367話 6月24日#06
その日の夕方。
飛空艇『ピエール号』は、何事もなく王都ユピテルの近くを航行していた。
ピエール号の周囲で空賊の乗ったドラゴンが、それとなく近づいたり遠のいたりしながら飛んでいたが、隠れるのが上手いのか、誰かに咎められることはなかった。
俺はダイニングテーブルに本を広げて、魔法の呪文や魔法陣によく使われている単語について調べていた。
『……あのカイトさんが机で勉強だなんて……人って変わるものなんですね!』
「うるせえなあ……けどまあ、俺自身そう思ってるけど」
――さて。今、リビングには4人いる。
テンは、相変わらず言葉巧みにレイを甲板へ連れ出し、夕日を見ながらデートを楽しんでいる。
リアは、自分の部屋で、おそらく1人ファッションショーをやって気を紛らわせようとしている。
ソフィアは、仕事の書類と格闘している。
ミライも自分の部屋にいて、未来の玩具『プラモデル』とかいうのを組み立てている。
――少し前に『プラモデル』を見せてもらったら、確かにめっちゃかっこよかった……んだが、変わった肌触りの玩具で、素材が何なのか、俺にはさっぱりわからなかった。
その5人と、俺を除いて4人。ソラ、カヤ、ミィ、モルガンがリビングにいた。
「明日には、ウェヌスに着くよねぇ」と、ミィがぽつんとつぶやいた。「何事もなく『月の神殿』へ行けたらいいけど、そういうわけにもいかないだろうねぇ」
「……そうですね」カヤがそっとつぶやき返した。「わたくしの予想では、ウェヌスでも激闘が行われます。『彼女』が、本気で邪魔してきます」
「カイトが『霧女』とか『ゾンビ製造機』とかって呼んでる奴ぅ?」
「……『ゾンビ製造機』の言い出しっぺは、空賊のキャプテンだ」
俺は、それとなく訂正した。
「だが、たかが1人の星霊使いであろう?これだけの戦力があるのに、我らが後れを取ることがあるのか?」
モルガンがそう言うと、カヤは「そうですね……」と、少し考え込んだ。
「もちろん、彼女1人だけでは無理だとは思うのですが……他の3人の星霊使いたちがどう出るかによって、少し戦況が変わってきます。特にみずがめ座の星霊使いとさそり座の星霊使いの2人は、あなたたちに幾度となく負け続けていますので、戦いに参加するのをためらう可能性があります」
「その2人がいなければ、戦いは『数の勝負』になる……?」
ソラは、ランニングマシーンでジョギングしながら言った。
「そうですね。無限に湧く『ゾンビ』と、もしかしたらふたご座の星霊使いの『分身』も入って、大乱戦になることも……」
「……もしそうなったら、俺たちの中から多人数戦が得意なやつを、そのゾンビ軍団と戦わせればいいのか……?」
「ええ、まあ。そうなんですが……おそらく空賊のみなさんが、ほとんどやっつけてくださると思います」
「……ん?」
――じゃあ、俺たちに出番はないってこと?
「まあ、先ほどの2人が参戦しなければ、ですけれどね」
「……まぁ、確かにあの変態は、あたしたち星霊使いでなければ倒せないかもねぇ」
「じゃあ、向こうの出方次第か……」
「明日の午後、空賊の本隊がウェヌスへやって来ます」
「……どうやって?」
――めっちゃ速くなったピエール号とドラゴンより、到着するのが随分早くないか?
「あの空賊の戦艦は、比較的小さいですが、速度が、同じサイズの飛空艇の中で最も速いんです」
「『小さい』って、結構デカかったけど……」
――ピエール号に付けられた『加速装置』が、全ての戦艦についている……ということなのだろうか。
「とにかく、明日の午後を耐え抜けば、後は月の神様の力を取り戻すだけです。みなさん、頑張って行きましょう!」
『おー!』ピエール号が、1人で楽しそうに答えていた。




