341話 6月23日#18
俺とキーラは、互いに見つめ合っていた。
「……空賊相手に、慈悲は必要ないと言っただろうが」
「……『賊』と一緒にするな。俺は別に、あんたを殺しにここに来たわけじゃねえんだ」
しばらく、地面に這いつくばったままお互いに相手をじーっと見つめていた。
やがて、キーラがふっと笑った。
「……なるほど。私の負けだな」
キーラはそう言ってから、ゆっくり立ち上がった。
俺も剣を捨て、体を起こそうと……
「……痛ってっ!!」
――左腕に、激痛が走った。
俺がまた地面に倒れた時、すっと俺の前に、手が差し出された。
「ダメージそのものは、私より大きそうだな」
俺はふうと息を吐き、その手を右手で掴んだ。
キーラは俺を引っ張り上げ、俺に微笑みかけた。
「君の不屈の精神、私も見習わなきゃね」
キーラは地面に落ちている自分の剣を取り、その場から立ち去っていった。
俺はぼーっとしていたが、ふと目の端にテンの姿が見えた。俺の剣を手に持っている。
「……カイト君、大丈夫!?」
「あー……あんまり大丈夫じゃない」
主に左腕、頭、目、鼻の中、喉の奥が痛い。
「えーっと、」テンは俺の左腕を手に取った。「……結構深くいっちゃってるね」
――でも、テンが俺の腕をトントン叩くと、傷が消えて元どおりになった。
「……随分石の力を使いこなしているな」
「うんうん。褒めてくれてありがと」テンは帽子の中を、ごそごそ探した。「……それと、あと……これだね。これ、水で飲んで」
何やら錠剤が手渡された。
「これは……?」
「軽い症状の毒を解毒する薬。ちょっと効くまで時間かかるから、そこは勘弁して」
俺は水を飲んでいる時に、周囲を見渡した。
戦いに夢中で、空賊たちが観戦していたのを忘れていたが、誰も俺たちの方を見ていなかった。
――全員が俺と同様に、魔法の毒で苦しんでいた。みんな目や喉の痛みを訴えている。
「……あれは、ちょっとやり過ぎだったよね」俺と、空になった水筒と俺の剣を交換しながら、テンは言った。「僕もちょっと吸っちゃって、これはマズいなと思ったよ」
「……貴様ら」
振り返ると、椅子に横になっているモルガンが、こちらを見つめていた。
「……本当に、面白い試合をするんじゃない。思わず見てしまったではないか」
「……褒め言葉として、受け取っとくよ」
俺とテンは顔を見合わせて、ニヤッと笑った。
その時、そのモルガンの隣に、カエデが現れた。
「みなさん、ご苦労さまです。お疲れでしょう?これから何か話があると、嬢ちゃんが言ってましたよ。すぐに来てくださいな」
――どうやら、労ろうとしているわけではないらしい。
俺とテンは塀を乗り越えて、モルガンと共にカエデの後を追った。
向かった先には、食堂があった。
――そしてそこで、キーラとデュカが何かを食べていた。
「……来たな」
さっき試合が終わったばかりなのに、いつここまで来て、さらに料理まで食べているんだろう|(デュカは、いつ目覚めたんだろう)?――などと思いつつ、俺たちはキーラが指さした席に座った。
「何か、食べるか?」
――俺たちは、水だけもらった。俺、喉痛いし。
「……では私はこれで」カエデが手を振った。「せっかくの私の誕生日だし、宴会の続きに参加しなきゃ」
――あの状態で、何か祝うムードになれるのだろうか……?
「……それで、1つ訊きたいことがあるんだが……」キーラは俺たちに訊ねた。「君たちは、なぜ『石』が欲しいんだ?」
「『月の神』と、俺たちの『仲間』を救いたいんです」
それから、手短に説明すると、キーラは「なるほど」と、頷いた。
「そうか、それで……『石』を……」
それから、キーラは身を乗り出して俺たちを見つめた。
「君たちの言い分はわかった。はるばるここまで、よく頑張ってきたな」
――どうやら理解してもらえたようだ。
「……だが、『石』を君たちに渡すわけにはいかないな」
「「……え?」」
現在時刻は、3時半くらい。
タイムリミットまで、あと2時間ちょっと――つまり、時間がない。
俺とテンは、互いに顔を見合わせた。




