280話 6月20日#13
1つ上の階に上がると、片側の壁に大きな棚が並び、そこに何かが詰め込まれている廊下に出た。
エステルさんが言ったことを考えると、この詰め込まれている物は、全て『救命ボート』なのだろう。ウチのピエール号にも、似たようなものがいくつかあった。
エステルさんは、ここにはいなかった。俺は『救命ボート』を見つめた。
「時間がねえし、使い方もわからん」
俺は『救命ボート』を広げる場所と思われる、外への出入り口の方へと向かった。
扉を開くと、冷たい夜風が俺の髪を撫でた。船がどんどん傾いているので、もう少しで俺が転げ落ちそうだ。
「こうなったら……!」
船はバランスを崩して、ゆっくりと旋回している。そしてその真下あたりに、小さいが明るい2つの明かりを見つけた。
俺は再び、大声で呼びかけた。
「れええぇぇぇええええいいい!!!」
俺の叫び声に、その2つの明かりが反応し、揺れ動いた。
俺は、飛空艇から飛び降りた。風が下から吹き上がり、落ちる速度がぐんぐん速くなった。
――と思ったら、誰かが俺の右手を握った。俺の落下速度が、ゆっくりになっていく。
「……落下するの、怖かったんじゃないのか?」
俺の手を握った人物――2つの明かりを耳にぶら下げている人物――が、不思議そうに話しかけてきた。
「……レイがいれば、別の話だ」
突然、レイは俺を前方へと引っ張った。今度は横方向へ飛んでいく俺たちの後ろで、飛空艇から、積んでいたいろんなものが落ちてきていた。
「……結局、目的は達成したのか?」
「ああ」俺は後ろを振り返った。「もう1つ、頼みごとがある」
「何だ?」
「あの船を爆破してくれ。モノが全部落ちるよりマシだ」
「……了解」
レイは右手に大剣を持ち、魔法の名前を叫んだ。
「……『おひつじ座の怒り』!!」
すると、夜空に巨大な円盤が現れた――それも2つ。どちらも燃えている。
その円盤が、飛空艇を挟み込んだ。
そしてそのすき間に、先端が鋭く細長いもの――槍――が刺さる。こちらは8本。当然のごとく燃えていて、中心にある飛空艇に突き刺さった。
そして、その円盤と槍が、ぐるぐる回転し始めた。まるで、歯車がついているかのように、全体が連動して動いていた。
「す、すげー……」俺は目を見開いて、その様子を見つめた。
やがて、飛空艇の中にあった何かに引火した。船は大爆発を起こし、燃えてバラバラになって地面に落ちていった。
――思えば、落下物はもれなく燃えているが、大丈夫なのだろうか?
そう思った瞬間、ザーッと雨が降り出した。結構な雨量だ。
「……たぶん、カヤだな。たぶん」
――星霊使いの守る街。
「……なるほど」
ただ、水を供給しているだけじゃなかったんだな。
俺とレイは、その街の地面へと下りていった。




