340話 6月23日#17
とにかく、このままでは埒が明かない。
俺は戦略を変えることにした。
「……おや?」
キーラの攻撃を無視して、ドラゴンに重点的に攻撃を仕掛けた。
「キュウ、キュウ!」
ドラゴンは先ほどまでとは異なる鳴き声を上げ、俺から逃げ始めた。
「……私が攻撃し放題なんだが」
――しかし、キーラの攻撃は、俺の左腕にしか当たらなかった。
俺は1つだけ、注意しながらドラゴンを追っていた。
――キーラには、脇腹を見せ続けた。
相手が『突いてくる』ということは、攻撃範囲はかなり狭い。脇に刺そうとしても当てにくいし、腕やあばら骨で急所が守られ、体の損傷が少なくなる。
俺はドラゴンを追っていき、とうとう地面に叩き落した。
「キュウウゥゥ……!」
そして、俺が斬りつけようとした瞬間、
「……待て!」
――とキーラは叫び、彼女の剣が、ドラゴンと俺の剣の間に入ってきた。
「……よく頑張ったな、リーナ」キーラは優しくドラゴンを撫でた。「もう休んでいいぞ」
「ミュウゥゥ……」
ドラゴンは鳴き声を残し、どこかへ飛んでいってしまった。
「……結構優しいんだな」
俺がそう言うと、キーラはクスッと笑った。
「優しさもないと、人もドラゴンもついて来ない」
キーラは後ろへ下がると、深呼吸をした。
「……じゃあ、私も戦略を変えようか」
――キーラは、今度は俺の心臓ばかり狙って刺そうとしてきた。
これもまた、俺の攻撃を封じる戦い方だった。
左利きの特権で、剣を振ってるだけで、心臓のある自分の左胸を、腕と剣で楽にガードできる。右利きだと、自分の心臓をそうやって守りにくいし、相手の剣が邪魔なので攻撃しにくい。
加えて、俺の剣の方が短い。
――分が悪そうなので、俺はまた戦略を変えた。
「……おや?」
――剣を鞘に収めた。
「どうするつもりかな?」
「……剣で戦っても、勝てそうもない」
俺は、剣を捨てた。
「……殴って勝つ」
突然、キーラは笑い出した。
「まさかここで、武器を捨てる人がいるとはね!」
キーラは剣を突き出す。
「いいよ、いいよ!やってごらん!私も全力で相手してあげる!」
キーラは、突きの速度を上げた。俺は、かわし続ける。
――でも、さっきまでと違うところもあった。
俺は、右手を自由に使えるようになった。
できるだけ左へと回り込みつつ、相手の懐に入る隙をねらう。
それに合わせて、キーラも左へ回って、剣で俺を突き刺そうとする。
俺が武器を捨てたにも関わらず、なかなか決着がつかないので、キーラはぽろっとつぶやいた。
「……意外と粘るな……」
キーラは突然、後ろへ下がった。
「あんまり君を相手に使いたくはなかったんだが……」
俺から距離を取りながら言った。
「……このままだと、日が暮れそうだから、さっさと決着をつける」
――俺はその言葉に、はっとした。
リミットは『日が暮れ』るまで――俺も、早く決着をつけたい。
「いくぞ、『スモッグ』!」
あたりにうっすらと、霧がかかる。
――突然、両目が痛くなった。
喉も鼻も痛くなった。呼吸するだけで、痛みだす。
――でも、前に出た。
早く仲間の元へ、戻るために。
「……はああああああ!!」
俺は、キーラに向かって突進していった。
キーラが、剣で俺の心臓を突き刺そうとした。
俺が腕で心臓を庇ったので、剣は左腕に突き刺さった。
それに構わず、俺は右足で相手の左腕を蹴った。
衝撃で剣はキーラの左手から飛び出し、俺の左腕をえぐった後に抜け、地面に落ちた。
血が流れ、左腕が痛い。
だが、俺はキーラに体当たりをした。
キーラは地面に倒れた。
俺は、地面に転がっているキーラの剣を取りに行った。
キーラは地面に座ったまま、俺を足で躓かせた。
俺も地面に倒れ、剣には手が届かなかった。
キーラは体勢を変え、剣に向かって手を伸ばした。
俺も、剣に向かって手を伸ばした。
そして、先に剣に手が届いたのは……
――俺だった。
俺は、地面に倒れたキーラの方を振り返り、剣を突きつけた。
キーラの鼻の前で、剣はピタリと止まった。




