【埼】
【埼】
訓読み:さき・さい
音読み:キ
部首:土
画数:11
意味
1 岬。海に突き出た陸地。
海を一望できるシーサイドカフェ。
彼はドリップコーヒーを、私はブルーグリーンティーを手に、テラス席へ座る。
このグリーンティーは、海の色みたいに透き通った青色で、このカフェのイチオシだ。
海を渡ってきた風は、ぬるく湿り気を帯びていた。
カレンダーでの夏は終わったけれど、秋が来るのは、まだまだ先みたい。
彼が、看板を見て呟く。
「おや? ここの岬は『崎』じゃなくて、土へんの『埼』って字を使うんだ。知らなかったな」
「埼?」
私も、その看板を覗き込む。
「そう。多くの岬、つまり海に飛び出した地形は『岬』か『崎』の字を使うんだよ。室戸岬や大間崎みたいにね」
「へー。確かに、『埼玉』以外で『埼』を使っているのを見たことがないわ」
彼はコーヒーを一口飲み、テーブルにカップを置く。そのカップに両手を掛けて、少し前のめり気味になる。
「『崎』と『埼』の違いは知ってるかい?」
少年のように目がキラキラとしている。
ああ、ウンチクを話したいんだろうな。
「知らないわ。『埼』って『さい』と読むだけだと思ってたくらいだし」
私がそう答えると、彼は「小学校でも『さい』って習うんだ」と笑う。
確かに、彼の知識は深くて、小難しい所もある。それでも私が興味を持てるように、できるだけ噛み砕いて分かりやすく説明しようとしてくれる。
「漢字本来の意味としては、『埼』は海に突き出た陸地で、『崎』は陸や海に突き出した山の意味なんだ」
「だから、土へんと山へんなのね」
彼は大人びた口調で、淡々と説明する。
でも、知ってることを話したがるのって、小さな子どもみたいだわ。
そんな風に考えると、彼が可愛らしく見えてくる。
「地図には、観音崎みたいに山へんの『崎』で書かれているんだけど、海図……船が使う海の地図だね。海図では観音埼というように土へんの『埼』になっているんだ」
「埼玉には、海がないでしょ? なんで埼なの?」
「埼玉の地名は、前玉神社が語源だという説があるんだ。『さきたま』という音に『埼玉』という漢字が当てられたと言われている」
私は小首を傾げる。
「なんで、当てるの? 前玉でいいじゃない。しかも読みまで変わってるし」
「時代とともに『さいたま』へと音が変化したんだよ」
いまいち納得ができず、私は海を見る。
波の音が静かに響いている。
「なんで、埼玉には海がないのに『埼』を使ったのかしら?」
「ん?」
彼はコーヒーを一口飲むと、ため息混じりに呟いた。
「……また、勉強しておくよ」
ん……なんか、勝った気がする。
ここで、ムキになっていろいろ言わずに、ちゃんと引くのが、彼の素敵なところなのよ。
海の香りが鼻をくすぐる。
グリーンティーが美味しいわ。




