284話 6月20日#17〜僕の本性②〜
しっかし、何でこのタイミングで発動しちゃったんだろう……?
思えば、今はレイさんもカイト君もソラちゃんもリアちゃんもピエール33世君も近くにいないし、今の僕、ちょっと心が不安定だもんねー。
だって、もし『最悪の事態』が起こったら……でもまあ、事前に心の準備ができてるから、少しはましになってるかも。
でもなあ、後悔だけは残ってる。やっぱり僕、運のない人なんだな……
「……やはり、貴様もただ者じゃなさそうだ」ピスケスも、わりと本性出してる。「でも、だからこそ、殺し甲斐がある」
「『美女アピール』する女が『殺す』なんて言葉使うと、興冷めする」
「……だいぶあたくし、嫌われてるわね」
「お前のことを好きになる奴があるか」
「それが、結構いたりして」ピスケスはそう言って、布を広げた。「あなたも、そのうちの1人になるのよ」
その布は、かなり大きく広がった。先ほどは棒状に丸くなってたのに……
布は僕の頭にかかり、僕は周りが見えなくなった。僕は抜け出ようとしたけど、この布が意外と薄くて柔らかく、なかなか抜け出られない。
「『テンプテーション』!」
急に布がほのかなピンク色に変わったように見え、甘ったるい匂いが鼻孔をくすぐる。
しばらくしてようやく布から出られたけど、僕はピンク色の霧を吸って頭がくらくらしていた。
そして気づくと、僕はピスケスとお供の槍使い、全部で6人の女性に囲まれていた。何か、近くて威圧感すら感じられるんだけど……
「……お兄さん、」1人の槍使いが話しかけてきた。「よく見ると、あなた顔がきれいね。ものすごーくハンサムよ!」
「そうよね!しかも、戦いではなかなかお強いようだし」
「仲間想いなのね。「ここは僕に任せて!」とか、かっこよすぎでしょ!」
「そんな完璧な人、なかなかいないわよ?惚れちゃった!」
「ねえ。私たちと遊びましょう?戦いなんか止めて……」
――何だろう。この人たち、急に僕を口説き始めた。
しかも、霧は晴れたけど甘い匂いがまだ鼻の中に残っていて、頭がぼーっとする。
「……そうよね。月の神も何もかも忘れて、あたしたちといるの、すごくいいと思わない?」
「そのつらい現実から、あたしたちがあなたを解放してあげる」
「絶対その方が楽しいわ!」
「私たちなら、あなたを幸せにしてあげられるし!」
「少しだけでいいから、一緒にいましょう?」
そこへ、ピスケスが参戦してきた。
「あなた、ホントいい男ね」さっきまでと態度が180度違う。「こんな人が戦いに明け暮れているなんて、変な世界よね?」
――それ、僕が自分に言いたい。
ピスケスは僕の銃を押しのけて言葉を続けた。
「今度からあたくしのことを『シーラ』と呼んで。『シーラ・アルレシャ』、それがあたくしの本名……」
「……『シーラ』か」
「そうそう。それなら、あたくしも受け入れられるわ」
「……で、」僕は、ジトッとピスケスことシーラを睨んだ――シーラの魔法の効果が切れ始めた。「何が言いたいんだ?」
「忘れなさい、仲間のことは」シーラが、勝手に人の腕に触ってくる。「あなたには、もっと大切なことがあるでしょう?」
「「「「「あたしたちと一緒にいれば、願いが叶うわよ」」」」」
――何が叶うって?
この人たち、絶対何か勘違いしてる。
僕が叶ってほしいと思っている願望は、ただ1つ。
そして、それはきっと……
「……あなた、そんなに『おひつじ座の星霊使い』のことが好きなの?」シーラが、不思議そうに僕を見つめた。「あたくしの魔法もあんまり効いてないみたいだし、随分べた惚れしてるみたいねえ?」
――人の心をむやみに覗くなんて、失礼な奴だな。
そのシーラが小さな声で、僕の耳元に何か囁いている。
「あんな色気のない女のことは忘れましょう?あなたみたいなイケメンを無視し続けてる無粋な女を追いかけても、しょうがないでしょ?どうせここで死ぬし……ね?あたくしたちの方がよほどあなたを大切にしてあげられるわよ?」
――で、他人の体を勝手にベタベタ触ってくる。
正直、めっちゃムカついた。
僕のことを完全に見下しているし、何より…………
――僕は、素早く後ろ手で銃の薬室を回転させた。
「ね?わかるでしょう?あの子を籠絡させるのより、ずっと労力が少なく……ぐはっ!!」
シーラは、地面に倒れた。僕が銃を撃ったから。
銃弾はシーラのお腹をえぐり、どうやらそのままお腹の中に残ったようだ。
「……え、何で……?」
他の槍使い軍団が、僕から離れていく。なぜなのかは、僕もわかっている。
「き……きさ、ま……」シーラの傷口から、かなりの量の血が出ている。「待って。何であたくしの体に、弾が……?」
「ふはは!」僕は、普段は絶対笑わない笑い方をして、包囲網から脱出した。「なぜ体をすり抜けないのか、不思議だろ?」
槍使いたちは、再び槍を持った。でも、何か様子がおかしい。誰もその場から動こうとしない。
「……いいか?」僕は、シーラと槍使いたちの方を振り返った。「絶対に俺の前でレイさんを侮辱するなよ?でないと……いや、もう一線越えてるな」
僕は素早く再装填して、女たちに銃口を向けた。
「……1人ずつ、地獄へ堕ちろ」
――ほら、面倒くさい。
でもまあ、レイさんのこと、忘れてないみたいだからよかった。
そこ、一番重要だからね。
テンのこのモードのことを説明すると長くなるので、この話では割愛しました。
いつか機会があれば書いてみようかなと思っています。




