335話 6月23日#12〜不公平な戦い③〜
「この……!!」
「『スピンドルスパイダーネット』!」
デュカがまた突進しようとしていたので、僕は至近距離から蜘蛛の巣を投げつけて、時間稼ぎをすることにした。
「ぐおっ!何だこれ……動けねえ!!」
僕は会場を、ぐるりと見渡した。
見た目は、『闘技場』と大して変わらない。石の壁に広いフィールド、天井なしの開放的な空間。
だが、いくつか相違点もある。
――まず1つ目は、大きさが小さい――これは、仕方がないかも。
――2つ目は、フィールドと観客席を分けるバリアがない。観客席から物が投げ込まれたことから、少なくとも物理的なバリアは張られていない。
――そして3つ目。フィールドの地下に部屋がない。
僕は、ほとんど闘技場へ足を踏み入れたことがなかったけど、13歳くらいの頃に一度だけケレスの闘技場へ試合を観に行ったことがある。
その時の記憶と、カイト君の話を総合して考えると、ケレスの闘技場には、フィールドの下に広い地下空間がある。
その利用方法は色々で、魔法の水を排水する装置が付いていたり、水中戦や水軍戦|(軍艦同士で戦うらしい)の時に、防水の魔法を張る機械を設置したり、夏の暑い時に、地下から観客席に向かって吹き出すクーラーの冷却装置になったりもする。
――でも、そんな地下空間は、ここにはない。
言い切れる理由は2つ。
――1つ目は、ここが空中に浮かぶ島だから。
カイト君の話では、さっき言った『巨大地下空間』は、かなり深いところにある。カイト君の感覚をあてにすると、たぶん地下5階くらい――でないと、魔法を使って地面にダメージが加わった時、フィールドが崩れてしまうから。
しかしこの空中の島で地下深くにそんな空間はないだろう。掘ったら、絶対島が崩れて穴が開くと思う。
――2つ目は、排水。
先ほど僕が撃った魔法の水が、いつまで経っても排水される様子がない。
つまり、ここの土は『水はけが悪い』。
地下に空間があれば、そこへ排水されるから、水はけはよくなるはずだ。
――あ。もしかして、魔法で大量の水を土に含ませたら、デュカがどろどろになって動きにくくなるかも。
――という感じで、長々と説明したが。
要するに、どんな仕掛けがフィールドに施されていても、その仕掛けを維持している『何か』は、絶対フィールドと同じ1階にある。まさか仕掛けが『物がまっすぐ飛ばない装置』だけということはないはずだし、できれば全て見つけて破壊したい。
――と、僕が状況を頭の中で整理し終わった時、デュカは『蜘蛛の巣』から抜け、のろのろと立ち上がった。
「……小癪な奴め」デュカはギロッとこちらを睨んだ。「……だが、ここからは効かんぞ」
デュカは走って僕の目の前まで一気に距離を詰め、連続でパンチを繰り出した。僕は全部避けて、足元にあった割れてない酒瓶と紙くずを、両手に1つずつ持った。
「……何のつもりだ?」
「武装」
「……ふざけてるのか?」
「ふざけてるように見える?」
デュカは、全く意味がわかってない。
「……紙くずなんて、何に使えるんだよ?」
「こうやって使う」
僕は袖口から出したあるものを酒瓶に詰め、瓶に紙くずで蓋をした。
「……はああああ!!!」
――何でもいいけど、このおっさん、僕が出会った人の中で一番攻撃パターンが単調なんだけど。
「捕まえ……!!」
デュカが僕の両腕を捕まえようとした時、僕は後ろへ大きく跳躍した。
その反動で、酒瓶をデュカに思いっきり投げつけた。
――どかーーん!!
酒瓶は爆発し、割れた欠片がデュカの顔に降りかかった。
――のと同時に、白い粉があたりを包みこんだ。
「……ゲホッ!ゲホッ!」デュカさん、また咳してる。「な、何これ……?」
「チョーク」
強い衝撃を与えると、急激に膨らんで爆発し、周囲にチョークの粉を振りまく道具――を、酒瓶に詰めた。
ちなみに、本来の使い方は『玩具』。人を驚かすのに使う。
――だけど、おかげで僕の目に、うっすら粉のついたバリアが見えるようになった。
「ざっと数えて……10個くらいかな」
「ゲホッ!……何が!?」
僕は何も答えず、フィールド中を駆け回り始めた。
何とか酒瓶の破片とチョークの粉を払い落としたデュカは、フィールドの外周を駆け回る僕を見て、呆然としていた。
「……何だ、あいつ……?」
デュカが、状況を理解できず攻めあぐねている間に、僕はフィールドを一周した。
「……じゃーん!!」僕は両腕を広げた。「僕、意外と足速いでしょー!?」
「……だから、何だ?」
「さっき僕、言ったでしょ?「僕は魔法の無駄遣いしないよ」って」僕はにこにこ笑った。「つまり、こうやって使うんだよ♪」
そして、僕は呪文を唱えた。
デュカは、僕が自分を狙ってると勘違いしたのか、横へステップを踏んだ――でも、僕が狙ってるのは、君じゃないんだよ。
僕がパチンと指を鳴らすと、僕が、走り回っている間に地面に刺した『針みたいな形の目印』の周辺が、爆発した。10か所同時に。
デュカだけでなく、観客も司会も、みんな驚いて飛び上がった。
――そして、もくもくと煙があたりに立ち込めた。
僕は宙を見つめ、ニヤリと笑った。
「……全部壊せたみたい♪」
『何を?』は、さすがのデュカも訊かずにわかったみたい。
フィールドにかかった各種バリアが、一斉に消えてなくなった。




