285話 6月20日#18〜僕の本性③〜
「ぐ、ぐはっ……ぐっ!!」
シーラは本当につらそうに、地面に倒れていた。
「な、何で!?」槍使いたちが、みんなじりじり後ろへ下がっている。「『霧の肉体』の効果がない……!」
「……なんだ。みんな結構ビビリだな」
僕はそう言いながら、鼻で笑った。
「……『オリハルコン』か」シーラが、荒い息を吐きながら言った。「魔力を吸収するらしいが……値が張るだろ?一体何発持って……」
「……全員分ある」と、僕は言った。「あと、オリハルコンなのは、弾頭の先だけだ。値段は、1つで普段の食事5食分くらい。ひと月くらい食べる量を減らせば、弾を半ダースくらい手に入れられる」
「……『全員分』?」
「ああ。1人1発ずつ、全部で6つ」僕は銃を軽く叩いた。「ちなみに、既に再装填済み」
全員が、戦慄の表情を浮かべた。
「じゃ。希望者から順番に殺してやるけど、誰からいく?」
「「「「「「………………」」」」」」
少し間が空いて、
「はああああ!!」
突然、1人の槍使いが、僕に向かって走ってきた。
――ズダンッ!
僕はためらわず、槍使いの心臓めがけて銃を撃った。
――けど、シーラが棒状に固くなった布を僕の足に引っかけたことで、僕は体勢を崩し、銃弾の軌道が逸れた。
槍使いは脇腹をえぐるように銃弾を浴び、その場に倒れた。
――いや、ホントに気をつけてよね。このモードの僕、マジで平気で人殺すから。
「ちょっと、あんた!」別の槍使いが、倒れている女のそばに寄った。
「な、何とか、大丈夫……」
かなり血を流しているけど、話はできるみたい――死ななくて、よかった。
「……貴様!」
怪我をした女の隣へ駆け寄った槍使いは、槍を手に、ずっとこちらを睨んでいる。
「……お前もこの銃弾の餌食になりたいか?」
僕がそう言うと、少し間が空いて、女は槍を捨て、倒れた女を肩で支えながらその場を離れた。
「……ちょっと!待ちなさい!」
「「「………………」」」
他の3人は、ぼーっとその姿を眺めていたが、ある時、突然槍を放り投げた。
そして、次々と、その場から逃げていってしまった。
「あんたたち……!」
シーラはしばらくぼんやりしていたが、突然僕の方を振り返り、ギロッと睨みつけた。
「き、貴様……一体何なの……!?」
「……それ、お前の能力でわかるだろ?」僕はその場にしゃがみ込み、シーラの顔を見ながらため息をついた。「わざわざ俺の口から言う必要ある?」
「ええ。そうね」シーラは歯ぎしりした。「一部だけね。あなたがどんな能力を持っていて、どれだけ強いか……あなたがどんな環境で生まれて、どんな修羅場を乗り越えて、どれだけ人格がねじ曲がってしまったか……」
「『ねじ曲がった』は、ひどいなあ。レイさんたちには『人格者』で通しているのに」
「……あたくしが言うことじゃないかもしれないけど……このままだと、あなたはいつか、彼らからの信頼を失うわよ?」
「あー。それは、そうかもな……」
僕はぼんやりと空を見つめた。
「他の人はともかく、レイさんを裏切らなきゃいけなくなったら……」
「……アリエスが、あなたの元へ帰ってきたらの話よ?」
「それもそうだな……どっちにしろ、俺はいつかレイさんと別れなきゃいけないのか……」
――テンは悪い人じゃないから、何が起こっても大丈夫だ。
レイさんの声が、頭の中で響いた。
――彼女は頭いいし、直感力も判断力も高い。何かしら感づいているのかもしれない。てか、絶対気づいてる。
正直、別れたくない。こんなに仲良くなったのに……こんなに愛せるようになったのに……
――そんなことを思ってしょげていたら、シーラに銃をひったくられた。シーラは僕の方に這いずって近づいた。
「いいことを教えてあげるわ」シーラは目をらんらんと光らせて笑った。「あたくしに協力すれば、あなたがアリエスと一緒にいられる未来を作ってあげられるわ」
僕は、黙ってシーラを見つめた。
「あなたやアリエスの魂を、現世に縛り付けるの。肉体が欲しかったら、今の『若く美しい姿』で復活させてあげるわ。これから、『もしかしたら』世界は壊れるかもしれないけど、あなたはそれすらも乗り越えて、永遠にアリエスのそばに……」
「……そういうの、止めてくれる?」僕はため息をついた。「『魂』だの『復活』だの……結局ゾンビにされるってことじゃない」
「あなたが思っているようなものじゃないわ。ちゃんと意思もあるし、喜びも快楽もちゃんと……」
「残念だけど、僕、そういうオカルトに興味がないから」
「……あら、そう」
シーラは、銃を構えた。
「……じゃ。さっさとここで死になさい!」
「………………」
「来世では、会えるかもしれないわよ?」
「…………もういいや」
「……え?」
「僕……もう考えるのやめた」
こちらを不思議そうに見つめるシーラに、はっきりと宣言した。
「……僕は、僕のしたいことをする。僕の望む未来を手に入れるために戦う」
「………………」
「考えてみれば、レイさんの考えってそのくらいシンプルなんだ。だから、決めた。僕は……」
僕が立ち上がって指をパチンと鳴らすと、シーラの体が足のつま先から凍り始めた。
「あんた、何を……!?」
「僕は、月の神を助ける。その邪魔は、誰にもさせない」
僕は、にっこり笑った。
「レイさんも、きっと同じこと考えてる……今は、それだけで十分だよ」
「……あなた……」
――あれ?ホラー映画耐性マックスのはずのシーラが、怖がってかたかた震えている――それとも、氷のせいで寒くなったのかな?
シーラが取り落とした銃を拾い上げ、僕は、もう一度パチンと指を鳴らした。
「……とりあえず、そこで反省してなよ。しばらくして、忘れてなかったら融かしてあげる……慈悲で怪我は治してあげるけど、命の保証はしないからね」
――もう頭のてっぺんまで凍ってたから、もしかしたら聞いてないかもしれないけど。
後ろを振り返ると、怪我をした女を含め、槍使いは全員いなくなっていた。
この場にいれば治してやったのにな……と思いながら、僕は自分の仲間を探してその場を去った。
――ちなみに、この後1時間ぐらい経って、ようやくシーラのことを思い出し、氷を融かしてあげたけど……星霊使いだし、死んでないよね……?




