378話 6月25日#07〜相棒の名前③〜
自分の名前を聞いた途端、私の『植物』は葉を茂らせ、茎が太くなり、棘が細く鋭く尖った。
「……何だ?」スターリアが、眉をひそめている。
「まだ昼だから『花』は咲かないが、今日は満月だからな。この子はいつも以上に元気で、やる気に満ち溢れている」
「……植物に『やる気』なんてねえだろ」
スターリアは、呆れたような目をしている。
私は構わず、6本の斧でスターリアに斬りかかった。
「……だから、アタシは斬れないって……!」
スターリアは自分の姿を唖然として見ていた。
「……ふむ。体は耐えられるが、服と楽器は耐えられなかったな」
――スターリアの着ている服は破け、構えているギターに傷がついた。
「……ということは、何度も塗りつければ、体も斬れるようになるのか……?」
「……あんの『霧ばばあ』……!!」スターリアは、怒りに任せて足元の見えない足場を踏み鳴らした。「全っ然大丈夫じゃねえよ!……『テンポスタンプ』!」
「ぐっ!」
私は、上から落ちてきた見えない『何か』に押されて、『植物』から落下した。『植物』はすぐに反応し、私と『何か』の間に割り込み、私を引きずり出してくれたが、いくつもの蔓が潰されてしまった。
これに乗じて、スターリアは攻撃を畳み掛けてきた。
「『グルーヴランス』!」
「痛っ!」
『植物』が葉を伸ばし、守ろうとしてくれたが、数本の『槍』が私の体を貫いた。
「『ベースソード』!」
――やはり、攻撃と攻撃の間隔が、かなり短い。『カウンター』や『シールド』を使う間がない。
「……くっ!」
『植物』が切り刻まれ、穴が開く。私も、あちこちに傷ができ、血がにじんでいた。
「……もう一回『フィーネクラッシュ』だ……潰れろ」
――唯一、この大技だけは、発動までに時間がかかる。
だが、私は踵を痛めて、立ち上がれなかった。
私は逃げるのを諦め……
「『ビーンストーク』!」
『植物』の蔓が、一気に空へ伸びていく。
それを見たスターリアは、私の腕に『グルーヴランス』を突き刺した上で、「『モレンド』!」と叫んだ。
私の周りに、紫色の煙が漂った。私は体から力が抜け、精神的に弱っていくのを感じた。もう自分にできることは何もないという考えが頭を巡り、その場に倒れ込んだ。
『フィーネクラッシュ』の攻撃は、まだ来ていない。だが、私は逃げる気力も、防御する力もなくなっていた。
――だが、それは私だけだった。
『植物』は、上空の水瓶に絡みつき、無理やり斜め方向へ回転させようとした。
「……やべっ!」
――おそらく、前回私がレイを助けた時のことを思い出したのだろう。
あの時と同じく、水瓶の向きが変わった。
――ドーーーーーン!!!!
『フィーネクラッシュ』の音圧は、スターリアに降りかかった。
スターリア本人は霧に姿を変え、音圧を耐え抜いたが、元の姿に戻った時には、ギターが粉々になっていた。
――その隙に、私の『植物』は、なかなか粋なことをしてくれた。
「……いい香りだ」
私の周りに、甘い花の香りが漂った。
その香りを吸い込むと、私の精神状態は少しずつ落ち着いてきた。
私は体を起こすと、『植物』に話しかけた。
「……やはり、よい香りだな。君にあの名前を付けてから、いつも私をこの香りで元気づけてくれていたな」
「えい!来るな!」ふと見ると、『植物』がスターリアに向かって、何本も蔓を伸ばしていた。
スターリアは、次から次へと伸びてくる蔓を蹴りつけようとしていた。
――もちろん、無駄なあがきであることは、本人もわかっているだろう。
「……ありがとう。また頼らせてもらうよ……『ジャスミン』」
私は私の『植物』――ジャスミン――に、優しく葉の上に乗せてもらった。
そのまま高いところまで持ち上げてもらい、私はスターリアを見下ろした。
スターリアは今、数本の蔓にがんじがらめに巻き付かれていた――どうやら『音』を出すにはギターを弾く必要があるようだ。手が動かず、もがいている。
私は、蔓に絡まっている自分の斧を見つめた。6本とも、垂れ落ちるほどに油がかかっていた。
「……思えば、効かないはずはないよな?私とジャスミンで極めた、最強の『大技』なんだからな」
そして、6本の斧が、スターリアに斬りかかる。『霧』の効果を無視して、ジャスミンが投げた斧はスターリアの体に突き刺さった。
「『おとめ座の後悔』……『植物』の油が、斧の斬れ味を高める。『霧』など、何の障害にもならない」
「……ああぁあああぁぁあああぁあ!!!」
スターリアは、大きな声で叫んだ。体の傷から血が噴き出し、服やギターすらも斬り刻まれていた。
ジャスミンがスターリアを蔓から解放した時、スターリアは地面で動かなくなっていた。
ジャスミンが斧を回収している間に、私は、私自身とスターリアの様子を見ていた。
「スターリアは……斧が心臓や首に当たった様子はないな。彼女の再生能力なら、しばらくすれば元気になる……で、私は……」
ジャスミンが、私の踵を優しく撫でていた。その意味は、私もわかっていた。
「怪我が治るまで、自分では歩けないだろう……ジャスミン、運んでくれないか?」
ジャスミンは、無言でするすると伸びていく。地面を歩き回るゾンビを蔓で弾き飛ばしながら、私とジャスミンは街の中心へと向かっていった。




