355話 6月23日#32〜仲間と孤独③〜
「『ウォータージェット』!」
わたくしは盾に乗ると、そう魔法の名前を言いました。
わたくしの盾は強く水を噴き出し、川を逆流していきます。
その下で、黒いヒドラさんの背中がちらりと見えました。
『なかなか豪快な使い方ですね!』
「ええ。知ってます」
わたくしはピエールネックレスさんに返事をしながら、盾の操縦に集中していました。
それからしばらくたち、川岸を『カニス・ミノル』さんが走ってきました。
「僕も、ピスケス見つけたよ!」犬らしく、とても純粋で誇らしげな様子でした。「僕も一緒に行きます!」
「ええ、ありがとうございます!」
『カニス・ミノル』さんも、わたくしの隣を結構なスピードで並走し始めました。
――それから2時間以上経った頃。
わたくしたちは、ようやく目的の場所へたどり着きました。
ピスケスは予想に反し、川辺の草の陰に隠れるようにして、ぼんやりしていました。
「おーい、ピスケスさーん!」
カニス・ミノルさんが話しかけると、ピスケスはこちらをギロッと睨みつけました。
「だから、あたくしに構うなって言ってるだろ!?」
テンさんが「僕が黙らせた。1時間くらい氷漬けにしてやった」と言っていたのが、効いたのでしょうか?
「わたくしは、あなたが持っている『石』を、取り戻しに来ました」わたくしは、盾から降りながら言いました。「……あなたが持っていると、『予知』で視ました。もしお持ちなら、わたくしに今すぐ返し……」
「……あんた」
「はい」
「……あたくしが、『あんたを連れ去る』って計画立ててたら、どうするんだい?」
「……それは、無理です」
「なぜ言い切れる?」
「わたくしの未来に、そのような結果は出ていません」
「……あー、もー!わけわかんないっ!」ピスケスは、半ば自暴自棄に陥っているようです。「何なの、あの男!あたくしの術に全然引っかからないし、挙げ句の果てに、あたくしの腹に穴を開けるし……」
「……テンさんのことですか?」
「あんたはどうかしら?」突然、ピスケスは立ち上がり、どこからともなく布を取り出しました。「あんたを籠絡させて、あたしの言いなりにすれば……」
「……お止めください」わたくしは、しっかりと彼女を見つめました。「そのように無理やり人を自分の言いなりにさせようとしても、人は動きません」
「……じゃあ、こいつらに噛み殺されるってのはどうだい?」
すると、あたりに霧が立ちこめました。地面から何者かの腕が出て、わたくしのスカートを引っ張ろうとしています。
わたくしはそちらを全く見ようもしませんでした。
「『フォールフラッシュ』!」
わたくしの周りを、滝のような速く落下する大量の水が取り囲みました。
霧は洗い流され、地面から出てきていた手は消えてなくなりました。
「………………」
「……さあ、『石』を返してください」
わたくしは、一歩前へ踏み出しました。
「あなたが持っていて、いいものではありません」
「………………」
ピスケスは、わたくしの胸元を見ました。
「……そのネックレス……」
「……はい」
「あたくしにくれない?」
「なぜですか?」
「『交換条件』だ」
ピスケスはそう言って、布製の小さな袋を取り出しました。
「あんたがそれくれたら、あたくしも『石』をあげる」
「……ダメです」
「なぜ?」
「人から奪ったものを取り返しに来たんです。『交換条件』など、成立しません」
「あんた、頭固いねえ」
ピスケスの持っている大きな布が、わたくしの胸へたなびいてきました。
「それの正体はわかっている」と、ピスケスはネックレスを指さしました。
「……そうですか」
「力づくで奪ってもいいんだぞ?」
「……ダメです」
「なぜ?」
「それは、あなたにとっての最良の選択にはならないからです」
「…………意味わかんない」
――どうも、ピスケスとわたくしでは、お互いに話が通じないようです。
「……まあ、いい」ピスケスは布を引っ込め、自分の肩に掛けました。「どうせあんたと戦っているうちに、いつの間にか『ネックレス』に『石』を盗られるんだろうけど、ただ渡すわけにはいかないからね」
ピスケスは布を両手で握りました。テンさんの言うとおり、両端が硬くなり、真ん中が柔らかいままです。
「あたくしが貴様を連れ去る……本気でかかってこい、カンケル!」




