344話 6月23日#21〜ウシVSサソリ③〜
「……オラオラオラオラ!!」
「……たあああああああ!!」
スコルピウスは拳で殴り、あたしはハンマーで殴る。
確かに、スコルピウスの拳は石みたいに――というか、もはやダイヤモンド並みに――硬く、あたしのハンマーと同じくらいの威力のあるパンチを出していた。
――だけど、しょせん素手は素手。武器を使っているあたしより、確実にダメージが溜まってきている。
「……この!」
スコルピウスは再び鎧を着て、鎧についているグローブ――って解釈でいいのかなあ――を手に嵌めて、立ち上がった。
「……あんた、立てんの」
「当たり前だ!」
――だったら、最初から立って戦えばいいのに。
――ガキンッ!!!
あたしのハンマーとスコルピウスのグローブが激突した音は、金属同士が当たったような比較的高くて――大きな音だった。
お互いに、反動で後ろに下がった。
「ぐっ!!」
やっぱり、スコルピウスは疲れてきているようだ。明らかに腕を痛めている。
「……さっき言ったこと、訂正する」
「……は?何?」
「貴様が……世界で……一番……嫌いだ!!」
「……負けそうになっただけで、人を嫌いになるなんてぇ……ただのガキだな」
「うるせえ!!」
スコルピウスはまた鎧を仕舞うと、懐から何か取り出した。
「女に生まれたことを後悔させてやる!!」
スコルピウスはそう言って、手の中のものをあたしに投げつけた。
――それは、紙の袋だった。
あたしは咄嗟にそれを手で払ったけど、袋は破けていて、中に入っていたもの――黄色い粉薬――が、あたしの頭にドバッと降りかかってきた。
――「『黄色い粉』にだけは気をつけてね」
そういえば、あの背の高い人――名前は、えっと、テン……だったかな――がそう忠告してくれた。
――だけど、あたしはその粉を吸ってしまった。
「くしゅっ……う、うがっ……!!」
――何これ。
体が動かなくなっただけじゃない。息も止まりそう。
――これ、心臓まで行き届いたら、死ぬんじゃないの?
「……これだけの濃度があれば、何もしなくても貴様は死ぬな」
スコルピウスは、あたしに近づいて来る。
「でも、僕を散々傷つけた報いは受けてもらう」
スコルピウスは、あたしの頭に片足を乗せた。
「さあ、どうしようか……?」
――あたしは、動かない舌と口を必死に動かして、全力で魔法の名前を宣言した。
「……ぱ……『パラライクラッシュ』……!」
魔法によって脳天に強い衝撃を受けたスコルピウスも、地面に倒れた。
「……な、これ……息が、でき……!!」
――あたしが『麻痺』させる魔法を持っていたなんて、きっと知らなかったよねぇ。
2人して、全身が痺れて地面を這いずり、息が切れてゼェハァ言ってるうちに、どこかから足音が聞こえてきた。
そして、誰かの影が、あたしたちの上に覆いかぶさってきた。
「……これは、大変だ」
「どうしたらいいですかねえ……」
あたしの師匠の声も聞こえる。
「呪い解除の『矢』を使いましょう。私が矢を撃ったら、彼女にキスしてみてください」
――何か、よくわからない単語が聞こえてきた。
でも、師匠がキス――てか、あたしの顔を舐めた――してくれたら、何か気持ちよくなって瞼が重くなった。
隣で寝ていたスコルピウスが、馬の脚に蹴っぽられて地面の割れ目に落ちていくのを見ながら、あたしは眠ってしまった。
スカーレットの鎧は、立ち上がった姿勢だと防御力が弱くなるので、普段は四つん這いになったまま戦っているらしいです。




