298話 6月20日#31
「はあ、はあ……」
俺は息を荒げながら、自分の目の前の様子を見た。
そこは『湖』があり、その中央に『水の塔』が建っている。
「あの『塔』を駆け上るのはいいが……」俺はあたりを見渡した。「どうやってあの中へ行けばいいんだ?」
――はて。
これは、自分の力ではどうにもできない。
だが、周りに助けてくれそうな人は1人もいなかった。
「みんな、それどころじゃないからな」
街は今、大混乱に陥っていた。あちこちで火の手は上がってるし、たくさんの人が道端で倒れている。
しかも、どうやらモンスターの群れがこの街へやって来ているらしく、俺も走って来る途中で何体か倒した。
「……うーん……」
俺は、足元にあった石を、『湖』に向かって投げてみた。
――ポチャン。
「……やっぱり、深い」
この『湖』を、自分の脚で渡り切ることはできない。
――そういえば、レイとソラは『カヤ』って人の魔法で『塔』へ行けたと言っていた。待っていれば、その魔法を使ってくれるのだろうか?
「……いや、待つだけってのもなあ」
――しかし、いい案は何も思い浮かばない。
俺は仕方なく、草の生えているところへ腰を下ろした。
「……マジでどうしたらいいんだ?」
俺のポンコツ脳では何も思いつかないが、他のみんななら思いつくのだろうか?
――例えばレイは……あいつは、空飛べるんだった。
――ソラは……あいつはあいつでデカいゴーレム持ってるから、自力で何とかしそうだ。
――リアは……「小さいからムリ♡」と言って、すぐ諦めそう。
――テンは……何も想像がつかない。一体どうするんだろう?
でも、テンの方が俺より何か思いつきそうなのは確かだ。
そんなことを思っているうちに、遠くで赤い光が光った。
「……あれ、レイかなあ?」
疲れて脚がガクガクしているが、あっちの方角へ行った方がいいのだろうか?
――あ、待って。立てない。
一度座ってしまったら、立てなくなってしまった。さすがの俺も、もう限界に来ているようだ。
「……もっと鍛えた方がよかったか……?」
――そう思った瞬間、俺は後ろから、誰かに両肩を掴まれた。
「……行くぞ」
「え?」
俺の体は宙に浮いた。
でも、後ろを見ても、誰がいるのかよく見えない。
「うえええ!?」
俺は、戸惑っている間に『湖』の上を飛んでいき、あっという間に『水の塔』のすぐ真下まで辿り着いた。
両肩を掴んだ『誰か』が肩を離してくれたので、俺はくるりと後ろを振り返った。
――そこにいたのは……
「……カラス?」
――いやいや。カラスはもっと小さいだろ。
コイツは、ワシよりずっと大きいんだ。
でも、全身黒い鳥といえば、カラスしか思い浮かばない。
「俺様は『カラス』じゃない!『ストラス』だ!」
「『ストラス』……?」
「人間が勝手に『モンスター』扱いしているが、実際はもっと高貴で気品に溢れた生き物だ!」
「……は、はあ……」
「貴様。せっかく俺様が助けてやったのに、お礼の1つくらいしろよ!」
「あ……ありがとう……」
「俺様は今怪我してて、最上階までは飛んでいけない……後は、自分で頑張るんだな!」
そして『ストラス』は「あばよ!」と、あまり聞き慣れない別れの挨拶を言い残し、どこかへ飛んでいってしまった。
「………………まいっか」
奇妙な手助けがあり、俺は『塔』の中へと足を踏み入れた。
ストラス:俺様がたまたま街の近くを飛んでたら、急に頭がクラクラして、気づいたら街の中にいた。俺様は頭がぼーっとしていて、体が勝手に人間を攻撃していた。そしたらその人間……めちゃくちゃ強くて、俺様を火の渦で焼き焦がしやがった!俺様は気絶して、しばらく地面に寝ていたんだが、はっと目が覚めて、その時には正気に戻ってた。体が痛くてまともに羽ばたけなかったけど、低空飛行していたら、街にあるヘンな『塔』をぼんやり見つめて「どうやってあの中へ行けばいいんだ?」ってつぶやいている人間がいて……ま、俺様高貴だし?その人間に手を貸してやろうと思ったわけ。決して、罪滅ぼしとかではないぞ!




