354話 6月23日#31〜仲間と孤独②〜
『そういえば星霊使いって、『石』必要ないですよね……』
ピエールネックレスさんの言葉に、かに座の星霊先生は同意しました。
「そうね。基本的に『石』を持っているメリットはほぼないわね」
『石』の魔法を引き出すには、『太陽星座』や『月星座』が『石』の星座と一致する必要があります。
しかし、星霊使いになるためには、『太陽星座』と『月星座』が、修行で得る魔法の『星座』と一致する必要があります。
つまり、星霊使いが使える『石』は1つしかないのですが、その唯一の『石』の魔法は修行で得られるものなので、修行を終えた星霊使いは、『石』を持っている必要はありません。
――ただし、自分の星座の『石』なら、所持していることに多少メリットはあります。
「……自分の『石』なら、持っていれば他の人に自分の魔法を使われることがなくなるし、呪いの解除にも役に立つ」
『でも、他の星霊使いさんの『石』を持つメリットは、ほぼありませんね』
そして突然、ピエールネックレスさんは大きな声を出しました。
『……つまり、そこらへんに捨てても問題ないってことになるかもしれ……わあ!そうなったら、ワタクシ……!!』
「まあ、そういう可能性もなくはないですが、わたくしが視た限りでは、レイさんたちが集めた『石』がバラバラになることはなさそうです」
「むしろ、持っている可能性が高いわね」と、先生は言いました。「ピスケス本人が持っている方が、秘匿性が高くなるでしょう?」
『……それもそうですね』
――となると。
今、ピスケスがいる場所に、『石』がありそうです。
「……では、ディアナ周辺のどこかでしょうか?」
「そうかもしれないわね……」先生は、コツンと、何か音を立てました。
『いかがされました?』ピエールネックレスさんがわたくしの胸元で揺れています。
「『ご近所さん』に協力を仰ごうと思って」
『『ご近所さん』ですか?』
「はい。私の周りに、鼻の利く『こいぬ座さん』と、水の中を泳げる『うみへび座さん』がいますので、一緒に探してもらいましょう!」
「……具体的に、どうするのでしょうか?」
わたくしも意味がよくわからなくて、首を傾げました。
「あなたの盾が、私の『鏡像』であることは知ってますよね?」
「ええ」
「実は十二星座以外の星座たちも、同じように『鏡像』があるのです」
「その『鏡像』が、こちらの世界にやって来る……ということですか?」
「そのとおりです」
――まだはっきりとはわかりませんが、わたくしは先生との連絡を切り、指定された場所まで歩いていくことにしました。
そこは、川のほとりでした。
この川はイェリナ一大きな川で、両岸には、広く平坦な草地がありました。
わたくしが草地に沿って道を歩いていると、向こうから何かが猛スピードでこちらにやって来るのが見えました。
わたくしは立ち止まり、その方――小型の犬――が、こちらに来るのを待っていました。
「『カヤさん』ですね!」
「ええ」
「僕の頭、撫でてください!」
「はい」
私はしゃがんで、『こいぬ座さん』に手を差し出しました。
「お手」
「ワン!」
「おすわり」
「ワン!」
「……よくできました!」
私は微笑みながら、カニス・ミノルさんを撫でました。カニス・ミノルさんは、とても嬉しそうに尻尾を振っています。
ふと横を見ると、川の方から小さなヘビがやって来ました。
「もしかして……『うみへび座さん』?」
「あー。そっすー」ヒドラさんは、少しかったるそうな言い方をしていました。「カンケルさんのお弟子さん……随分優しそうな人っすね」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
――さて。
「とりあえず、お二人にしていただきたいことは、ピスケスの星霊使いを探すことです」
それを聞いた2人の反応は、とても早いものでした。
「「要するに、『魚のにおいのする人間』を探せばいいわけで(っ)すね!」」
「え、ええ……?」
――『うお座』だからって、魚のにおいがするものなのでしょうか……?
「じゃ!早速行ってきます!」
「あとはうちらに任せな!」
――2人は、あっという間にいなくなってしまいました……
わたくしは、川に沿ってゆっくり歩いていました。
『他にいい案があるといいんですけどね』
ピエールネックレスさんは、ぽつりとつぶやきました。
「そうですね、わたくしもそう思います」
――何か、わたくしにできることがあるといいのですが。
「迷わなければ、街なかを探してみる手はあったんですけどね」
『やっぱり、初めて来た場所ですからね』
それからしばらくして、川の水の中を大きな黒いものが通過していきました。
それはわたくしのいるところでくにゃりと曲がり、わたくしの方へその恐ろしげな顔を向けました。
「『うみへび座さん』……ですか?」
「そっすー」ヒドラさんは、大きな舌をピコピコ動かしました。「さすが星霊使い。あたしのこの姿にも動じないっすね!」
『ところで、何かわかったんですか?』と、ピエールネックレスさんは訊ねました。
「うっす!」ヒドラさんは、川の上流の方を見つめました。「あっちに、目的の『ピスケスさん』がいるっすー」
「案内していただけませんか?」
「いーっすけど、めっちゃ遠いっすよ?」
「……では、わたくしは盾に乗って参ります」




