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二人で漢字る感じ  作者: M


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8/12

【競】

【競】

訓読み:きそ-う、せ-る

音読み:キョウ、ケイ

部首:立

画数:20

意味

 1 勝敗、優劣を争う

 2 価格をせり合う



 山間部の町のはずれにあるそのカフェは、廃校になった小学校の校舎を改装して営業していた。


「黒板とか懐かしいね」

「この机と椅子、こんなに小さかったかな?」


 私が通った小学校は、もっと大きくて綺麗だったのに、不思議とノスタルジーを感じていた。

 彼もあちこちを見回している。彼の小学校は、こんな雰囲気だったのだろうか。


「学校に土足で上がるのって、何かワクワクするよね」


 と言う私に対して、彼は「上履きじゃないと罪悪感を感じる」とぼやく。

 注文したパンケーキが二つ運ばれてきた。給食で使っていたようなアルミの食器に乗っている。

 さすがにコーヒーは普通のカップだけど、ミルクは牛乳瓶に入っていて、少しずつ注ぐのが楽しい。


 私は、先割れスプーンでパンケーキを切り、その先に刺して口に運ぶ。  

 控えめな甘さ。小学校の給食でパンケーキなんて出なかったはずだけど、懐かしい味に感じるのは、この空間のせいだろう。


 窓の外には運動場が広がっていた。今は駐車場になっている。

 その向こうには山、山、山。ここに通った子どもたちは、壮大な自然の中で育ったに違いない。


「こういう所で走り回ってたら、気持ちいいだろうなぁ」

「競争が速くなりそうだね」


 私たちは、小学校の懐かしい雰囲気とコーヒーの香りに浸る。

 このカフェの周りだけ、取り残されたように、時間がゆっくりと流れている気がした。


「競争の『競』って、めっちゃ競ってる感あって、良いよね」

「この風景を見ながら、そんなこと考えてたの?」


 彼は驚いて、手に持ったカップを机に置く。


「ええ、そうよ。二人のお兄さんが立って、競ってるみたいで良いよね」

「そう?」


 私は黒板まで行くと、空いた場所にチョークで「競」と書いた。


「これが兄ってのが絶妙よ。お兄さん同士なら、絶対に競い合いそうだもの。特に左の兄の脚が、ぴっと跳ねてるあたりが最高っ」


 私が跳ねてる所に丸をして力説する。

 彼はカップを持ち直して、コーヒーを口にする。


「中国の簡体字では、片方の『竞』だけなんだ」

「ダメね。競ってる感が全っ然ないわ」


 彼はニコニコしながら「本当に君には飽きないな」と呟く。


 私は席に戻ると、パンケーキを頬張る。


「さあ、どっちが早く食べるか競争ね」

「そんな急いで食べたらもったいないよ。給食はよく噛んで食べましょうって習っただろ」

「早く食べた人は、余ったプリンがもらえます」

「プリンなんてどこに……」


 彼は、うちの冷蔵庫に残しておいた自分のプリンのことを思い出した。


「これは負けられない」


 先割れスプーンでパンケーキを上手く食べるのは、なかなかに難しい。

 パンケーキを小さく切り分けておいた私が、僅差で競り勝った。


「残念だ」


 彼はそう言って笑った。ちょっと手加減をしてくれたみたいだ。

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