300話 6月20日#33
「……伏せて!!」
聞き慣れない女性の声が聞こえてきた。俺はわけもわからず、言われたとおりに伏せた。
そして、
――ズドーーーン!!!
頭の上に、何か大きな圧力を感じた。
「ううう……!!」
見上げると、先ほど俺の近くで倒れていた女性がかなり大きな盾を上に掲げて、俺たちを何かの魔法から守っていた。盾は銀色で、随分分厚い。
俺は立ち上がり、女性の盾を一緒に支えることにした。
やがて圧力は止まり、盾が軽くなった。
女性はこちらを見て、疲れた顔を動かし柔らかく微笑んだ。
「助かりました。ありがとうございます」
「もしかして、あんた……」
突然「ズン」と、『塔』が嫌な揺れ方をした。何だか床が傾いているような……!?
「早く!わたくしの盾に乗って!!」
女性は盾を裏返しに床に置き、俺に合図を送った。
「え?あ……ああ!」
俺は月の神を抱えると、一瞬他の3人の様子を見た。
――だが、そのうちの誰かを助けていたら、月の神を抱えている俺が助からない。
俺は諦めて、月の神だけ抱えて盾に乗った。
「『ウォータージェット』!」
――何と、盾の側面から水が噴き出て、『塔』から一気に飛び出していった。
そして、
「『スプリングショット』!」
女性がそう叫ぶと、盾の真下の『湖』の中から、勢いよく水が噴き出てきた。
水はゆっくりと噴き出る量が減っていき、やがて俺たちの乗った盾は『湖』にぽちゃんと落ちた。
よく考えると不思議な話だが、俺たちは盾に乗って、無事『湖』を渡りきった。
俺は後ろを振り返った。『塔』はガラガラと完全に崩れ、もう壊れる前の姿も残してなかった。
「………………」
「…………あ、あの……」
「……あんた、カヤさんだな?」
「え、ええ。カヤと呼んでください」
女性はゴツい盾の持ち主なのに、見た目がめっちゃ可憐で儚い。
「……こうなる未来を予想していたのか?」
「……え、ええ。申しわけありません」カヤは目を伏せた。「あの3人のうち、1人でも助かる未来の先は、どれもよい結果ではありませんでした」
「……そうか……」
俺は、手の中にいる『幼虫』を見つめた。今まで見たことがないほど、大きさが小さくなっている。
「……とりあえず、ここも危険です」カヤは、ある方向を指さした。「あちらの方角に、山があります。元々山賊がいた場所で、いくつか人が隠れ住める岩穴があります」
「そっちへ行くのか」俺は周囲を見渡した。「テンはどこ行った?」
「テンさんは、もうすぐここに来ます……あ、あそこです!」
――と、言われても、暗くてよく見えない。
でも、じーっと見つめていると、確かにそこに人がいる様子が見えた。
「おーい!テーン!!」
大声で呼びかけてみたら、人影が反応した。こちらへ走り寄ってくる。
――やがて俺たちの前に現れたのは、やはりテンだった。
テンは、俺たちの様子を見ると何か察したらしく、一呼吸おいてから言った。
「……『塔』が崩れたのは、そういうこと?」
「ああ。ドゥファンがいて……」俺は下を向いた。「他の3人を助ける余裕がなかった」
「……そう……」
テンは、本当に寂しそうな顔で、『塔』のあった方向を見つめた。
それから、こちらに目を戻し、カヤの顔を見つめた。
「……君は?」
「カヤと申します。『かに座の星霊使い』です」
「そうか、君が……」
テンはふうとため息をつくと、カヤに優しく訊ねた。
「……これからどこへ行ったらいいの?」
「あちらにある、山賊の隠れ住んでいた場所です」カヤは歩き始めた。「山賊が住んでいたのはかなり昔の話なんですが、いくつかまだ使える穴があるので、そこで休みましょう」
カヤが言うには、早めに歩けば問題なく目的の『岩穴』にたどり着けるらしい。
俺たちは、言葉少なく、北部の山を目指して歩き始めた。




