281話 6月20日#14
「これから私は『水の塔』へ行く」と、レイは俺に話しかけた。「カイトはどうする?一緒に行くか?」
「……いや」俺はふうと息を吐いた。「たぶん、俺が階段を使ってあの『塔』を上るってことは、レイと一緒には行かないってことだろう。先に行け」
「……ラジャー」
いつもより気合の入った声で返事をすると、レイは宙を飛んで、夜の闇の中へと消えていった。
「……とりあえず、テンを探すか」
あちこちで燃え盛る炎のおかげで、霧はほぼなくなっていたが、もしかしたらまだゾンビと戦っているかもしれない。
「あの公園は……こっちか」
まだ点いている街灯の明かりを頼りに、公園があるはずの方向へ歩いた――さすがに、疲れて走れなくなってきている。
やがて公園の場所を知らせる看板を見つけ、そちらへと向かうと、暗闇に人影が立っていた。
俺はその人に近づいた。誰なのかは、顔が影になっていてわからない。
しかし、その人の服装がわかった途端、それが誰かも、すぐにわかった。
「……テン!」
間違いない。モーニングコートを着ているし、頭にシルクハットも被っている。
――ところが、俺が近づくと、テンと思われる人影が不穏な動きを見せた。おそらく、俺に銃を向けている。
「……て、テン……?」
俺が後ろに下がると、その人影は前に出てくる。
そして、その人影の持つ銃が街灯の明かりに照らされた瞬間、
――ズダン!!
銃声が響き、俺は、
「……いってえええ!!!」
自分の額を両手で押さえた。
今、発射されたのがゴム弾だと悟ったのと同時に、人影が大きな声で笑い出した。
「あっはっはっは!カイト君、いい顔するね!!」
「……おい、テン」
「君の戸惑った顔、とってもステキだったよ♪」
「……殴るぞ」
暗がりから、テンが姿を現した。さっきまでゾンビ相手にサバイバルをしていたとは思えない、きっちりとした服装と満面の笑みで、俺を見つめていた。
「今のは、一体何のマネだ?」
「いやあ、だってさ、」テンは、にこにこ笑った。「これから僕が経験することって、『最悪』じゃない?こんなことでもしないと、心が保たないというか」
「テン……」
よく見れば、テンはどことなく哀愁のような雰囲気を漂わせていた。きっと、心の中は不安だらけなのだろう。
「あの飛空艇、レイさんが破壊したの?」
「……最終的にはな」俺は、飛空艇のあった方向を見つめた。「その前にエンジンルームを壊したのは、俺だ」
すると、テンが唇を突き出して拗ね始めた。
「もしかして、レイさんに会えたのー?……カイト君に任せず、自分で行けばよかったぁー」
「……まあ、俺もお前と交代してやりたいと思ったが」
――手を繋いだとか言ったら、今度は実弾を向けてくるかもしれない。
「まあ、いいんだけど」
テンは俺に手招きをして、公園の外へと歩き出した。俺はその隣を、ゆっくりと歩いていった。




