365話 6月24日#04〜プレゼント〜
予定どおり、昼すぎにピエール号の準備が終わり、いよいよ出発することになった。
『『ジャイロコンパス』も、正常に動いていますね!』ピエール号の張り切る声が聞こえてきた。『食料も積んで、みなさん全員を積んで……よし!出発です!』
ピエール号は離陸し、西の方角へと飛び始めた。
「へえ、速いね!」甲板にいるテンが、面白そうに目を細めた。「今までの倍ぐらいのスピードが出てるんじゃない?」
「……風が強すぎて、ページがめくれる。全然本が読めん」
ムスッとしているレイの様子を見て、テンは慌てて声をかけた。
「……ほ、ほら、レイさん!見てみて!さっきまでいた空き地が、もうあんな遠くに……!」
「……あー。こんなデカい体、みんなよく動かせるわよねー……」
リアは、ほぼ一日中、身長と体重のことで悩んでいた。
「……いい運動になる……」
「……レオ。最近わかったけど、あんた運動オタクよね?」
「運動は、いい習慣……」
「何だ、貴様ら。こんなところにいたのか」
甲板に、モルガンが現れた。
「我は風に当たりに来た。貴様ら邪魔だ、全員今すぐ消えろ」
「またまたー、そんなこと言ってー!」
「あたしたちのことは、気にしなくていいわよ」
「眠いなー。ここで寝るかなー」
――誰も、モルガンの命令に従わなかった。
「……あ、モルガン」ソラは、虚空から黒い日傘を取り出した。「しばらく借りてた……これ……」
「……貴様にやる」
「……え?」
「我からの賜り物として、受け取るがいい」
「……ありがとう……」
「そういえば、」俺はモルガンに話しかけた。「どうしてお前、日傘なんか持ち歩いてたんだ?」
「……人間の体だと、日に焼ける」
「あら?」リアがこちらを振り向いた。「あんた、意外と美肌とか気にするタイプ?」
「『熱い』という意味だ」モルガンはふんと鼻を鳴らした。「今はドラゴンになれるからな。日が熱くても鱗が守ってくれる」
「へー」
リアは、顔を背けながら、ニヤニヤ笑っていた。
「……私、そろそろ部屋に帰って寝ようかな……」
レイがあくびをしながらベンチから立ち上がると、テンが慌ててすぐそばまでやって来た。
「レイさん、ちょっと待って!」
「……何?」
「ちょっと君に渡したいものがあるんだ」
テンは、帽子から何かを取り出した。
「じゃーん!見て!」
「ワラビー……の、ぬいぐるみ?」
――いつの間にか、完成してたらしい。
「うんうん」テンは、とてもうれしそうに微笑んだ。「ワラビー作れたから、これを土台にクアッカを……」
「うん。かわいいぬいぐるみありがとう」レイが、ほぼ棒読みで答えた。「……あと、そんなにクアッカにこだわらなくてもいいぞ」
「……え?」
「もらえるなら、何でも嬉しい」
「ほ、ホントーー!?」テンが喜んでいる。
「うん。テンからの贈り物は、みんなかわいい」
「……やー!やっぱりレイさん、優しくて心が広いねー!僕そういうところ、好きだなー!」
「……そうか?」
「うんうん!レイさんは、素直だし、かわいいし、素敵だなと思ってるよ!」
「……そうか、ありがとう」
レイは、少しめんどくさそうな顔をしていた。
「……そろそろ部屋に戻ってもいいか?」
「あ、うん。時間とって、ごめんね!」
テンはそう言って、船内へ入る扉を開けた。
レイがいなくなり、扉を閉じてこちらを振り返った時、ようやくテンは、俺たち全員が唖然として自分を見つめていることに気づいた。
「……え?みんなどうしたの?」
「……何、今の『悩殺ワード』のオンパレード……」
「しかもレイとの会話が、ちゃんと噛み合ってる……」
「貴様らは2人でいる時、そんな会話をしていたのか……?」
「な、何か変だった……?」
――自覚なかった。
「……あなたのやってること……完全に、ナンパ……」
「え……?」
ソラの言ったひとことに、テンは驚愕した。
「ぼ……僕、そんなことしてた……?」
「……まあ、そうやって振り向いてもらえてるなら、それでいいとは思うが」
「い、いや!普段は、もっと落ち着いて話してるよ?」
「……絶対ヤバいこと言ってる」
「え?リアちゃん……『ヤバい』って、具体的に何が?」
「……あんたも、アリエス並みに鈍感ね」
「へ?」
「……でも、謎が1つ解けた……」
「へ?」
――テンは、無自覚のまま、レイを口説き続けている。
でも、それとは別に、ちゃんとした『信頼関係』ができつつあるんだと思う。たぶん。
俺たちの想像以上に、テンの想いはレイに届いている……のかもしれない。




