364話 6月24日#03
「……やっぱ、レイに魔法使わせるのはナシにしよう……」
俺は、ピエール号のリビングでため息をついていた。
「あいつ、ホント手加減ってやつを知らないな……」
「そうでもないと思うよ」ラグの上であぐらかいているテンが、実に嬉しそうに言った。「レイさんが本気なら、最後のアレで、カイト君死んだと思うけど?」
「それはそうだけど……」
俺はラグの上に寝転び、初心者向けの魔法の教本をじーっと眺めていた。
「まさか、魔法陣が3つも同時に現れるとは思ってなかった」
「あれは、『水』や『風』にはできない芸当だねえ……下手したら、自分に当たっちゃうから」
「……うーん。めっちゃ高度な魔法なのか……?」
「レイさんは『呪文を使う魔法』のスペシャリストじゃないから、そこまで難しいやつではないと思うんだけど……」
「おーい、カイトー。あったぞー」
「……え?何が?」
俺はリビングの入り口に現れたレイを見つめた。
「さっきの魔法の使い方が書いてある本」
――えー。そんな本格的な本持ってこられても……
――と、思ったら、意外と薄い本を持ってきていた。
「『火』の魔法に特化した使い方が書いてある」
「えーっと、なになに……?」
俺とテンは、本のページをざっと眺めた。
「……へー。これ、すごい本だね」
「……確かに。使う『コツ』とか書いてある……」
――そして、現れる魔法陣の、とてもきれいなカラー写真が載っていた。
「へー。最後にレイの使った魔法とか、全方位の魔法陣の写真がある……」
「何か装丁もきれいだし、こんなのよく持ってたね」
「んー、何だっけ。先代のアリエスがどこかで買ってきた本みたいなんだけど……」
レイは腕を組んだ。
「確か、値段が10万*くらいで……」
「「え?」」
「これ買うのに、1年間朝と夜しかごはんを食べなかったらしい」
「「え?」」
「……ヘンな奴だよな」
「……それは、レイに言われたくはないと思うが」
「ふーん……」テンは面白そうに本を読んでいる。「『火』の魔法には、『グナ』って単語が必ず入ってるんだ……」
「……ん?『炎』?」
「……あ。単語だけでも『石』の力が発動するんだね」テンは俺の顔を見つめた。
それを聞いたレイが、勇ましい声を出した。
「おう。じゃあ、全呪文の単語を解析すれば、カイトも『石』なしで、呪文の意味がわかるようにな……?」
「……んなこと、一生やっても終わらねえよ」俺は呆れた。
「あ、でもさ」テンはニコッと笑った。「たぶんカイト君は気づいていると思うけど、呪文のどこかに『方向』を表す単語があるらしいよ」
「……そうだな」
今までも、それを聞いて魔法を回避するのに成功していた。
「それだけでも聞き取れれば、『石』がなくても、相手の魔法に対応できるようにならないかな?」
「……それと、どの系統の魔法の対策をするか考えておけば、避けるなり防ぐなりできるかもな!」
――テンとレイの言うとおりかもしれない。
「こういう時は……専門書の出番だ!」
突然レイは、めっちゃ分厚い本を取り出した。
「……それは?」
「『現在わかっている魔法言語の単語リスト』」
「……結構量があるな」
「よくわかんないけど、1つの同じ意味を、50個くらいの単語で表していることもあるそうだ」
「……『難解な言葉』って言われるだけのことはあるねー」
「この中から『上』とか『下』とかの単語を探すと……あ、これとか」
「『スプラ』……へえ、『上』って意味なんだ」
――おお!何かすごいもの持ってんじゃん、レイ!
「『上下前後左右』だけでも覚えておくか!」
「うん!いいと思うよ!」
「あとは、『火』と『水』と……」
――教訓。
『持つべきものは友なり』




