356話 6月23日#33〜仲間と孤独④〜
ピスケスは、わたくしの予想を裏切る能力の持ち主でした。
――魔法がわたくしに、悉く効きませんでした。
とにかく、霧を水で流せば、彼女の魔法の大半を防ぐことができました。
しかも、彼女の布を使った攻撃『タバクトヨク』も、布が水を吸うと使えなくなってしまうようです。
正直、こんなに『水』に弱い人に、初めて会いました。
「……てか、あんたの『水の量』がおかしいんだって!」
確かに、今わたくしの周りにプール1杯分くらいの水が浮かんでいますが、これは『量』の問題ではないと思います。
「あなた……『修行』を怠りましたね」
「……は?」
「本来なら、星霊使い同士の戦いで、こんなに差が出ることはないはずです」
「……何が言いたい?」
「あなたは『カリスマ性』と『リーダーシップ』はあるかもしれませんが、それがいったん崩れ、1人になってしまうと、とても弱いということです」
「何だと!」
「あなたに足りないのは、あなたを支えてくれる『仲間』です」わたくしは淡々と続けました。「無理やりに作るものではなく、あなたを受け入れてくれる『仲間』……それができない限り、わたくしにもテンさんにも、勝つことができません」
「うるさい!」ピスケスは、大きな声で叫びました。「『パフュームバインド』!」
「『リフレクション』!」
ピスケスは拘束する魔法をかけたようで、わたくしの両手両足の動きが鈍りました――が、わたくしの魔法で弾き返され、ピスケス自身が拘束されることになりました。
「はあっ!」
ピスケスは地面に倒れ、こちらを睨みつけています。
「あんた……あたくしを……そんなに、怒らせたい……!?」
「いいえ、事実を言ったまでです」
わたくしは、空中に浮かんでいた水を、全て地面へ落としました。ピスケスは水に濡れ、元の妖艶さは微塵も残っていない姿となりました。
「あんた、それであたくしに勝ったつもり……?」
「もうとっくの昔に、勝負はついています」
「……は?」
ピスケスは、わたくしの胸元を見つめ、ネックレスがないことに気がつきました。
「え?まさか……!?」
ピスケスは自分が『石』を持っているか、確認したかったようです。
でも、手足が思ったように動きません。
わたくしは盾を背負い、その場から去ろうとしました。
「……あんたたちの思いどおりになると思ったら、大間違いだぞ!!」
わたくしは振り返らず、ただ前へと歩き出しました。
セメレへ帰ってきて、わたくしはまず月の神様を探しました。
月の神様は、カニス・ミノルさんとヒドラさんの2人と一緒でした。姿は、ロボットと言えばロボットなのですが、ペットのお散歩でリードを引っ張る小型のものにアレンジしたようです。
「無事に、取り返せましたね」
『ええ』
月の神様はピンク色に光りました。
「カニス・ミノルさんとヒドラさんも、ご協力ありがとうございました」
「いえ。このくらいお安いご用です!」
「カンケルさんの頼みなら、断れないっすね」
「もしよければ、わたくしの先生に会いに来てください。きっと先生も喜びます」
『カンケル先生に、よろしく伝えてくださいねー!』
わたくしたちはそんな会話をして、その場で星霊2人と別れました。
今はまた、月の神様はピエールネックレスさんに戻っています。
「見つかってよかったですね」
『ええ、ホント』ピエールネックレスさんは、わたくしの胸元でピンク色に光っています。『やっぱりワタクシ、強運の持ち主のようです』
「日頃の行いがよろしいからではないでしょうか?」
『えへへ、そうですかね?』
「ええ。そう思いますよ」
わたくしたちは、集合場所にやって来ました。
セメレの北にある、森の中へと続く道の手前にある広いスペースです。
そこにいたのは、ソフィアさんです。
「……ああ、よく来たな」ソフィアさんは、わたくしたちに近づいて来ました。「レイたちも、ミィやミライも、この奥にいる。私の蔓で隠してある」
「そうですか」わたくしは、誰かが見ていないかどうか、周囲に気を配りました。「飛空艇に乗りますか?」
「そうだな。その方が、みんな安全だろう」
『そういうことなら、ワタクシにおまかせください!』
ピエールネックレスさんは、わたくしの首から外れると、『へんし〜ん!』と言いながら、どんどん大きく膨らみました。
そしてあっという間に、小型の飛空艇がわたくしたちの前に現れました。
「……ほう」ソフィアさんは、目を細めました。「面白いものだな」
「すごいですね、月の神様」
『ええ、そうですよ〜!なんたって神ですから〜!……あ、でもワタクシのことは、今度から『ピエール号』と呼んでくださ〜い!』
「ええ、わかりました。『ピエール号さん』」
わたくしとソフィアさんはくすりと笑いました。
「……では、他の仲間を連れてくる。中に入って待っててくれ」
「かしこまりました」
わたくしは、ピエール号のタラップを上りながら、「みんながいるから、きっと大丈夫」と、心の中でつぶやきました。




