだから、腐るまで待ったと言っても、なかなか落ちないって感じがしないのだけれども。
鯛みたいな白身魚が腐る方が、長い時間待った感じがする。
いや、魚じゃなくても、卵とか、豆とか色々あるでしょ?
豆が腐るまでとか……
「そう言えば、なんで、豆腐って腐ってないのに豆『腐』なんだろう」
「ん。何、突然?」
「納豆は腐ってるから、納豆こそ『豆腐』っぽいって思うのよ」
「納豆は腐ってないから」
彼はすぐに否定する。
私は納豆が苦手。豆腐は大好き。
「中国から来る時に、名前が入れ違ったんじゃないかと……」
「豆腐は中国でも豆腐だよ。納豆は日本生まれだから、名前が入れ替わったってことはないよ」
「そうなの?」
なんで、中国の人は、あんなにおいしい豆腐に、腐るなんて字を使ったんだか。
「昔の中国語では、『腐』に柔らかいという意味があったと言われているよ」
柔らかい……ねぇ。
「じゃあ、腐女子って、柔らかい女の子?」
彼は笑った。
「腐ってドロドロになった柔らかさだよ。腐女子って、そんな意味じゃないでしょ」
「ある意味のドロドロが好きな人もいるけど……じゃあ、貴腐人は?」
「何それ、知らないよ」
何でも知っているような彼の、「知らない」という発言が新鮮で嬉しい。
「年を重ねた腐女子ってところかしら」
「女子には年齢で鯖を読む人がいるから、分かるはずないよ」
私は思わず吹き出してしまった。ここで、さっきの話の鯖を持ち出してくるなんて。
数駅だけの電車の時間も、彼といると飽きないわ。




