306話 6月21日#03
それからしばらく静寂が当たりを包み込み、それを確認したカヤは盾をしまった。
「助けが来た時、この盾が逆に邪魔になるんです」
「そうなのか……」
「助けが来るのは、午前11時ちょっと過ぎくらいです。それまで、わたくしたちにできることは何もありません」
「11時……」テンは、懐中時計を取り出して時刻を見た。「あと1時間半くらいだね」
「まあ、少し体力が回復するまで、ここでゆっくり休むか」
その後、またカヤは瞑想みたいなことをしだし、テンは縫い物の続きをしていた。
少しは気持ちが逸れるかと期待して、テンに声をかけた。
「なあ。一体何を作ってるんだ?」
「……ぬいぐるみ」
テンは少し暗い目をしていたが、優しく微笑んでいた。
「ホントは『クアッカ』作ろうかと思ったんだけど、難しいから普通のワラビーにした」
――あ。これは、訊かないほうがよかったかも。
「あ、大丈夫だよ。僕、まだレイさんのこと諦めてないし」
テンはちらりとこちらの顔を見た。
「僕より君の方が心配だな」
「……そうか?」
「3人を見捨てなきゃいけなかったんでしょ?」
「……そうだが」
「『3人を助ければよかった』って、バッチリ顔に書いてあるよ」
「………………」
なるべく考えないようにしていたつもりだったんだが。
「3人に何が起こったのかわからないけど、何らかの原因で動けなくなっている人を抱えて、崩れる『塔』から脱出するのは、不可能だったと思うよ」
「でも、リアくらいは助けてやれたかも……手が届かなかったから助けてやれなかった……」
「邪魔なものがあちこちに散乱している中では、なかなか難しかっただろうね」
テンは、縫っていた『ワラビー』を膝に置き、俺の肩を軽く叩いた。
「君、正義感も責任感も強そうだから言うけど、今回はどう転んでも悪い結果に終わることになっていたんだよ。僕たちが他の選択肢を選んでいたらどうだったかとかはよくわからないけど……でも、僕たちが実際に選んだ道では、とりあえず月の神様はここにいるんだし、『星座の石』もいくつか手元に残っているし、完全に行き詰まっているわけじゃないと思うんだ」
「……まあ、そうだな」
「あんまり1人で抱え込まないでね。まだ僕たちにはやれることがあるから、それやろう?」
「そ、そうだよな……」
普段、テンの方が心が繊細で落ち着きがないせいか、そのテンに慰められると、「今の俺、本当に余裕がないんだな」と実感する。
「……テンの言うとおりだ。これからやれることは、まだ残っている」
俺は自分の両頬を平手で叩いた。
「……大丈夫だ、まだやれる」
俺はテンのそばから離れ、とりあえず剣と弓の手入れをすることにした。




