【粥】
【粥】
訓読み:かゆ・ひさ-ぐ
音読み:シュク・イク
部首:米
画数:12
意味
1 多めの水で米を柔らかく煮たもの
2 売る
サンドイッチが売りの喫茶店……というよりも、サンドイッチ専門店に併設されたイートイン。
なのだが、吹き抜けの広い店内は、木造の柱や梁が剥き出しで、木の温かさが伝わるおしゃれな空間。
二階の二人掛けのソファ席が空いていた。
私はダージリンティーと、フルーツとクリームいっぱいの甘いサンドイッチ。
彼のトレイにはコーヒーと、クリームの間に茶色い何かが見えるサンドイッチ。
「それ何?」
「コーヒーゼリーと納豆のサンドイッチ。あ、コーヒーが被っちゃったな」
私は彼に再確認する。
「納豆!?」
コーヒーが被ったとかどうでも良くない?
「そうだよ。食べたことなかったし」
彼はたまに妙なものを選ぶ。
好奇心旺盛なんだろうけど、自分の知らないことは、味でもなんでも確認したいという知識欲な気もする。
でもまあ、商品として普通に売っているのだから、そんなに驚くことでもないのかな。
彼がサンドイッチを口にする。クリームがにゅいんと糸を引く。
「ど、どうなの?」
「パンはふんわりと柔らかい」
彼はもう一口食べる。
「うん、特に違和感は無いね。納豆の匂いも気にならないし。コーヒーゼリーと相性良いんじゃないかな」
「クリームがネバついてるわ」
「そこまで気にならないよ。食べてみる?」
私は自分のフルーツサンドを見つめ、やはり私は王道が好きだと確認する。
「……やめとく」
私はフルーツの酸味と甘さを楽しみながら、ふと商品名のラベルが目に留まった。
ここのサンドイッチには、京都の地名や昔話に関わる名前がついている。
「この『嵐山』って、縦に並ぶと、山と山の間に風がサンドされてるのね」
「どれ?」
彼にラベルを見せる。
「ああ、そういうことか」
「これは新発見ね」
「そういう熟語なら、他にもあるよ。馬車馬、水道水、日曜日」
彼からはスラスラと言葉が出てくる。
でも、そうじゃない。
「違うの。こう、一つはぎゅっとしてて、残りが同じで、バラすと挟んでるみたいな。あ、『曜日』ならサンドイッチになってるんだけど」
上手く言語化できない。
彼の目が点になる。
「つまり、『嵐』は山と風がぎゅっとしてるでしょ」
私は、手振りで左手の山と右手の風を上下にくっつける。
「あー! そういうことか」
彼はやっと理解してくれたみたいだ。
「二字熟語ってことか。『昨日』とか『明日』みたいな……」
「それ! そういうことよ」
分かってもらえたみたいだ。
彼はスマホで検索を始める。
「岩山、山岳、火災、田畠とか」
「そうそう。サンドイッチになってるでしょ」
「横書きなら沢山あるよ。驢馬、月明、材木、証言、錬金、絹糸、砥石、田畑」
「どうやって調べてるの? サンドイッチ?」
「いや、部首を調べて、熟語になるか確認するって感じかな」
「は?」
「例えば、日へんを調べて、『○日』という熟語になる漢字を探したら見つかる」
「へ〜。そんな方法があるのね。『田畑』と『田畠』があるのは面白いわ」
彼は、納豆のサンドイッチを平らげた。
「一文字のサンドイッチ漢字もあるよ。班、斑、嬲、弼、粥……」
「粥もサンドイッチなの?」
「ははははは。確かに、お粥は米だね」
彼は大笑いする。
「いやいやいや。パン粥だってあるし、ライスバーガーは、ご飯のサンドイッチでしょ。問題ないわ。どう?」
「……いや、どうって言われてもねぇ」
今度は苦笑に変わった。
私は、フルーツサンドイッチの最後の一口を食べ切った。
「とっても美味しかった」
「他のも試してみたいな。持ち帰りで買ってもいい?」
「私も、プリンのサンドイッチとか食べたい」
彼はきんぴらのサンドイッチと明太鶏ささ身のサンドイッチ、出汁巻き玉子のサンドイッチを買う。
「今夜もサンドイッチにするの?」
「おかしいかな?」
ご飯の方が合いそうな具だけれども、ここのパンはふっくらしているから合うとは思う。
「まあ、お粥をサンドイッチするよりはマシかな」
「それも美味しいかもしれないな……」
「ちょっと止めてよ」
私たちは笑いながらお店を後にした。
モデルにしたサンドイッチ屋さんには、当時「嵐山」という商品はありませんでした。……今はどうか知りませんが。




