【鮎】
【鮎】
訓読み:あゆ
音読み:デン、ネン
部首:魚
画数:16
意味
1 アユ科の淡水魚
避暑のつもりで来たのに、山の中も暑い。
それでも、森の木々の間を縫うように流れる川の音を聞いていると、心地よい涼しさを感じる。
渓流に掛けられたヤナ場。ここでは、今が旬の鮎を炭火で塩焼きにしてくれる。
彼は、鮎から落ちた脂で炭火が弾ける音を楽しんでいる。
「なんで『鮎』って魚へんに『占』って書くのかな?」
「古代に、鮎を釣って占いをしたから、『鮎』の字を当てたっていう説があるんだ」
「なんで鮎で占いを?」
「なんでって、占いに意味を求めちゃいけないよ」
そうだった。彼は、占いに興味がない。
血液型も星座も手相も信じていない。
「そうそう、『鮎』は中国語だとナマズって意味なんだ。『鯰』は日本で作られた漢字なんだよ」
「へぇ。中国語で、鮎は何て書くの?」
「『香魚』だね」
「確かに、いい香りするものね」
私は、鮎の塩焼きに鼻を近づける。脂が乗っていて香ばしい。
「じゃあ、中国の人は、『鮎』の塩焼きって読んだら、ナマズを食べるの?と思っちゃうのかしら」
「はは、きっとそうなるね」
二人で笑う。
「同じ漢字なのに、国によって違う魚を表すのって面白いわ」
「それぞれの生活や文化に合わせて、文字の意味も変わっていったんじゃないかな」
「身近な魚に、漢字を当てていく……ってことかしら?」
彼はにっこりと微笑んで頷いた。
良かった。私の考えは当たっていたみたいだ。
私の考え方は独特だとか、一般と逆だとか言われてたから、ちょっと自信がなかった。
私から目線を外し、彼は少し焦げ目の付いた鮎に手を伸ばす。
「本当の所は、分からないけれどね」
「分からないの!?」
私は呆れ顔でツッコんだ。
「ほら、美味しいよ」
彼が手渡してくれた鮎にかぶりつく。彼は、鮎の内臓の苦味についてウンチクを傾けている。
それを聞き流しながら、鮎の旨味を堪能する。
いつものコーヒーとは少し違う苦さ。
塩味と苦味が、鮎の美味しさを引き立てる。
ふと、私はこれからの引っ越しについて、漠然とした不安を口にする。
「私たちも新しい環境で住みはじめたら、中身も変わっていくのかな」
「言葉も人も変わっていくから面白いんじゃないか。でも本質はそのままだよ」
彼の優しい声に、どこかホッとした。




