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二人で漢字る感じ  作者: M


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12/12

【埼】

【埼】

訓読み:さき・さい

音読み:キ

部首:土

画数:11

意味

 1 岬。海に突き出た陸地。



 海を一望できるシーサイドカフェ。

 彼はドリップコーヒーを、私はブルーグリーンティーを手に、テラス席へ座る。

 このグリーンティーは、海の色みたいに透き通った青色で、このカフェのイチオシだ。


 海を渡ってきた風は、ぬるく湿り気を帯びていた。

 カレンダーでの夏は終わったけれど、秋が来るのは、まだまだ先みたい。


 彼が、看板を見て呟く。


「おや? ここの岬は『崎』じゃなくて、土へんの『埼』って字を使うんだ。知らなかったな」

「埼?」


 私も、その看板を覗き込む。


「そう。多くの岬、つまり海に飛び出した地形は『岬』か『崎』の字を使うんだよ。室戸岬や大間崎みたいにね」

「へー。確かに、『埼玉』以外で『埼』を使っているのを見たことがないわ」


 彼はコーヒーを一口飲み、テーブルにカップを置く。そのカップに両手を掛けて、少し前のめり気味になる。


「『崎』と『埼』の違いは知ってるかい?」


 少年のように目がキラキラとしている。

 ああ、ウンチクを話したいんだろうな。


「知らないわ。『埼』って『さい』と読むだけだと思ってたくらいだし」


 私がそう答えると、彼は「小学校でも『さい』って習うんだ」と笑う。


 確かに、彼の知識は深くて、小難しい所もある。それでも私が興味を持てるように、できるだけ噛み砕いて分かりやすく説明しようとしてくれる。


「漢字本来の意味としては、『埼』は海に突き出た陸地で、『崎』は陸や海に突き出した山の意味なんだ」

「だから、土へんと山へんなのね」


 彼は大人びた口調で、淡々と説明する。

 でも、知ってることを話したがるのって、小さな子どもみたいだわ。


 そんな風に考えると、彼が可愛らしく見えてくる。


「地図には、観音崎みたいに山へんの『崎』で書かれているんだけど、海図……船が使う海の地図だね。海図では観音埼というように土へんの『埼』になっているんだ」

「埼玉には、海がないでしょ? なんで埼なの?」

「埼玉の地名は、前玉(さきたま)神社が語源だという説があるんだ。『さきたま』という音に『埼玉』という漢字が当てられたと言われている」


 私は小首を傾げる。


「なんで、当てるの? 前玉でいいじゃない。しかも読みまで変わってるし」

「時代とともに『さいたま』へと音が変化したんだよ」


 いまいち納得ができず、私は海を見る。

 波の音が静かに響いている。


「なんで、埼玉には海がないのに『埼』を使ったのかしら?」

「ん?」


 彼はコーヒーを一口飲むと、ため息混じりに呟いた。


「……また、勉強しておくよ」


 ん……なんか、勝った気がする。

 ここで、ムキになっていろいろ言わずに、ちゃんと引くのが、彼の素敵なところなのよ。


 海の香りが鼻をくすぐる。

 グリーンティーが美味しいわ。

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