360話 6月23日#37
俺は、とりあえずレイの部屋へ入った。
床にうずくまって泣いているテンの背中を擦りながら、レイの顔を見て訊ねた。
「俺は、誰かわかるか?」
「……『脳筋』」
「……わかってんじゃねえか」俺はテンの肩を叩いた。「レイは真顔で冗談言ってるだけだ、落ち込むな……あと、レイ。こいつが俺たちの中で、一番お前のことを心配して気を張ってたんだ。もっと優しくしろよ」
「……ごめんなさい」
テンは顔を上げ、レイの方を向いた。
「……あの……寝ぼけてた」と、レイは決まり悪そうに付け加えた。
「じゃあ、今はわかる?」テンは、食い入るようにレイを見つめた。
「……『やさ……』……えっと、『テン』」
――今、またテンを落ち込ませることを言おうとしてたな。
でも、結局思いとどまってテンの名前を呼んだので、テンは「よかったーー!!」と叫んで、レイの手を握った。
「……あ!レイさんの手、あったかい……!」
テンは床に膝を立てて、レイの顔を見つめた。
「よかった、体温も戻ってきたんだね……!」
「んー。まあ、そうかも」
レイはじーっとテンの手を見て、ランプ型ピアスをサイドテーブルにおいてから、テンの手を両手で挟むように触った。
「……温かい?」
「うん」テンは自由な方の手で、涙を拭いた。「やっぱりレイさんが温かいと、僕も安心する」
何でレイの体温について、テンが詳しいんだろう……と思いながら、俺は横からそっと声をかけた。
「レイ。腹減ってないか?ちょっとした夜食を、ピエール号が用意してくれたんだが」
「……あ!そうだった!」テンは、そう言いながら立ち上がった。「結構美味しくて、珍しい料理なんだ。食べてみる?」
「う、うん……」
テンは、レイの手を掴んだまま、反対の手でレイの背中に手を回し、優しく支えて立ち上がらせた。
結果、レイはテンに抱かれるような形になった。レイとテンは一度見つめ合った後、互いの手をそっと離した。
「行こう。君に話したいことがたくさんあるんだ」
「あー、うん。そうか」
2人は扉に向かって、ゆっくり歩き出した。
「どこから話したらいいんだろう……あ、まずはみんなを紹介しなきゃね!」
「そういえば、完全に見覚えない人もいるな……」
「みんな!ダイニングに行こう!全員揃ったし、みんなでおしゃべりしよう!」
「……眠いんだが」
「でも一応、自己紹介くらいはしておいた方がいいんじゃないのぉ?」
「レイもまだ寝たいだろうし、みんなで夜食を食べながら軽く話をしよう」
「それがいいですね」
「とりあえず、いきなり叫ぶのはナシよ」
「……でも、気持ちはわかる……」
「……ま。『野菜男』の気の済むまで、付き合ってやるか」
みんなでガヤガヤと話しながら、ダイニングへと向かう。
俺も後を追いながら……
「何か、マジで仲良くなってる……」
――ちょっと驚いていた。




