【競】
【競】
訓読み:きそ-う、せ-る
音読み:キョウ、ケイ
部首:立
画数:20
意味
1 勝敗、優劣を争う
2 価格をせり合う
山間部の町のはずれにあるそのカフェは、廃校になった小学校の校舎を改装して営業していた。
「黒板とか懐かしいね」
「この机と椅子、こんなに小さかったかな?」
私が通った小学校は、もっと大きくて綺麗だったのに、不思議とノスタルジーを感じていた。
彼もあちこちを見回している。彼の小学校は、こんな雰囲気だったのだろうか。
「学校に土足で上がるのって、何かワクワクするよね」
と言う私に対して、彼は「上履きじゃないと罪悪感を感じる」とぼやく。
注文したパンケーキが二つ運ばれてきた。給食で使っていたようなアルミの食器に乗っている。
さすがにコーヒーは普通のカップだけど、ミルクは牛乳瓶に入っていて、少しずつ注ぐのが楽しい。
私は、先割れスプーンでパンケーキを切り、その先に刺して口に運ぶ。
控えめな甘さ。小学校の給食でパンケーキなんて出なかったはずだけど、懐かしい味に感じるのは、この空間のせいだろう。
窓の外には運動場が広がっていた。今は駐車場になっている。
その向こうには山、山、山。ここに通った子どもたちは、壮大な自然の中で育ったに違いない。
「こういう所で走り回ってたら、気持ちいいだろうなぁ」
「競争が速くなりそうだね」
私たちは、小学校の懐かしい雰囲気とコーヒーの香りに浸る。
このカフェの周りだけ、取り残されたように、時間がゆっくりと流れている気がした。
「競争の『競』って、めっちゃ競ってる感あって、良いよね」
「この風景を見ながら、そんなこと考えてたの?」
彼は驚いて、手に持ったカップを机に置く。
「ええ、そうよ。二人のお兄さんが立って、競ってるみたいで良いよね」
「そう?」
私は黒板まで行くと、空いた場所にチョークで「競」と書いた。
「これが兄ってのが絶妙よ。お兄さん同士なら、絶対に競い合いそうだもの。特に左の兄の脚が、ぴっと跳ねてるあたりが最高っ」
私が跳ねてる所に丸をして力説する。
彼はカップを持ち直して、コーヒーを口にする。
「中国の簡体字では、片方の『竞』だけなんだ」
「ダメね。競ってる感が全っ然ないわ」
彼はニコニコしながら「本当に君には飽きないな」と呟く。
私は席に戻ると、パンケーキを頬張る。
「さあ、どっちが早く食べるか競争ね」
「そんな急いで食べたらもったいないよ。給食はよく噛んで食べましょうって習っただろ」
「早く食べた人は、余ったプリンがもらえます」
「プリンなんてどこに……」
彼は、うちの冷蔵庫に残しておいた自分のプリンのことを思い出した。
「これは負けられない」
先割れスプーンでパンケーキを上手く食べるのは、なかなかに難しい。
パンケーキを小さく切り分けておいた私が、僅差で競り勝った。
「残念だ」
彼はそう言って笑った。ちょっと手加減をしてくれたみたいだ。




