309話 6月21日#06
この旅では、いろんな方法で移動していたが、まさかドラゴンが手に持っているかごに入って空を飛ぶことになるとは、夢にも思わなかった。
モルガンは、確かに飛行能力が向上したらしい。山がちの周囲の地形より高く、そして列車並みに速く、目的地へと飛んでいった。
かごの外を覗くと、山々がびゅんびゅん後ろへ過ぎ去っていく。風がちょっと強いが、なかなか壮観な景色だった。
「へえ!こんな体験するなんて、この旅に参加してよかった!」
テンはそう言って、自分の髪を撫でた。
――そういえば以前聞いた話だと、テンの帽子には『収納』以外にもいろんな便利な仕掛けがあるらしい。
そのうちの1つが、帽子が脱げにくい仕掛け。少し強めくらいの風では、帽子が飛んでいってしまうことはないらしい。
ただ、今吹いているのは、強い暴風雨に晒されたときくらいの強さのある風だ。
落とすわけにもいかないので、今は帽子を被っていない。
「……それで、一体どこにしまってるんだって話なんだけど」
俺は思わず苦笑いをして、隣りにいるテンを見た。
「……あーあ。隣にレイさんがいれば、最高なんだけどなー」
――あ。テンがちょっとしんみりしちゃってる。
「お前、レイのこと諦めてないんだろ?」俺は、風に負けない大声でテンに言った。「レイと一緒にいられるようになったら、またこのかごに乗せてもらえばいいんじゃないか?」
「そうだね!」
一方、俺とテンがしゃべりながらはしゃいでいる後ろで、カヤが月の神の様子を観察していた。
「少しずつ、大きくなっている気がする……」
「……成長しているってこと?」テンはカヤに話しかけた。
「成長というか、風船みたいに膨らんでいるというか……」
言われてみれば、今の月の神は、片手では掴みにくい大きさになっていた。
「……回復するにつれて、どんどん大きくなっていく感じなのかな?」
「まあ。俺が最初に見たときは、体当たり一発でレンガの倉庫を破壊していたからな」
「……それ、随分な大きさだね!?」
やがて、眼下に平野が広がるようになった。
そこには、曲がりくねった大きい川が流れていた。
「……その川に沿っていったところに『セメレ』はある」
出発する前、モルガンはそう言っていた。
「このあたりも乾燥しているみたいだけど、川が流れているせいか緑も結構あるね」
「そうだな」俺は周囲を見渡した。「遠くに山脈も見えるな」
「あのあたりに『月の神殿』があるのかな?」
「わかんねえが、『ウェヌス』の近くにあるって言ってたよな」
俺は下を見つめた。モルガンの大きな影が、地面を滑るように進んでいく。
その影に驚いたのか、たまに木にとまっていた鳥が飛び立つ様子も見られた。
俺は、自分に言い聞かせた。
「俺がとった行動は、正しかった。最後にはみんなと再会して、絶対いい未来が待っている」
きっと――今想像しているより、はるかに幸せな未来だ。
だって。俺たちは『最良の選択』をしたんだから。




