349話 6月23日#26〜戦いの前に〜
「……それは大変。その子の彼女が亡くなったら、本当に悲しいわ」
私が義母――つまり、おとめ座の星霊――に事情を話すと、義母はそう言ってしょげた。
――あれ?『その子』ってテンのことか?『彼女』はレイ?2人はもう付き合っていたんだっけか?――その前に、それ以外に重要なこともいくつか言った気がするが……
「……まあ、いい」私は首を振った。「とにかく、時間がない。超特急で『みずがめ座の星霊の家』へ行きたい。お願いしてもいいか?」
「ええ。もちろんいいわ」義母は手を差し伸べた。「行きましょう、ソフィア」
すると、私たちの家から太い蔓が何本も伸びてきて、私たちを先端に乗せてぐんぐん伸びていった。
――毎回思うが、義母の蔓の成長スピードは、早すぎる。私は振り落とされないようしっかり掴まっていたが、自分が弾丸のような速さで飛んでいっているのが、体で感じられた。
でも、おかげで『ユグドラシル』の枝の根元まで、あっという間に到着した。
「『アクアリウスの家』へ、お願い」
義母がそう言うと、枝の根元にある扉がすぐに開いた。
「緊急事態だものね、早く『恋人』を見つけてあげなきゃ!」
「……いや。そもそも目的地にレイがいるのかどうか……」
――義母は聞いてなかった。
義母の身長は5メートル以上ある。ズカズカ歩かれると後ろを追う私が追いつくのが大変になるのだが、やる気満々の義母が足を緩める様子はなかった。
――最終的に、私は走った。
『ユグドラシル』の中は、目的地まで続いている光る道以外は真っ暗だ。走るのは、結構怖い。
それでもやがて、出口から出ることができた。
「……さ!早く蔓に乗って!」
――少しは休ませてほしい。
そう思いながら、私は義母の蔓に掴まった。
アクアリウスの家は、全体が、ゴウゴウと音を立てる大きな炎に包まれていた。
――よって、その中にいる星霊は、会わずとも誰かわかった。
「『おひつじ座の星霊』ね……」
「ああ、そうだな……」
――『羊』なんて、十二星座で一番温厚そうな動物なのに、なぜこんなにも苛烈な戦い方をするんだろう……?
そんなことを思いながら、私と義母は近づいていった。
――が、
「「熱い!」」
そもそも熱すぎて、土地の中へ入ることすらできん。
「これは、アクアリウスも中でやられているのでは……?」
「それが、そうでもないかも……」義母は顎に指を当てた。「『水瓶』って、無生物でしょ?あと攻撃方法が『音』でしょ?」
「どっちの特徴も、『熱』に強い……?」
「……という気がする」
義母は、手のひらを熱源に向けた。
「しかも、『再生能力』もあるから……アリエスは苦戦するかも……」
「以前星霊使い同士で戦った時は……?」
「あれ、『アリエスがアクアリウスを倒した』というより、『決着が着かなかったので、アリエスは爆発でアクアリウスを空のかなたへ吹っ飛ばした』感じなのよね」
――さすが義母。レイの心を読むのが早い。
「うーん……決死の覚悟で『あれ』使って行きましょうか」
「……『ハーバルチューブ』か?」
「わたくしとあなたで2重にかければ、何とか行けるかもしれない」
「……で、現場へ行ったらどうすればいい?」
「それも、今のうちに考えた方がいいわね」
義母は、私の方を振り向いた。
「……あなた、アクアリウスの動向を読んでみて」
私は「はい」と言って、目を瞑って、魔法でアクアリウスの様子を探った。
「……アクアリウスの星霊使いは、星霊の水瓶に守られている」と、私は言った。「仕組みはよくわからんが、『音』で『炎』と『熱』を遠ざけている」
「そうね……」ちらりと見ると、義母も私と同じことをしていた。
「アクアリウスの星霊は、ほぼノーダメージ……空に逆さまになって浮いているから、比較的低い温度のところにいる」
「そうね……」
「主に星霊使いがアリエスに攻撃している……そうか、敵は素早く攻撃できるから、アリエスはカウンター魔法を使うヒマがないのか」
「それは、ウラヌスでの戦いと一緒ね」
「素早い動きは、私たちも得意だ」私は義母を見た。「私たちなら、アリエスを助けられる!」
「……そうね。わたくしもそう思うわ!」
すると、義母の目が変わった。
「行きましょう。『彼』の喜ぶ顔を見るために、一緒に頑張りましょ!」
「……まあ、それも目的のうちの1つではあるんだが……」
こうして私たちは、炎に包まれた『家』の中へと入っていった。




