324話 6月23日#01
いよいよ、出発の時を迎えた。
「……はい!これが『おうし座の石』だよぉ!」
俺はミィから、『石』を受け取った。雨に濡れた土のような、濃い茶色の石だった。
「……ありがとう!大切に使うからな!」
俺とテンがモルガンの背中に乗ると、ミィは後ろに下がった。
「じゃ、がんばってねぇ!」
「……失敗したら、許さねえぞ」
「気をつけて、いってらっしゃいませ!」
「……健闘を祈る」
ミィ、ミライ、カヤ、ソフィアの4人の星霊使いに見守られながら、モルガンは暗い夜空に向かって飛び出した。
眼下に、街灯の明かりが星のようにきらめく夜の街が見えた。モルガンが上昇するにつれ、明かりも建物もすべてが遠のいていく。
「とりあえず、まっすぐ北を目指して、海に出ちゃおうか」
テンは、ジャイロコンパスを見ながら言った――テンが持っていたジャイロコンパスはレイに渡してしまっていたので、学校の授業で使う用のやつを1つ拝借した。
「どのくらい時間がかかる?」
「一昨日と同じペースなら、2時間くらいかな」
「……なるほど」
それからしばらく、俺たちは暗闇の中を滑るように飛んで行った。
――それにしても……
「……何も見えねえな」
「……そうだね」
あたりが暗すぎて、あまり前に進んでいる感覚がない。顔に風は当たるんだが。
「海へ出たら、どうする?」
「んー」俺は考えた。「こんなに暗い中じゃ、見つかりにくいだろうな。モルガンも疲れるだろうし、日が出るまで、試しに目立ちそうな海岸で休憩してようか」
――2時間後。
東の空がうっすら紫がかった頃に、俺たちは海岸へたどり着いた。
しばらく休憩しているうちに明るくなり、周りの様子が見えてきた。
「……誰もいないな」
「……ね」
しばらく待ってみたが、空賊どころか人っ子1人いない。
「……もういいか。出発しよう」
「ちなみに、その『ジャイロ何とか』で、島の位置は特定できぬのか?」
モルガンは、ジャイロコンパスを見つめるテンに訊ねた。
「うん」テンは頷いた。「公式にはないことになってるから、どんなに『ネプトゥヌス島』って念じても、反応しない」
「……使えぬな」
「今回は特別だよ。いつもなら、とっても便利な道具だよ!」
「……あ、そうだ!」俺はいいことを思いついた。「モルガン、吠えてみろ!空賊どもも、絶対俺たちの存在に気……」
「やだ」モルガンは俺から顔を背けた。
「何で?ドラゴンといえば、大きな咆哮が……」
「……むやみやたらと吠えるのは、男だけだ。あと『レジェンダリ』は、話せるから吠えたことがない」
「………………」
――まあ、モルガンがやる気にならないなら、仕方ないか。
「じゃあ、さっさと出発しよう」テンは立ち上がった。「目的地はわからないけど、方角はわかるから、もし迷ってもイェリナへ帰るのはそんなに難しくないね」
――ということで、俺たちは大海原を飛んでいくことになった。
「『トリトンの北』って言ってたから、少し東寄りに飛んでみよう」
モルガンはテンの指示におとなしく従い、太陽の方へ少し角度を変えた。
「………………あ。トリトンの真北まで来た」しばらくして、テンはそう言った。「ちょっとこのあたりで旋回してみるか」
そうやって、適当に飛び回っているうちに、急に何か奇妙な感覚に襲われた。
「今……俺たち、何かを通り抜けた?」
「これは……バリアだな」と、モルガンは言った。「もしかしたら、だいぶ近づいているのかもしれぬ」
――そんなことを言っていたら、俺たちは別のバリアを通り抜けた。
「……こんな簡単に侵入できるって、バリアとしてどうなんだろう……?」
「もしかして、モルガンさんに乗ってるから?」テンははっとした。「じゃあ、そろそろ空賊が……?」
「……そのようだ」モルガンは、上の方へ向きを変えた。「何か来る」




