315話 6月22日#03〜テンの夢〜
「テンは、小さい頃の夢とかなかったのか?」
俺がそう訊ねると、テンはうーんと考え込んだ。
「……正直、義理の母親が課す毎日の『課題』が厳しすぎて、そんなこと考える余裕が……」
――小さい頃に『課題が厳しい』と悩んでいたって、どんな家庭で育ったんだ?
「あ。でも、小さい頃はずっと都会に住んでたからわからなかったんだけど、12歳くらいに、田舎に住んでいる別の人に連れさら……あ、いや『引き取られた』時に、田舎で暮らすのもいいなと思ったことはあるな……真っ当な仕事なら」
――やっぱり何か隠してる。
「空気も美味しいし、地元の食材で作ったごはんも美味しいし……都会は、何かとうるさいから。人とか車とか多いし、裏社会があって人がころ……えへん、えへん!」
――何か今、物騒なことを言おうとしてたな。
「もし、レイさんが僕のところに生きて帰ってきてくれたら、一緒に田舎で暮らしてほしいなあ……」
「……そ、そうか……」
――何か最近テンと話すと、どこかでレイのことを話し出すんだけど。
「そういう意味なら、今の方が夢はいっぱいあるかな」テンは、指折り数え始めた。「レイさんともっと仲良くなって同じ屋根の下で暮らすようになって……毎日たくさん抱きしめて撫でてキスして、いっぱい愛でてあげて……毎日一緒に散歩して、一緒にご飯も食べて、一緒に寝て……たまに遊園地や動物園で遊んで、本屋や図書館へデートして、あと……」
「……おい」
――この人、好きな人を結構束縛するタイプかもしれない。
「たまには、レイに1人でいる時間を作ってやりなよ?」
「そ、それはそうだね……」
――ま、レイなら、気ままにテンを無視して、自分の好きなことをしてそうだけど。
「……あ、でも最近、今みたいにずっと旅をするのもいいなって思ってる」
「……ほお」
「その時は、君たちみんなをメンバーに入れたいな。さすがにレイさんとだけだと、どこかで道に迷っちゃいそうだし」
――まあ、テンはともかく、レイが『ずっとテンと一緒にいるか』と『迷子になるか』の2択でいるのは、ちょっとかわいそうだしな。
「……それにやっぱり旅の醍醐味は、みんなでわいわいやることじゃないかな!」
「……あー。そうだな」
――確かに、こうやってみんなで旅するのは、なかなか楽しい。
『ありさん』とかで、金を稼ぎながら移動することで意外とやっていけるとわかったし、何も目標を設定せずにブラブラするのもあり……あ、でも、
「俺もそれに参加してたら、グラディアトルの仕事辞めないといけなくなるかもな」
「……あー。そうだね」テンはため息をついた。「僕もいろいろやらなきゃいけないことあるし、やっぱりその夢はしばらくお預けかな……」
それからテンは、るんるんと歩き始めた。
「やー。レイさんと田舎で暮らすの、楽しみだなー!大きな家で、誰にも邪魔されずに2人で暮らして……庭には野菜畑があって、収穫して美味しく食べたり、収穫前のお花に集まったチョウチョやミツバチを眺めたり……あ、」
――テンは、目に見えて落ち込んだ。
「僕、虫が苦手だった……」




