301話 6月20日#34
街にはバリアが戻っていて、もうモンスターの姿はなかった。
戦いは終わったように感じられるが、人の気配が全くない。
俺たちは怖いくらいしんとした通りを、北に向かってゆっくり歩いていった。
「……あの、」俺はまだ、カヤにどんな接し方をすればいいのかわからなかった。
「どうかしましたか?」
「よ、よくわからないんだけど、その……『塔』から離れてよかったのかなー、と思って」
「……わたくしのことですか」カヤは目を伏せた。「確かにこのまま『塔』に戻らなかったら、いつかあの『湖』は消えてしまいます……でも、」
カヤは目を伏せた。
「現時点でわたくしにできることはほとんどありません。まだ近くに敵がいることを考えると、しばらくわたくしは留守にした方がいいと判断しています」
「『敵がいる』って……具体的に誰?」と、テンは訊ねた。
「お二人が会ったかどうかはちょっとわからないのですが……ユスティティアの民族の方が、ここにまだ残っていて……」
「…………エステル?」
「……そうですね。占い師の方です」
「『エステル』って……えっと……」テンは額に手を当てた。
「街へ入る『検査』をしていた人だ」
「あー、あの人」
テンは、こちらを振り返った。
「……会ったの?」
「ああ。俺が破壊した飛空艇の中にいた」
「やはり、それもわたくしの予想どおりです」
カヤは、前を向いて歩いているように見えて、その目に映っているのは遠くのどこか別の場所のようだった。
「実は、適切な魔力を伴った占いはわりとよく当たるんです」と、カヤは言った。「わたくしほどではありませんが、未来を視て、だいたいの予測を立てることはできます。おそらくその占い師でも、あなたが飛空艇に侵入することくらいはわかっていたはずです」
「………………」
――まあ、片手を縛り付けられていたが、いろいろ不審点も多かったからな。救命ボートのところにいなかったとか。
「……ただ、攻撃する力はないので、直接わたくしたちに危害は加えないでしょうが……1人でいるわけではないので、できるだけ見つからないように動く必要があります」
「……それで、こんな曲がりくねった道を……」
俺たちはメインストリートではなく、路地裏のどこかを歩いていた。カヤは『塔』に引きこもっていた割には、この街のことをよく知っているようだった。
「……まあ、練習がてら、街の中のいろんな人の未来を視ていましたので」
それからしばらく、俺たち3人は口を閉ざした。




