371話 6月24日#10〜2人だけの秘密〜
私は甲板にあるベンチに座り、ピアスの明かりを頼りに本を読んでいた。
隣には、上機嫌で鼻歌を歌っているテンが座っていた。
――先ほど、テン本人から「僕と一緒にいるの、嫌じゃないよね?」と訊ねられたが、別に嫌ではない。隣にいたからって、読書を邪魔するような奴ではないし、むしろそばにいてくれると、何だか安心する。
「……あー。今日は曇ってるなー。星が全然見えないや……」
――独り言は、結構うるさいが。
それからしばらく経ち、船長室のベランダの方から、声が聞こえてきた。
「どうですか?変わったことはありませんか?」
カヤの優しげな声を聞いて、テンは立ち上がり、甲板をぐるっと一周走った。
「……異常ありません!」
――訊ねられてから見回ってもなあ……
キリのいいところまで読み終わったし、そろそろ真面目に見張りをするかなー……と思って立ち上がると、すぐにテンが私のところへ戻ってきた。
「読書タイムは終わり?」
「……うん」
私があくびをしていると、テンは優しい目で私を見つめてきた。
「ねえ、レイさん、」
「……ん?」
「僕、レイさんと一緒にいると、すごく心が癒されるんだ。落ち着くというか」
「……カヤは?」
「あ。確かにカヤちゃんも癒し系だけど、その、やっぱり僕の中では、君と違う感じというか……」
テンはそう言うと、私に手を差し出した。
「……ちゃんと、見回りしよう」
「……そうだな」
私が差し出された手を握ると、テンはゆっくり歩き出した。
こういう時、テンは私の手を離すことはないが、ちゃんと周りを確認するのを忘れない。
――だが、私は少し疑問に思っていた。
「なあ、テン」
「はいはーい」
「テンって、夜目が利きすぎないか?」
「……え?」
テンは、私の方を振り返った……ようだ。
「今、私は、ランプを消したせいでほとんど何も見えないんだが、テンはちゃんと歩けてるみたいだし」
「……え?」
「思えば、テンが持ち歩いている上着も普通じゃないし……そんな『目』や『持ち物』があるテンって、もしかして『イェリナ人』じゃなくて、『テ……』」
「わ、わー!ちょっと待って!」テンが焦っていた。「な、何で、君がそんなこと知ってるの!?」
その時、上から「何かありましたか?」と、声がかかった。
「い、いえ!何でもないです!」テンはカヤに、慌てて返事をした。
「……ちょっと躓いただけだ。気にするな」
私がそう返すと、カヤは「そうですか……」と言って、見張りに戻っていった。
そのすぐ後、テンは慌てて私に駆け寄ってきた。
「な、何かの本に書いてあったの?」テンは、私の耳元で囁いた。
「……さっき読んでた本に、書いてあった」
私はピアスの明かりを点けると、先ほど読んでた本を開いた。
「……『某国では『魔法』だけではなく『錬金術』も盛んで、特殊な金属、薬品、布・革製品、また『人造人間』を作ろうとする研究も公然と行われていて』……」
「お、お願い!もうそれ以上読まないで!」
テンが私を拝みだした。
「あ、あんまりそこは、掘り返してほしくないの……でないと僕、君を何とかしないといけなく……」
「……すまん。からかっただけだ」私は本を仕舞うと、テンの腕を軽く叩いた。「別に他の人には言わないし、テンを疑うつもりもない」
「あ、ありがとう……」テンは、ほっとしたような顔をした。「ほ、ホントにお願いね?僕、君のこと好きだし、君に『秘密』にするのはすごく心が傷むんだけど……」
私がテンを見上げると、テンは逆に目を伏せていた。
「君、結構洞察力があるというか……まあ、『秘密』をいっぱい抱えてる僕が悪いんだけど……でも、あの……」
「……私とテンだけの『秘密』だから、気にするな」
それを聞いたテンが、自分の口を手で覆った。
「レイさん、あの、えっと。そんな『恋人同士』みたいな表現をしなくても……てか、やばっ!僕さっき口を滑らせて……きゃああ!!」
――また、勝手に慌てている。
「れ、レイさん……やっぱり君といると、めっちゃドキドキするというか……」
「……そうか?」
「どうしよう……僕、ホントに……幸せすぎる!!」
――今度は、なぜか悶えだした。
「やだ!何でこんな、強くて、かっこよくて、頭よくて、優しくて、包容力があって、かわいい子が……僕を励ましてくれるし、僕と一緒にいてくれるし、手も繋いでくれるし……何の世界線?もう、今すぐにでも心臓が爆発しそうなんだけど……!」
「……大丈夫か?」
ちょっと本の内容について話しただけなのに……この人……
「だ、大丈夫……!」テンはそう言って、なぜか私に帽子を被せてきた。
「この帽子は?」
「い、今は、あんまり僕の顔見ないでね?ちょっと、感情が……」
それからテンは、ゆっくり深呼吸をした。
「ホントにもう、これ以上僕をからかわないで……」
それから私たちは船を一周して、また前方の甲板に戻ってきた。ピエール号の周辺は、穏やかな時間が流れている。
ふと見ると、テンが再び優しい目で私を見ていた。
もう大丈夫なのかなと思って、帽子をテンの頭に返したら、テンの目がにっこりと笑った。
カヤ:図らずも2人の会話を聞いてしまいましたが(声が大きいので……)、なかなか微笑ましいですね。わたくしは邪魔しないよう、あまり声をかけませんでしたが……この会話を聞く限り、テンさんはレイさんと二人きりでいるときは、とても穏やかに過ごしていらっしゃるみたいですね。そのようなご関係の方がいるなんて、ちょっと羨ましいです。




